地属性魔術師(仮)の道標

@halzan2

第1話 攻略戦・終幕

ある国、ある辺境、ある迷宮深部。

一等ランクに位置するその迷宮の深部についた諢名、その名も死出の旅路。

死出の旅路なんて縁起でもない名前がつく由来は至極明快。

ヤバいのだ。


迷宮に入る以上は命の取引なんて当たり前。

初心者用の探索許可証の発行時にさえわざわざ明記され同意を求められる。

ましてや一等ランクなんて迷宮に好き好んで入るような輩がちょっとやそっとじゃヤバいなんて言いやしない。

しかしそんな酔狂な連中も素面になっちまうような迷宮がライグナル迷宮、つまりここである。

______






「敵増援!大ワームの大群!目算50以上!左翼後退許可を!」

「ダメだ!規定ラインにて防戦を続けろ!」

「右翼保ちません!崩れます!」

「残存右翼は本体まで後退!その後退路を確保のため最後方へ!ポータルを守れ!」

「了解!」


今日も今日とて紫雲立ち込めるライグナル迷宮27階層。

状態異常と混乱を運んでくるおめでたい紫雲もとい毒霧。

それに今日はちょーっと元気過ぎる団体様の御案内もとい、人間の数倍はあろうかという糞虫共×100以上の混成部隊の対処。

上級探索者にとってただの図体がデカい糞虫なら然程騒ぐことはないのだが、こいつらは各種耐性の見本市。

しかも毒霧にモンスター強化がのってるらしく数倍に膨れ上がったステータスの暴力を振るってくる。

1階層から他の一等ランクの深層のモンスターどもが跳梁跋扈しているライグナル迷宮。27階層のモンスターが弱いはずがない。そいつらが強化されているのである、しかも数倍に、大量に。

なお、おわかりだろうが迷宮は閉所でありるため我が党以外の党からの助力はない。囲まれたら死である。


「囲まれるぞ、リーダー」

「わかっている。お前はどれだけ保たせられる?」

「回廊にも限界がある。緊急機動は負荷が大きすぎる、保って5分だ。」

「上等」


リーダー、名をオルケイウス。私の隣で支援魔法を左手で飛ばしつつ右手で大魔法を使っている私の古い友だ。

今でこそ死出の旅路の深層を攻略しようとするような大規模な党になったが、元々はコイツと私、あとは先にヴァルハラに旅立った2人からだった。

元々臆病な男だったが、今や我等が誇る党首閣下だ。立場が人を作るとはいうがこれほど当てはまる男も少ないだろう。


「潮時だな」

「……ああ。だが、まだ撤退がある。リーダーたるもの帰るまでが遠足ということを心がけなくてはダメだ。もっとも帰ってからもお前は遠足の後片付けだがな。」

「よせ、長い付き合いだ。…思い返せば40年か、早かったな。」

「あいつらはお前を生かすために死んでいったという事を忘れるな。そして私がここでは絶対死なないこともな。」

「………。アイズ、お前はサブで撤退の指揮をとれ。お前と俺でこいつらを抑える。どうせそれしか道がない。幹部だけ生きて部下が全員死にましたでは話にならん。俺には責任がある、部下を生かして返すという責任が。」

「部下が皆死んだら最初からやり直しか?

……良いだろう。確かにそれしかなさそうだ。」


思い返せば長いものだ。


「総員!撤退!」

「撤退プラン9実行!左翼は速やかに撤退!中央は援護にまわり頃合いを見て撤退しろ!残存右翼は中央のケツを守れ!」

「了解!御武運を!」


やるしかない、前にもこんな時があった。

あの時は私と彼女達が殿だったか。

エリファは満足そうに逝ったっけな。

今度はこいつの死に顔を見るのか…。


「フッ、精々派手にやりますかね。」

「なんだ急にやる気満々じゃねぇか。」

「お前の葬式だ、精々派手にやってやるよ。幸い参列者は数え切れないくらいいる。」

「美人が一人もいないのが気に食わんな。」


こいつの女好きは死んでも治らんだろう。

まぁ、帰ったら綺麗なシスターが居るところに墓でも作ってやるかね、四人用の。


「来るぞ!」

「全武装展開 出力最大」

______






















「……スコし……数…が多……すぎた…な

あい…つが戦…士の…真ネ事ができる…とは……初…ミ…耳だった……な…」 

______


「下が終わったぞ。」

「どう、でしたか。」

「満足そうだった。」

「そう、ですか。」


残存兵力42名。突入時は150名だったことを考えると大損害もいいところだ。それに加え党首の死亡。

敗残兵は葬式の様相を呈している。 

しかしそれでも我等は帰らねばならない。探索者の上澄みたる上級探索者として、国に2つしかない一等ランクの党として。

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