第3話 新卒で重役で非公開3

〜 車中 〜


地下駐車場から高級ミニバンに乗り込み、俺たちは食事に向かった。

三列シートの構造になっており、二列目のシートに五十六氏、そして三列目に俺と零が乗っている。

もちろん、零は手を握って抱きついたままである。



〜超高級寿司店〜


俺たちが到着すると、丁寧なご挨拶に始まり、高級感溢れる個室へと通された。

お寿司もぞくぞくと用意されて、食事となった。


「零、受付窓口はどうじゃった?」


「はい、今日はあまり訪問される方が少なかったのでゆっくり仕事ができました。」


「そうか、それは良かったのう〜。午後からは、もっとゆっくりできるぞ。」


「はい、楽しみです。」


溺愛ぶりが凄いのは今に始まったことではないが、この会話を佐藤課長が聞いたら何て思うだろうなぁと考えるといたたまれない気持ちになる。


「お主はどうじゃった?」


「午後から予定が詰まっていたので、午前中にやれるだけ片付けました。」


「さすが、仕事が早いのう〜。」


毎度だけど、この人の俺への評価基準おかしい気がするんだよな〜。


「そういえば、涼さん、宮本さんにお弁当頼んであげたんですか?」


零からも質問が飛んできた。


「うん、一応ね。終日担当した人にランチあげるらしいんだけど、俺も初めてだったし、暇だったらしいし申し訳なくてさ。」


「「へぇ〜」」


何というか興味のありそうな表情をお二人から頂いた。


「あれ、なんかまずかった?」


「控室で宮本さんがすごい喜んでたんですよ。涼さんが優しいそうで、しかも今まで食べたことの無いお弁当も貰えたって。」


零から何やら冷たい視線が注がれた。

零曰く、俺は秘書課でもシークレットであり、他の幹部と違って経歴や顔写真が公表されていないので宮本さんはとても緊張されていたとのこと。


「お主の情報は儂が制限をかけておるから、まぁ受付窓口では知らないじゃろう。それに零についても大々的に公表するまで内密じゃからなぁ。」


大々的に公表って結構前から匂わせているけど、いつだよと聞きたい気分である。


「でも、私は社内の秘密の関係って憧れます。今日も、涼さんから電話来た時はキュンキュンしました。」


「最後に小声で待ってますには、参ったよ。」


「だって、早く会いたかったんですよ。」


などなど色々な話をして、食事をして会社に戻ってきた。

零は、佐藤課長の所へ行くため秘書課へ向かい、俺は自分の執務室へ向かった。


執務室へ向かう途中で、何故か宮本さんとバッタリと会い、めちゃくちゃにお礼を言われた。何でも、午後から所属事務所の仕事がこのビルであるらしい。



〜執務室〜


執務室へ戻り、メールチェックをしているノック音がした。


「どうぞ!」


「失礼します、秘書課の佐藤です。」


「失礼します、午後から担当する秘書課受付係の萩原です。」


何とも言えない緊張感を纏っている佐藤課長と満面の笑顔を輝かせている零とのコントラストはすごいものだった。

また、違和感に過ぎないのだが、零の着ている秘書課のワンピースのスカート丈が宮本さんよりも一際短いように思えた。


「萩原さん、いえお嬢様、いえ奥様が午後から担当になります。」


「佐藤課長、萩原でいいですよ。」


「いえ、しかし‥。」


上下関係がまったく逆転している現場を目撃するのも面白いものだ。


「零、佐藤課長を困らせてはダメだよ。非公開情報だからね。」


何とかその場を収めて、佐藤課長には退出していただき、執務室には俺と零のみとなった。


「じゃあ、私は玄関口のデスクにいますので。」


「うん、お願いね。多分、何もやることないと思うけど。」



〜 14:50 〜


俺も順調に仕事が進み、会議や会食に気にすることなく行くことができそうで安心していた。15時からの会議は、社長室なので早めに執務室を出る準備をした。

本社ビルは25階建で最上階が社長室で時間が掛かるからである。


「零、これから社長室で会議だからちょっと留守にするね。」


「はーい、行ってらっしゃい」


零に任せて執務室を後にした。姿勢良く、お利口にデスクにいたけど、絶対暇してるよなと悟ってしまった。



〜 社長室 〜


最上階フロアに到着して、五十六氏と再会である。


「おー、定刻通りじゃな。では、視察に向かおう。」


「は、はい」


俺は五十六氏に言われて、来た道を引き返すが如く、またしても地下駐車場へと向かった。これは、社長室集合である必要があったのか疑問だ‥。

そして、昼食時も乗り込んだ高級ミニバンに乗り込み、視察場所へ向かった。

到着した先は、歓楽街の一角であり、まだまだオープン前の殺風景な水商売系のお店であった。

五十六氏と共に、店内に入ると、ボーイと思しき人物たちがそそくさと開店に向けてであろう準備をしていた。


「ここは、儂らが主に金を落としている店でな、お主にも案内しておきたかったのじゃよ。」


「は、はぁ。」


察するにキャバクラということであろう。まぁ、そして超高級なといったところだな。カウンターバーから何やら騒がしい様子で、黒いスーツのよく似合う男性がやってきた。


「お世話になっております、東雲会長。本日の開店はまだなのですが、いかがいたしましたか?」


「な〜に、若手のホープを連れて視察に来たんじゃよ。将来、儂の会社を継いでもらう予定じゃからな。」


「そ、そうでしたか。であれば、私からざっくりとですが当店についてご説明いたします。」


 この出てきた男性は五十六氏の感じからして店長といったところだな。というか、会社を継ぐ予定になっているのは、気が早いのではないかと思ってならない。


「当店は、会員制の所謂キャバクラです。会員制というのもいくつか条件がございまして、本当にごく限られた方々のみとなっております。女性陣も、選りすぐりでありますのできっとお気に入りの人ができるのではないかと思います。」


おいおい、大丈夫なのか。零に会社に戻ってから怒られそうなんだが。


「とりあえず、特別会員に登録しておいてくれ。紹介者は儂の名前を使って、会員登録料や年会費は儂から出しておく。」


五十六氏が店長らしき人物に指示を出した。笑顔で快諾して手続きを進める段取りに入ったことが見受けられた。


「お主、何か身分証は持っているか?」


「運転免許証ならありますが‥。」


「すみませんが、失礼いたします。」


店長らしき人物から免許証の控えを取られ、本人確認が行われた。


「ありがとうございます。それでは、萩原様は本日より特別会員ということで登録いたします。私は、総支配人の田辺と申します。今後ともよろしくお願いいたします。」


「は、はい、お願いします。」


「萩原様、まだお時間よろしいでしょうか?。特別会員様をお相手する女性の写真をお見せしたいのですが?」


「は、はぁ。構いませんが。」


「ありがとうございます。」


五十六氏もちゃんと今のうちに説明を受けておけと言わんばかりの表情をしている。

田辺さんは、タブレット端末を俺に見せてきた。

そこには、かなりの美人ばかりがリストアップされていた。

しかも、なぜか身長やスリーサイズまで表記されており、ドレス姿の写真から水着や下着での写真もあった。


「いかかでしょうか?特別会員様であれば、お酒のお相手の他にも、お気に入り女性がいましたらそのままお持ち帰りも可能ですよ。また、周辺のホテルまで送迎もいたします。」


まさかの連れ込み宿方式になっているとは思いもしなかった。


「はぁ。」


「また、特別会員様ですと、当店の専用個室で気兼ねなく女性とお酒などが楽しめますし、基本的にご要望は叶えられると思いますのでよろしくお願いします。」


「はぁ。」


田辺さんの営業トークを何とか乗り切った。

これは零には絶対に言えないよな、どうしよう。


その他にも、東雲グループが所有権や営業権を持つ近隣の居酒屋や焼肉店を視察して、やっと会社への帰路に着いた。

帰る最中に、五十六氏から「今夜は焼肉へ行くから零を連れてこの店に来い」と伝えられた。


〜 17:30 帰社 〜


思いの外、時間が掛かってしまった。

定時は、普通社員で9:00〜17:00と決められているので、残業コース確定で残業代の支給対象なのだが、俺はそうではない。

待てよ、秘書課は8:30が始業時間だから16:30が終業なのかと疑問が湧いた。

ガラス張りの吹き抜けに照明が青白く灯っており、外の少々薄暗い空とのバランスで少々幻想的な印象を受けた。

定時を回っているので、人もほとんど見受けられす、受付窓口には「CLOSE」の看板と電光掲示板の類の電源が落とされているのが目に入った。


〜 執務室 〜


玄関口に零の姿が見えなかったため、少々おかしいと感じたが、構わず執務室へ入った。すると、敷かれたラグにはコードレス掃除機と俺のデスク周りを片付けている零の姿を確認できた。


「あ、涼さん、おかえりなさいませ。」


「うん、ちょっと時間掛かっちゃってね。秘書課も本当はもうとっくに定時でしょ?」


零は、俺のデスクの方からピョンピョンと跳ねながら俺のすぐ近くにやってきた。スカートが脚によって少々持ち上がり、零の鼠蹊部と白いものが見えた。


「はい、秘書課は8:30〜16:00なので、今は残業扱いでーす。」


「そっか、それはごめんね。」


「いいえ、大丈夫ですよ。それにこの後は一緒に夜ご飯ですから。」


「うん、じゃあ地下駐車場に行こうか。」


「はーい」


俺はPC類の電源を落として、執務室に電子ロックを掛けた。零は玄関口でプライベート用のバックを手にして待っていた。

電子ロックが機能しているのを確認して、エレベーターへ向かおうとすると、零は俺の腕に抱きついてきた。


「会社内だと、さすがにまずいじゃないか?」


ほぼ人がいないし、節電モードに移行しており必要最低限の照明の下では杞憂かもしれないが一応、聞いてみた。


「大丈夫ですよ、もう受付係の人は帰ったり、夜ご飯に出ているはずですから。」


佐藤課長が言ってたなぁ。確か、取締役会に夜ご飯代も出す人がいるだっけな。



その後は今日の出来事を色々と喋りながら、地下駐車場に向かった。入社前に納車されたマイカーに零を助手席に乗せて、会食会場へと夜の街を走った。



〜 運転中の頭の中 〜


「幹部によっては、夜遅くまで会社にいる人もいるから担当者は残業時間やばいことにならないか。」


「何なら、零は初日から約2時間の残業だろ。」


「待てよ、じゃあ宮本さんみたいな人の時はどうなるんだ?時給制なのか?」


「そういえば、宮本さんはどの弁当にしたんだろう?」






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