第10話 エージェント Part1(ゲーム)
聡情は空になった岳積の場を見て思う。
ここまでは順調だ。思惑通り、岳積のデッキのモンスターたちを次々と墓地に送ることができた。
後は……。
TURN7
岳積のターン
ドローフェイズ
手札:1枚
場:0枚
総出場枚数:1枚
0枚ホールド(1枚をデッキの下に戻す) 5枚ドロー
手札:5枚
「【模写の精霊 ミミ】を召喚――」
愛らしい獣が現れる。主人が
【模写の精霊 ミミ】
固有希少値:銅 攻撃力100 耐久力1000
効果:1ターンに1度、発動可能。
互いの場・墓地のモンスターの中から1体を選ぶ。
このカードの
(形態『模写』が得意な獣。『訓練』すれば、オリジナル以上の力を発揮することも)
「ターン終了」
手札
岳積:4枚
聡情:0枚
TURN8
聡情のターン
「俺のターン――」
ドローフェイズ
手札:0枚
場:4枚(ステルスモードの【
総出場枚数:4枚
0枚ホールド(0枚をデッキの下に戻す) 1枚ドロー
手札:1枚
「【
聡情の場に大きな
【流転の
発動条件:自分の場にモンスターがいる場合。
効果:自分の場のモンスターを任意の数破壊して、破壊したカードの枚数分ドローする。
「モンスター2体を破壊して、2枚をドローする――」
二体目と三体目の【
釜が蒸気とともに二枚のカードを吐き出す。それらは聡情の手に収まった。
聡情の手札:2枚
ドローカードを確認する。
――このカードであいつを追い詰めれば……。
「解煌カード【怪鳥の棲まう砂丘】を発動。【
ムカデの戦士は姿を消した。
【怪鳥の棲まう砂丘】
解煌カード
指定
効果:このカードが場にある限り、指定
このカードが場にある限り、自分がダメージを受ける場合、以下の効果を適用できる(ただし、この効果によって変動したダメージに対しては、この効果を適用できない)。
自分の場のモンスターカードをシャッフルし、自分がその中から1枚を選ぶ。
相手がカード名を指定する。
指定したカード名が選んだカードと同じなら、自分が受けるダメージは倍になる。
それ以外なら、選んだそのモンスターの攻撃力は、そのダメージ分上がり、自分へのダメージは0になる。
砂が吹き荒れる。
極寒の地に
「俺たちは互いのデッキを知り尽くしている」
「ああ。私たちの付き合いは長い。嫌でも覚えるよ」
「でも、俺だって完全に手の内を明かした状態で、お前に挑もうってわけじゃない。見せてやるよ。
「最後の統四平限?」
「統四平限は全部で十六枚。俺の九枚の
「【
「それで、これが最後の一枚――」
聡情は最後の手札を放った。
「
【
発動条件:自分の場に2枚以上の解煌カードがある場合。
効果:解煌カードとそれらの指定
「俺は【
同時に、ステルスモードになっていた【
砂の勢いが強くなり、氷の地はヒビが入った。
「【パラレルスート・ドラゴン】を召喚!」
原型を失った二つの地形は、それぞれ一本の線になる。それらは交差すると、雑巾を絞るような形になった。そして、青と黄土色の龍に姿を変えると、甲高い鳴き声を発した。
【パラレルスート・ドラゴン】
固有希少値:
召喚条件:【
効果:???
(自然界が『
「解煌カード同士が、モンスターになっただと……」
岳積は呆然としている。
「このカードは
聡情はヨロイとの会話を思い出す。
「
「言われてみれば……」
「だけど、それはできなかった。あの事件以来、彼は龍の姿を維持するために、相当な体力を消耗するようになった。あの町で、岳積とあなたと戦った時も、相当辛かったはずよ」
「そんな……。全然気づかなかった」
「
聡情は肩を落とす。
「まぁ、仮に
そうだ。だからこそ、あの戦いでは岳積に味方したのだ。
しかし、今は違う。
俺は決めた。岳積を徹底的に叩きのめすことを。
「【
手札
岳積:4枚
聡情:0枚
TURN9
岳積のターン
「私のターン――」
ドローフェイズ
手札:4枚
場:1枚
総出場枚数:5枚
2枚ホールド(2枚をデッキの下に戻す) 2枚ドロー
手札:4枚
「ターン終了……」
為す術がないのか、反撃のカードを呼び込めたのか。岳積の挙動からそれを読み取ることは難しい。
手札
岳積:4枚
聡情:0枚
TURN10
聡情のターン
「俺のターン――」
ドローフェイズ
手札:0枚
場:1枚
総出場枚数:1枚
0枚ホールド(0枚をデッキの下に戻す) 4枚ドロー
手札:4枚
「バトル――」
氷と砂の龍は大きく口を開ける。
【パラレルスート・ドラゴン】攻撃力2500
vs
【模写の精霊 ミミ】攻撃力100
「【模写の精霊 ミミ】の効果発動。墓地の【
【模写の精霊 ミミ】は尻尾で、地面を三回ずつ叩く。
「【ステレオアウト】のカードで攻撃を無効にしようってのか。読めてるよ」
この場面で
「ならば、これも読めていたか?」
「なに?」
岳積がカードを投げる。
「
【采配の翼】
発動条件:相手の墓地にモンスターがいる場合。
効果:相手の墓地からモンスター1体を選び、自分の場に復活させる。
自分の累積ダメージが2500以上の場合、そのモンスターはターンを問わず、自身の効果を発動できる。
ターン終了時に、そのモンスターは破壊される。
「お前の墓地から、モンスター1体を私の場に復活させる――」
地面からカメレオンが飛び出す。
【
固有希少値:金 攻撃力800
効果:自分ターンに1度、発動可能。
自分の場のモンスター1体を指定する。
自分の場の任意のモンスター(複数体選択可能)は、指定したモンスターと同じステータスを得る。
この効果を適用したターンに、相手に戦闘ダメージを与えた場合、次の自分のターンで自分は攻撃できない。
(『器量』の『
「私の累積ダメージは2500。したがって、お前のターンであっても、【py《ピー》】は効果を発動できる」
聡情は岳積の意図に気づいた。
「【
【py《ピー》】は、【ミミ】と同じ姿になる。
聡情の龍は、光線を放った。
「そして、解煌カード【ステレオアウト】を発動――」
【ステレオアウト】
解煌カード/消滅型
指定
効果:自分の場の
1体以上:相手の攻撃中に、発動可能。
その攻撃を無効にする。
2体以上:相手の攻撃中に、発動可能。
その攻撃力以下の攻撃力を持つ相手モンスターを全て破壊する。
3体以上:相手のモンスターを全て破壊して、最も攻撃力の高いモンスターの攻撃力分のダメージを与える(場での攻撃力を参照)。
「
岳積の場の二体の音響獣は、足並みをそろえてリズムを刻む。
二体の獣の前に、三重の円形をしたバリアが現れた。
バリアに衝突した光線は押し返され、氷と砂の龍の口に突っ込まれる。
【パラレルスート・ドラゴン】は破壊され、粒になった。
「こんな方法で破壊するとはな。だが――」
龍を構成していた氷と砂が、二体の【ミミ】と岳積を襲う。目にも留まらぬ速さで、岳積の場は一掃された。
岳積の累積ダメージ:2950(2500+450)
「何だ?」
「【パラレルスート・ドラゴン】の効果は、相手によって破壊されることで発動する。相手の場のカード全てを破壊して、モンスターの攻撃力合計の半分のダメージを与える」
【パラレルスート・ドラゴン】
固有希少値:
召喚条件:【
効果:このカードが相手の効果によって場を離れた場合に発動する。
相手の場のカード全てを破壊し、その中にモンスターカードがあれば、その攻撃力合計の半分のダメージを相手に与える(場での攻撃力を参照)。
(自然界が『
破壊されたモンスターの攻撃力の合計:900(100+800)
岳積の受けるダメージ:450(900÷2)
「俺の場にモンスターはいない。よって、ターン終了前に手札からモンスターを召喚する。【先導の王
カササギの戦士が羽を広げる。
【先導の王
固有希少値:金 攻撃力1200
効果:このモンスターは、効果を持たないモンスターとの戦闘でしか戦闘破壊されない。
(『英断』の『
手札
岳積:2枚
聡情:3枚
TURN11
岳積のターン
「私のターン――」
ドローフェイズ
手札:2枚
場:0枚
総出場枚数:2枚
1枚ホールド(1枚をデッキの下に戻す) 4枚ドロー
手札:5枚
「【ギャランティ・レイピア】を召喚――」
銀の剣士が召喚される。
【ギャランティ・レイピア】
固有希少値:銀 攻撃力1300 耐久力800
効果なし
(『銀の鎧』を纏った『細剣士』。強者の『代替』として活躍できるほど、会得している技の種類が多い)
――ついに来た、この時が。
【ギャランティ・レイピア】。こいつを召喚させるために、時間をかけて岳積のデッキを削ってきたのだ。
数時間前。
何度扉を叩いても手応えがない。やはり
夜が更けてもヨロイは戻らない。岳積を倒すことに失敗したか――。
テンプはヨロイが戻ってこないことを心配し、入り口の警備を固めると言って行ってしまった。
ブリスラッドの戦いで、なぜ
しかし、それにしては、随分と焦りが見られたような気がする。あの時の
特に、岳積が【ギャランティ・レイピア】を出してから――。
そこで、雷に打たれたような衝撃に襲われた。
――【ギャランティ・レイピア】には、統四平限に匹敵する力がある。あのモンスターなら、統四平限の代替になり得る。
おそらく
あのモンスターの力を利用すれば、
ヨロイは、アジトの場所を教えることを条件として、岳積に挑んでいるはず。テンプが岳積を止められなければ、それはそれでいい。
岳積がここに来るなら、それを利用しない手はない。自分を止めにくる
岳積がターンを進める。
「バトルフェイズ。【ギャランティ・レイピア】で【先導の王
【ギャランティ・レイピア】攻撃力1300
vs
【先導の王
銀の剣士が剣を構える。
聡情は服の内ポケットから小型のスイッチを取り出した。そのボタンを力いっぱい押し込む。ボタンを破壊するのではないかと思えるほど、心臓の鼓動は高まっていた。
上空からひらひらと、扉の前を覆うように色とりどりの花びらが舞い落ちる。
「カケラ……」
岳積がつぶやく。
ああ。俺はずっと、お前が【ギャランティ・レイピア】を召喚するのを待っていたんだよ。
剣は、黒色に銀の輝きを帯びた波を放とうとしている。
そう。これが【ギャランティ・レイピア】の攻撃。岳積と過ごした数年。何度も見てきたが、待ち侘びた今日の一撃は輝かしく目に映る。走馬灯でもないのに、勿体つけるように遅く感じた。
【ギャランティ・レイピア】は統四平限ではない。しかし、この量のカケラに攻撃を触れさせれば、既に他の統四平限の力を注いである扉をこじ開けることは可能なはずだ。
聡情の手札には二枚のカードが控えている。
【
発動条件:自分の手札にモンスターカードがある場合。
効果:手札のモンスター1体を召喚する。
このターン、相手はそのモンスター以外の自分モンスターを攻撃できない。
この効果が相手モンスターの攻撃中に適用された場合、次の効果を適用してもよい。
相手はその攻撃を中断できず、そのモンスターの攻撃はこの効果で召喚されたモンスターへ向かう。
【天球の
固有希少値:金 攻撃力1400
効果:このモンスターは、自身より固有希少値が低いモンスターとの戦闘では破壊されない。
(『慈愛』の『
奴の攻撃が届く寸前にこのカードを発動し、【天球の
【天球の
悪いな岳積。こんな風にお前のモンスターを利用して。
遅い。さあ、一秒でも早くこちらへ――。
「
その瞬間、銀の剣士は、幾度も剣を振った。
弧を描いた黒い斬撃の波は、一つだけでなく、無数に放たれている。それらは、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「な……」
聡情は言葉を失う。
【
発動条件:TURN11以降に発動可能。
効果:場のモンスター1体の攻撃力は、現在のターン分、倍になる。
ただし、そのモンスターが与える戦闘ダメージは0になり、次のターン終了時に、自分はこの効果を受けた後の攻撃力分のダメージを受ける。
「【ギャランティ・レイピア】の攻撃力は、11倍の14300になった」
【ギャランティ・レイピア】攻撃力14300(1300×11倍)
まずい。【ギャランティ・レイピア】に二つの世界の力を繋げる十分な力があるとして、これだけの攻撃力で扉を叩かれたら……。
「私は
岳積に迷いはないだろう。
聡情はほとんど反射的に【伏兵の進行】のカードを投げた。
【天球の
その瞬間、場に出た【伏兵の進行】のカードは、巨大な鉄の拳によって砕かれた。
岳積の場では、【鉄槌の増援】のカードが発動している。
【鉄槌の増援】
鉄槌カード
発動条件:自分ターンで効果が発動した場合、それに対して発動可能。
効果:その効果を無効にする。
【ギャランティ・レイピア】攻撃力14300
vs
【先導の王
【ギャランティ・レイピア】が放った無数の攻撃は、【先導の王
カササギの戦士はそれを受け止めきれず、破壊された。
勢い余った斬撃は、聡情の背後に待ち構える扉を目指す。そして、責め立てるような乱暴なノックが何度も起こった。
カケラは次々に爆発を起こす。煙が二人の立つ空間を覆った。
【
煙が落ち着き、岳積の姿が見える。
しばらく二人は黙っていたが、やがて聡情が口を開いた。
「まさかお前、俺が【ギャランティ・レイピア】の攻撃を誘っていることを知ってたのか?」
「ああ。最初は気づかなかったがな。お前が私のデッキを削るのは、私の戦力を削ぎ、ゲームを有利に進めるためだと思っていた。しかし、【ギャランティ・レイピア】を呼び出させることこそが、真の目的なのではないかと考えた。
「そうだ。
この男は気づいていた。自分の算段に。
盗みをはたらいたテンプをエージェントとして捕まえた自分が、今度はバーストとしてカケラを盗むことになるとは……。あの町に行った時には考えもしなかったことだ。
扉は変わり果てた姿になっていた。岳積の思惑どおり、
だが、まだ諦めるわけには――。
もしも、まだ
地面にはまだ、カケラの残骸が転がっている。
岳積の命を奪うには十分な量だ。
「ターン終了」
岳積がターンを終える。
手札
岳積:2枚
聡情:2枚
TURN12
聡情のターン
「俺のターン――」
前のターン、【
それならば、奴の手札にはこの状況を利用して、俺にダメージを与えることのできるカードが潜んでいるはず。
――専煌カード【ブラックホール・ラッカー】が。
【ブラックホール・ラッカー】
専煌カード
指定
効果:このカードが場にある限り、自分が効果ダメージを受ける場合、そのダメージを代わりに相手に与えることができる。
この効果を適用し、相手にダメージが与えられた場合、このカードは破壊される。
あいつはターン終了直前にあのカードを発動し、自分が受けるダメージを俺に反射させてくる。それを防ぐ手立てはあれしかない――。
ドローフェイズ
手札:2枚
場:0枚
総出場枚数:2枚
1枚ホールド(1枚をデッキの下に戻す) 4枚ドロー
手札5枚
聡情はカードを確認する。
――俺の勝ちだ。
「【
弓矢を携えた獅子が立ちはだかる。
【天球の
固有希少値:金 攻撃力1400
効果:このモンスターは、自身より固有希少値が低いモンスターとの戦闘では破壊されない。
(『慈愛』の『
「さらに――」
聡情は、呼び寄せたカードを放つ。
「専煌カード【
【
専煌カード/消滅型
指定
効果:互いのメインフェイズに発動可能。
カード名を1つ指定する。
相手の手札・このターンに相手の場に出たカードを確認し、指定したカードがあれば全て破壊する。
指定したカードがなければ、このターンに相手が受ける全てのダメージは自分も受ける。
獅子の矢の先に、楔が取りつけられる。
「カード名を指定して、お前の手札と場にそのカードがあれば、それを全て破壊できる。俺が選ぶのは【ブラックホール・ラッカー】……。あの時、お前と
【天球の
光を放ち分裂した矢は、流星のように岳積に降り注いだ。
岳積は手札をくるりと返して、カードを開示する。
――【ブラックホール・ラッカー】のカードは、その中になかった。
「私の手札に【ブラックホール・ラッカー】のカードはない」
「何で……じゃあお前、最初から……」
「ああ。お前を消して自分だけ生き残ることなど、私にはできない。あの時――
「俺はお前をこの世から消そうとしたんだぞ」
「そんなことは覚悟していたさ。この空間だって、私を確実に仕留めるために用意したのだろう? 私の存在は
聡情は力が抜け、その場にしゃがみこむ。
【
「あーあ。【
「そんなに私を亡き者にしたかったのか?」
「そういう意味じゃねえよ。ただ、負けたくなかったって話。なんか俺だけバカみたいじゃん……。俺だけが本気でお前を……」
「気にするな。悪いのはお前だけじゃない。私も、モンスターたちを巻き込んでしまっているのだからな」
「でもみんな、危険を覚悟で付き合ってくれたんだ。ありがたいよ。お前のモンスターたちも、そうなんだろ?」
うなずく岳積。
その時、岳積の背後からスパイクとテンプが現れた。戦いを終え、この場に向かってきたのだろう。
「聡情さん!」
テンプが声を張り上げる。
「テンプ。見ての通り、俺はもうダメだ。ヨロイさんによろしくな。短い間だったけど、みんなに会えてよかったよ。ハルナさんにも、不孝な奴でごめんって伝えておいてくれ!」
岳積も振り返り、スパイクに言った。
「スパイク。トレックさんのこと、申し訳なかった」
「気にするな、お前のせいじゃないさ」
もはや悔いはない。聡情は覚悟を決めた。
「ありがとう岳積。ターン終了……」
【ギャランティ・レイピア】が黒い波を放つ。
【天球の
二体の攻撃が衝突すると、激しい爆発が起こり、岳積と聡情を包み込んでいく……。
岳積の累積ダメージ:17250(2950+14300)
聡情の累積ダメージ:17200(2900+14300)
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