第4話 キミとの雨

 妹が拍子木を両手に持ち、キミの前に出てきてしゃがみ込む。


 カンッ、カンッ!

 拍子木を打つ渇いた音が姉妹とキミの三人しかいない夜の公園に再び響いた。


東西とざい、トーザイ、このおんにぶらさげますのは仁輪加にわか標題ひょうだい。キミとの雨、キミとの雨。あいえんじまするわ『キミの事が好きな私たち姉妹』。まずは口上こうじょう、後はなにやらかやらめちゃくちゃのはじかまり、東西、トーザイ」


 最後の「東西、」で大きく打ち、小さく鳴らしながら妹が戻って行った。


「おーおー。今日は大雨、風もつよーて、こりゃ帰れんなも」


 姉が出てきて空を見上げて、手を空に翳す。


『やぁやぁ、姉さん、こんな所で何をしてなさるんかな?』


 妹も出てきて二人の仁輪加が始まった。


「これはこれは妹はん。おまはん、いいところに来たなも」


『ほう。いいところとはどういうこっちゃろう』


「これを見てくんせぇ」


『おぅおぅ、これはなかなかに激しく降っとんさるわな』


「わっちも傘を持ってきたんやがな」


『そうかな。なら早う下校するなも』


「ちょ、ちょ、ちょと、ちょっと待ちんせい」


 姉が傘をさして歩き出す妹の腕を掴んで止める。


『何やな、どないしてわっちを引き止めるんやな? おまはんも傘を持っとるやないかな」


「この傘はなあ、実は日傘でこんな雨の日に使えんのやな」


『はぁ。このポンコツ姉が、またポンコツやらかしたんやな』


「そんなポンコツポンコツ言わんといてくんせぇ。いくら可愛いわっちの妹からでも傷つきもするなも」


『ほう。そんなこと言わっせるけど、普段から生意気だのなんだのと、おまはんが言うとるのは知っとるなも』


「いや、それには事情がなも」


『黙っちょんせえ。言い訳なんぞ聞きたくないなも』


「ほな、わっちがキミに教えてもらった鮎の食べ方の話をしちゃるから、一緒に雨宿りしてくれんかなも」


『⋯⋯そうかな、仕方がないなも。はよう話んせぇ』


「その日もなも、雨がひどくて雨宿りをしちょるわっちがいたんやがな」


『ほう。今日と同じで日傘でも間違えて持ってきたんやな』


「⋯⋯おまはん、わっちのポンコツ設定からいい加減に離れたらどうやな」


『ポンコツやからしゃーないなも』


「⋯⋯そんなことより、おまはん、鮎って知っとるやろ?」


『川魚の高級魚やな。塩焼きで食べると美味しいと有名やなも』


「ほんなら、なんで鮎は美味いのか、おまはん知っちょんさるんか?」


『そんなもん決まっちょる。鮎は成魚になったら苔や藍藻しか食べんから臭みがないなも』


「さすがは本の虫やなも。よう知っとるなも」


『お土産で甘露煮にもされちょるなも』


「なら他の食べ方もわかりんさるかなも」


『いや、思いつかんなも。それがおまはんがキミに教えてもらった食べ方かなも」


「そうやな。わっちとキミの二人で花火大会の会場のへと河原に行ったんやがな」


『⋯⋯おまはん、それは抜け駆けやないかなも』


「時系列的にノーカンやなも⋯⋯それに、雨が降ってきて花火大会は中止になっちょる」


『それはすまんかったなも』


「ええで、そのおかげでキミに美味しい鮎の食べ方を教えてもらって一緒に食べたんやなも」


『花火大会は中止になって、何でそんなことになるんやな』


「鮎が売ってたからやな」


『けど塩焼きや甘露煮ではないとなると気になるなも』


「雨宿りした橋の下で見かけた屋台で売っとったんやな」


『けど花火大会は中止になっとるんやな?』


「中止になったからキミとその鮎を初めての食べ方で鮎をまるごと食べたなも」


『そりゃまたどうしてやな』


「さぁ、花火大会の中止の理由ならなぁ」


「その日は 川も増水皮も雑炊 やったがなも」


「『エッキョウ』」

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キミのことが好きな姉妹のにわか たっきゅん @takkyun

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