第11回 旧友へ相談してみる

 ディフィトの姿のことが何とかなったので今は霧人が人間として生きるためのことを教えている。

 結構優しい感じだ。私には厳しかったのに。


 元ダンジョンの魔物であるディフィトだが思ったより人としての常識も備えていた。

 日本語をどこで学んだのか聞いたが本人曰く生まれた時から知っていたので分からないそうだ。疑問に思ったこともないらしい。


 確かに私も私が生の君臨者で地の頂点であるのは産まれた時より決まっていたことだ。

 そうあるように産まれた、それだけのこと。


「…って感じなんだよね〜。キミはどう思う?ハスハスー」


 私は今日あったことの顛末を画面越しの相手へと語り終え、意見を問うた。

 通話相手は私の甥にして番(この言葉が正しいかは不確かだが人間的感覚では正である)の黄衣の王、『ハス』である。


 因みに本名を出すのは控えている。今は2人とも化身の状態だから。


「…シュムの言う通り生まれながらにして知識がある事に違和感を覚えるのも分かる。けど俺の父の空虚が存在ではなく空虚として産まれた様にそのトカゲ君も知識がある生物として産まれた、それだけのことじゃないか?」


 成る程、言われてみればよっぽど私や私の兄に親の方が不思議な生まれをしている。

 これはもうそう言うものとして納得するしかないのだろう。


「じゃあさじゃあさ、ハスハス的にはどうなのー?」


「何が?俺は今も昔もただ支配者として支配者らしくそうあるだけだ」


 おぉ、さすが支配者たらんとして善なる神(笑)に喧嘩を売っただけはあるな。強い意志の感じるセリフだ。それで封印されてるのだからお笑い種だが。

 けどそう言うことが聞きたいわけじゃない。


「違う違う。その話じゃなくてダンジョンを作った神性に心当たりないのー?」


「あ、あぁそっちか。残念ながら何も、でも力的には父やその世代の関与を感じるな」


 勘違いの羞恥で頬を少し染めながら話すハスハス。

 ふむ、思ったより人間の化身精度が高いな。いや、これはもしや?


「ねぇ急に話変わるけどさー。もしかして今なんか人間の体乗っ取ってるー?」


「ん?あぁ、今は通りすがりの人間の体を借りてるところだ。俺は化身になるのがヘタクソだからな、こっちのが手っ取り早い」


 道理で人の真似が上手いわけだ。人そのものを使ってるのだから。


「あんまり無闇矢鱈と人を殺さないでねー?」


 人1人の命などどうでも良いがあまり殺されると私が困る。配信を見る人が減っちゃうだろ。


「ははっ、俺だって鋭角のやつらみたいに生命が憎いわけじゃない。必要最低限だ」


「…ほんとー?」


 懐疑の目で画面越しのハスハスを睨みつける。するとふいっと顔を逸らされた。

 その反応は無闇矢鱈に人殺しするやつじゃないか。


「ぜ、善処する」


「…はぁ。ま、キミのことだからどうせ水の子関係だろうけど。あの子一応私の孫にも当たるからあんまり敵対してほしくないんだけどねー、ハスハスあの子の叔父さんでしょー?」


 ハスハスは水の子とずっと、それも人間という生物が生まれる前から敵対している。

 私も理由は知らないのだがわざわざ何年も争う必要はないと思う、のだけど本神達はそうはいかないらしい。


「その叔父という表現が正しいかどうかは分からんがその面もある。けど俺とあいつはどちらかが死ぬまで敵対し続ける運命だからな、どうしようもない」


「そっかぁ。それなら仕方ないねー運命ならねー」


 永劫の時を生きる神のくせして下等生物の子供みたいに頑固な子達だ。

 そこそこの距離感でいれば良いのに。


「そんなことより!ダンジョンについて俺に聞きたかったからわざわざ電話なんてよこしたんだろ!?」


「え?でも心当たりないんでしょハスハスー?」


 最初に心当たりはないと言っていたじゃないか。てっきり私はもう雑談フェイズに入ったと思っていたのだが。


「いや、噂程度でいいなら今一つ思い出した。文字通り風が運んだ噂だけどな」


「ん、聞かせてー。今は少しでも情報が欲しいからー」


「あぁ、吸血鬼って知ってるかシュム?アイツらが関係してる可能性があるらしい」


 ほう、吸血鬼。霧人や他の始祖共に起源が謎の生物。まさかだが確かにありえないとも言い切れない。


「同居してるよー、その始祖の1人とね」


「なに?まぁいい。その吸血鬼だがある年に突然地球に発生したんだ、それと同時期にダンジョンが地球に現れた。偶然とは思えないだろ?」


 うん、確かに偶然としては出来すぎている気もするがそれだとひとつおかしな点がある。


「力が弱すぎない?吸血鬼って始祖でも『無窮にして無敵の存在(笑)』君の半分か良くて少し上回る程度の力しかないんだよねー」


「誰だそれ?確かに俺も始祖とやらを1人だけ見たことがあるが俺の息子の半分の力もなかった、だから最初に言った様に噂程度だと思ってくれ」


「息子ってそれイタカ君のことでしょ?流石にそれと比べるには吸血鬼達は弱すぎないー?」


 風の王の息子と比べたら殆どの存在が雑魚みたいなものである。それにイタカは私の子でもある、それに比べられる方が可哀想というものだ。


「ま、噂だからな。少し長く話しすぎたな、そろそろ通話切るぞ」


 少し申し訳なさそうにいうハスハス。

 噂程度でも構わないと言ったのは私だし文句はない、だから申し訳なさそうにしなくても良いのだが別に言う必要もないか。


「ん?あ、もう1時間も経ってたか。じゃばいばいー」


「あぁ、今度はどっかで会おう。またな」


 プツッと電話を切ってスマホをベットに放り投げる。ナイスコントロール。

 そしてそのまま私もベットに倒れ込んだ。


「吸血鬼か、その可能性も考えてたけど…」


 霧人がダンジョンに関係しているのかどうか。もしそうだったら…


 いや、まて。これは別にどっちでも良い話だな。元よりダンジョンの正体が気になるのは好奇心からだし。


「明後日のダンジョン配信どうしよっかな」


 結局わかんないことだらけなので取り敢えず目先のことを考えて私は寝た。

 寝なくても良いんだけどね。神だから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る