第10話 エージェント Part2

 テンプはテーブルにひじをついて息を吐いた。

「どうしたの? 溜め息なんてついて」

 ハルナが彼に飲み物を差し出す。

 

 岳積と聡情の決戦の後、スパイクとテンプの二人はパルスイアの集会所に足を運んだ。彼ら二人の戦いの行く末を伝えるために――。

 粒井岳積と掛松聡情は姿を消した。扉のでの爆発の後、二人の姿はなかった。カケラが骨まで破壊してしまったのだろうか。

 そのことを伝えると、ハルナは涙ぐんでいた。集会所を閉め、数日寝込んでいたのが印象的だった。

 

 ヨロイはスパイクに、トレックの起動スターターを奪ったことを話した。

 スパイクは怒ったのか、何も言わず後ろ手でドアを閉めて、行ってしまった。これまで兄が生きていると信じて必死に捜してきたのだから、死を受け入れることは難しいに決まっている。

 ヨロイはしばらくうつむいていた。


「現実世界にある瞳彩アイリスのカードは、破壊されたと思う」

 ヨロイはそう言っていた。

 最近、異常気象などで世界は乱れている。

 創造主である瞳彩アイリスが消えたことによって、この世界が崩壊し始めているらしい。この世界の誰もそんなことは信じないだろうが。

 自分たちもいつかは消えるのだろうか……。

 テンプは不安を抱えていた。

 

 二人のエージェントが消えてから数週間。

 ハルナは少し落ち着いたようだ。ヨロイの支えもあり、徐々に元気を取り戻している。

 テンプはハルナから渡されたカップを手に取る。

「いや、少し悲しくなっちゃってさ。ちょっと前までは他人のことなんてどうでもよかった僕が、こんな気持ちになるなんてね……」

 ハルナは微笑ほほえんだ。


 外の風に当たるため、近くの川の横に腰を下ろす。

「ここにいたんだ」

 声を掛けられ振り向くと、ヨロイが立っていた。彼女もテンプの横に座る。

 しばらく水の流れを眺めていた。やがてテンプが口を開く。

「聡情さんは僕を助けてくれたのに……。結局、あの人のために何もできなかった」

「私もそうだよ。瞳縁リムの願いを叶えらず、ハルナさんにも迷惑かけて。聡情の足を引っ張って、岳積やスパイクのことも傷つけた」

 これから自分はどうするべきだろう……。

「私も、どうすればいいかなんてわからないよ」

 ヨロイは他人の心を透視できるのだろうか。

「もうすぐ、この世界は息の根を止める。みんながそれに気づくのも時間の問題じゃないかな? そうなればきっと、それに乗じてバーストたちは暴走する」

「それならやることは――」

「ひとつしかないよ」

 ヨロイは立ち上がる。

「私はもう、決めたからね!」

 お前はどうするのか、と暗に言っているのだろう。


 集会所に戻る道。

「こうして見ると、あの時と何も変わらない。やっぱり子どもだね」

 ヨロイがテンプを馬鹿にする。

「歳の差、変わらないんだから当たり前だろ! そっちから見たらずっと子どもだよ」

 こうしてくだらない冗談を言い合える。それこそ幸運なのだ。

 岳積や聡情は、人々のそんな他愛のないやり取りのためにエージェントを続けてきたのだろう。

 悪さばかりしてきたが、ここからは残された時間で世のために戦おう。聡情がエージェントからバーストになったように――。


 少年はエージェントになる決意を固めた。

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