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花野井あす

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真夜中の零時。

いやにはっきりと意識が覚醒した。


つい先程まで眠れぬ、眠れぬと悩んでいた筈なのに。何時の間にな寝落ちていたらしい。


否。寝落ちた自覚はあるのだ。薄っすらと、私はある御人へ文を出すべきか出さぬべきか、思いあぐねていたのを覚えている。


寝落ちていたにはあまりに時の短かすぎる。私の眠りへの奮闘と、非現実での思案はこんなにも一瞬のうちに行われたことなのか。


待てよ。そもそも。

私は眠っていたのか。

この時計は正しいのか。


私はいつもの思い込みでものを考えているのではあるまいか。


私は眠れぬまま、妄想の世界へ浸っていたのではないであろうか。

不眠な私の脳が、現実と虚構を織り交ぜ、思い違いを誘ったのかもしれない。


この時計はずっと夜中の零時を生きているのではないであろうか。

故障して永遠に同じ時を流れるスマート・フォンなのかもしれない。


近所の駅からアナウンスの音がする。

終電を報せているようなそんな言葉に聞こえるが、実は始発列車なのかもしれない。


朝の五時に洗い終えるようセッティングしておいたはずの洗濯機が動き始めた。

スイッチを押したのは夜の十一時近く。

早すぎではあるまいか。


時計が誤っているのか。

私が誤っているのか。

すべてが誤っているのか。――はたまた、すべてが正しいのか。


心の臓が脈打ち、心が落ち着かない。

眠気はなく、まるで起床する数分前の如くクリアな思考。


ああそれとも。

私は歪んだ空間へ迷い込んだのか。


此処は朝の五時と夜の十一時、そして夜中の零時の混ざった世界。


すべての時計や時空間を掻き交ぜて出来た世界。


この世界には過去や未来、現在はない。

この世界には長さも重さ、量といったものは無意味。


正しく行進していたはずの時間は捻じれ、捩れて。

私の時は流れながらにして戻り、止まり、そしてまた進む。


私の時間は単位の無い混沌の世界に囚われてしまったのだ。

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