2章 第3話 計算し直しても勝つ術がない道


フィウは、それから何回も計算し続けた。二つの巨悪に勝つ算段を。しかしどれだけ考えたところで策は思いつかなかった。

「そろばんが得意だった俺がどれだけ計算しても、もう生きてない方がましって結論になるんだ」

「駄目だ。どれだけ計算し直したところでもう奴らに勝つ術はないんだ……」

「実際どう計算しても、自分のこれからの人生は八方塞がりなんだ」

 何日考えてもその結論しか出なかった。こんなに行き詰まったのは初めてだった。

そうして、自殺しよう(死にたい)と思っていたときに、脳裏に遮ったのは彼女の「大丈夫です」という言葉だった。最初は、「そんなきれい事」と思って投げ捨てていたが、その言葉にこんなに助けられるとは思わなかった。嫌な言葉、事柄が反芻すると同じく、彼女のそんな言葉も反芻した。

 それからも、「彼らがもし脱獄した家族と手を組んだら」「あの内容を家族に暴露されたら」「口の軽い彼女にどんどん噂を広められそれが家族にまで届いたら」「彼女らに人生かけて作った上級魔法を盗作盗用されたら」そんな不安に苛まれる毎日だった。まだ特許申請もしていなかった。

 俺は上級魔法を奪われたことから、それで得られるはずだった莫大の資金も得られずに再び黙ってここで暮らすことになった。手術後の絶対安静期間というのもあった。

「この絶望感は何だろう。また家族に自由を奪われていることといい、みんなは外の世界に行って頼る人も誰もいない。さらに、さくらという新たな巨悪。病気も完治とはほど遠い。(悪化してるからこう思うのだろうか。悪化した事件のことも書く?)さらにさくらに渡したデータが家族にでもばれたら、俺は反逆の罪をとがめ続けられ家族に今まで以上に酷い目に遭わされ、ここで死さえ隠されたまま朽ち果てるかもしれない。この状況で二つの悪を相手に(に対峙)しなければならないのか。魔法が使えない家に閉じ込められている。

 しかしそこで最悪な事態は、起こった。俺の家での出来事だった。

「これがあいつの上級魔法のデータなんすよ」

「え? ほんと⁉ やったねこれでまたあいついいなりだね‼ ここから抜け出す手段はもうないね!」

「厳しくしてやってください」そうさくらが言った。

 この二つの巨悪が対面したことによって、今まで作った上級魔法が無効化されることが確定した。さらに今まで以上に酷い仕打ちを受けることも。さらに家族に新しい上級魔法の生成を阻害されれば、全ての希望は潰える。監視は今まで以上に厳しいだろう。金がなくても病気でもここを自力で抜け出すしかないのだろうか。なぎさのように。わからない。それさえ難しいのではないか。だけど、「自由になる」その景色を想像しながら、俺は必死に生きるしかなかった。何も手段も考えつかないまま。

彼女の根拠のない(力強い)「大丈夫です」という言葉を必死に信じながら。その言葉に必死にしがみつきながら。そうするしかなかった。

俺は上級魔法の資料を奪われた直後、死のうと思った。信頼していた人に裏切られて俺は、酷く落ち込んでいてもう人生どうでもいいと思って自暴自棄になっていた。だけど、違う。俺の未来はまだ続く。「俺の人生はまだ続くんだ‼」続かせなきゃいけないんだ。悔しい、ここで死んだら敗者だ。奴らをいい気分にさせたまま。何も成し遂げられないまま。(そしてここで死んだら周りに悲しむ人は誰もいないだろう。)」

「これを見れば頑張ろうって思う魔法。今の悔しい気持ちを込めた魔法を。決意を込めた魔法。それを作ろう。いつまでもこの気持ちを忘れないように。言葉を込めた特別な魔法(ストーリー)(を作る」。そしていつかこの苦しみを……終わらせてやる‼」

 思いを込めた魔法だ。俺は外に出てそれを完成させた。運が良かったのかわからないがその時は邪魔されなかった。「完成だ‼」

「全てを奪われても、一からやり直す。そしてその最高傑作を超えなければならない。ずっと作り続けないといけない。最高の作品を」

この魔法を詠唱する度に、この言葉を口に出すことにした。

 魔法というのは、その悔しさ(想像力)が強ければ強いほど強力になる。俺はそれを駆使して過去を超えてみせる。未来を変えてみせる。

 これは、この大きな世界で成功する、その決意を込めた魔法だ。苦しいときはこの魔法を思いだそう。彼はその誓いの魔法を「daijyoubu」(大丈夫)と名付けた。

それから俺は辛いときいつも彼女を思い出すようになった。彼女の力強い「大丈夫です」という言葉でほんとに「大丈夫」だと思えた。それだけで全てのことに対して精神的に強くなれた気がした。

天使に出会えてよかった。人生で一番辛い時期に彼女の優しさに救われた。と本当にありがとう。そういつか彼女に伝えたかった。

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一縷の望み @hikari777

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