15
中学校卒業の翌日。二人はふもとの無人駅に来ていた。ナギは重そうな荷物を抱えていた。二人は駅のホームに並んで立っていた。
「ナギってさ」
「なんであたしなんかのことが好きなの?」
ナギは少し赤くなって、恥ずかしそうに答えた。
「ニノの可愛い耳も、しっぽも、ふわふわの毛も、全部大好きだ」
「でも一番好きなのは、ニノの心の強いところかな」
「僕はずっとニノに支えてもらってたし、背中を押してもらってた」
ニノの耳がぴょんと立った。それを見て、ナギも嬉しくなった。
******
ニノとナギは、お互いの心音を確かめ合うように、長いあいだ抱き合っていた。そして何回かキスをした。ナギはもう泣かなかった。優しい粉雪が二人を包んでいた。
やがて、線路の向こうから札幌行きの電車がやってきた。
「じゃあね」
「あたしは大丈夫だからさ」
「うん」
「ちゃんと東京の会社入んなよ」
「うん」
ナギとニノはまっすぐ見つめ合った。彼らの瞳の色は互いに少しずつ違っていて、彼らは互いの瞳の色が大好きだった。やがてニノが恥ずかしそうに口を開いた。
「それでさ」
「お願いがあるんだけど」
「何?」
「いつかあたしのこと、迎えに来てよ」
「うん」
「わかった」
「ぜったい。約束ね」
そうして電車はナギを飲み込んで、行ってしまった。
ただ、私たちがそこにいたことを残したくて 星宮獏 @hoshimiya_baku
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