第48話 48 陽は反論する

「異議あり!

 その結婚には納得できない!」


 冠婚葬祭のマナーがなっていない輩が口を出して来た。

 パーティと呼ばれるモノにはそれ相応のマナーが必要だというのにそれを破ってまで言うことかと観客たちは思う。

 立ち上がったのは何と新婦側の呼んだ男性であった。

 一人だけ幼馴染に当たる人がいて、その人が出席していたのだが、その人が騒ぐとは驚いた。


「そこの女男が行っているのはストーカーの所業だ!

 今すぐにでもこんな結婚式を辞めて警察に突き出せ!」


 連れの人と思われる女性が羽交い締めにして止めに入ろうとするがそれを振りほどき壇上に上がろうとする。

 ここで、一郎が立ち上がった。

 オトンが気付き、席に座らせようとするがもう遅い。


「はあ、そこのあなた。

 うるさいわボケエ!」


 ガッツリキレていた。

 それはもう、腸が煮えくり返るほどの大激怒。

 迫力たるや昭和の熱血教師レベル。

 会場にて、その昭和レベルの激怒を見たことのある人間は全員本能的に背筋を伸ばした。


「は?」


「あろうことが祝い事で急にきて結婚式を即刻中止しろだ!

 てめえの親はマナーを教えてもらわなかったのか!

 だとしたら大問題だ!

 今すぐに教育委員会に保護者の監督不届きで通報してこい!

 そしててめえは今すぐに幼稚園からやり直してこい!」


「そこまで言う必要ないだろ!

 ボケって呼ばれる筋合いはないわ。

 最初は辞めないかって注意すべきところだろうが!」


 ダメだこいつ、根っこからのゆとり世代だ。

 辞めろよ、連帯責任で坂ダッシュ100回追加させられるだろ。

 校内床拭きの刑に処される。

 竹刀で一発か?

 舐めた口聞いているな、拳骨3回で済めばいいが。

 

 背筋を伸ばしている来賓者たちの心境を代弁するなら、こんな感じだろうか。

 彼らは手を出されることの恐怖を知っている。

 高々恫喝されるで終わるはずがない。

 この、迫力、覇気は言うことを聞かない相手に対して絶対に手を出すことを確信させる凄みが感じられる。


「あぁ、一郎のswitchが入ってしまった。」


 止めることに失敗したオトンは、おとなしく嘆きながら酒を煽った。

 飲まなければやっていられないような光景なのかと、葵さんと芽衣さんは疑問に思い口を開く。


「「switchとは何ですか?」」


「厳しく育てすぎてしまったが故に一定のラインを超えるととってもキレる。

 俺はああなった一郎を止めることができない。

 昭和の教師のような人格者になってしまう。

 手は一定のラインを超えない限り出すことはないが、それを超えたら。」


「「それを超えたら...」」


「手を出す、一切の躊躇無くな。

 社会進出したいと言った時に、反対した理由の一つだが、美徳でもある。」


 オトンの擁護は最もな話だ。

 今の時代教育者や社会人ではパワハラで訴えられて当然のこと。

 今までそういった教育を受けていないゆとり世代に別れというのは非常に酷な話だ。

 しかし、根性論を完全に否定できるものではない。

 根性論とは俗に言う軍隊論である。

 軍の規律を守り、規律の意に反すれば罰則を設ける。

 すれば、団結力は高まり、マニュアル下であれば最大限の真価を発揮する。


 一郎の前世日本においては廃れ、教えることすら憚られる精神の一つではあるが、社会人という観点からすれば嬉しいことこの上ない事象なのだ。

 オトンは社会を知らずして専業主夫であり続けたからこれからの世の中を見て、否定をしていた。

 しかし、今現在を含め披露宴の来賓者たちが共感しているように、今はまだ、若者たちの時代ではない。

 いろいろ経験して、やりたいことを決めていくのが今の若者だが、一つのことを最大限突き詰めることの馬鹿を応援したくなる気持ちはいつだって一緒だ。


 根性論は、馬鹿を育てる。

 今、この場を支配する一郎の怒気は、これからを担う二人の新郎新婦に対して、大きな未来予想図の変更を見せた。

 傍から見れば、モンスタークレーマーだが。


「結婚式場のマナーも知らないのか大馬鹿者!

 教えられなかったら、教えを請いに来い!

 教えられて当然と思うな!」


 会社は成長させてくれて当然ではない。

 成長するか否かは個人にゆだねられる。

 

 家族も会社と同じ環境かどうかは親次第だから、異なると言えば異なる。

 だが、学校に通っている以上、必要最低限の社会常識を学ぶチャンスはいくらでも存在する。

 それを無碍にして初めて、あの時学んでおけばよかったなどの後悔を産む。

 後悔を産まなければ、どうなるのか。


 見捨てられるというのが正しい。


 一郎は見捨ててはいないのだ。


「こ、この野郎。」


 もう一度言おう一郎は、結婚式をめちゃくちゃにした若者を見捨てていないのだ。

 今現在殴りかかろうとしている彼を見捨てていない。


「この大馬鹿もんが!」


 テーブルに殴りかかってくる人に対して、椅子から立ち上がり流れるように踵から重心を前にする。

 足を踏みしめ上げた時、仕立てたばかりの硬い革靴をこれでもかと変形させたのちに

 陸上100mのようなクラウチングスタート、バレリーナのようなつま先立ち、もしくはJ〇J〇立ちの体制に入る。

 つま先からの体制は、瞬間的な反応速度を追いつかせるために行われるが、今回の場合最大限の体重と速度を一点に集中させた結果がつま先に集中される。

 力が一点のみに伝わり、絨毯の下にある硬い鉄筋コンクリートが反発する。


 殴りかかる相手に対して、全身を前にするカウンター。

 ボクシング界では大博打の技として、実力主義ではないとさげすまれる技に揚げられるジョルトブローを用いたカウンター。

 引きこもり暮らしの長い男のやる暇つぶし(照明のヒモボクシング)によって会得した一撃(しょうもない)であったが相手を倒れさせるには十分すぎるほどの一撃をもたらしたかに思えたが、現実は違った。


 飛び掛かってきた若者の関節が外れたのだ。

 クロスカウンターを行うときに絡まった。

 実践は姉との戦闘の身になっていたため、女性の柔らかい関節しか相手にしていなかった。

 男性の関節の硬さを知らなかったのだった。


「え?

 体硬くない?」


「て、てめえ!」


 今度はテーブルに会ったステーキ肉を切る用のナイフを外れていない方の左手に取った。

 そこまでは良かった。

 そのあとの判断がざるにもほどがあったのだ。

 刃渡り10㎝にも満たないナイフ程度では何ら脅しの道具にもならない。


 一般人にとっては凶器を持っている以上制圧する上でそちらに目が行くためいい着眼点にはなる。

 しかし、興奮状態で制圧している相手にはアドレナリンやエンドルフィンといった脳内麻薬物質が大量に生成され痛みを軽減、一時的な忘却に導くため痛みは感じることはない。

 また、相手側が手に取ったのはおそらく利き腕ではない左手、どう頑張っても結婚式の相手をどうにかすることはできなかった。


「学習しないのはZ世代?」


 お前もZ世代だろという声が聞こえた気がするがそれはさておき、今度は関節を外さないように細心の注意を払いながら関節を決めた。


「じゃああと警備員さんよろしく。」


.....................................................................................................................................................................................................................................................................................

大きい病院行っていたんですが、担当医がかなり逃げ腰でまだ歯を抜いていません。

誤字脱字あったらごめんなさい。

近日親知らずを抜きますので、ひとまず切りがいいところまで書く予定ですのでよろしくお願いします。

スライム道

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

男子1,女男1、女子3,男女2の世界でも陰キャは生きづらい スライム道 @pemupemus

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ