第2話 出社①

大陸の雄たるテルラーン帝国。

広大なる中央大陸に位置しており、南と東に海を、西に大山脈を、北に大陸随一の大運河を抱える。

実に大陸の1/3を領土とし、恵まれた立地故に安定した政権を享受している。我等が親愛なるテルラーン皇室は100代を超えいまだ終わる気配はない。

軍事力においても大陸随一を誇り、精強かつ大規模な国軍を常時維持している。

これは帝国南部の港が国営化されており、大陸の貿易を一手に握っているというのが大きい。中央大陸の南側には亜人の大陸があり、そちらとの貿易の窓口を帝国が担っている。そして、南部にて取引した品々を北部の大運河を使い大陸中に運んでいる。

大陸の物流と金融を司っているともいえる帝国の利益たるや凄まじいものがある。


そんな帝国西部の辺境都市アルフスタッド。

大山脈と大森林が横たわり、数々の迷宮が点在する。

探索者にとっては理想的な立地な為、辺境にも関わらず賑わいを見せており、探索者の宿場町としての機能から迷宮の暴走を食い止める役割も果たす重要な都市だ。


話変わって、大規模な党は自分達の拠点を作る。100人も常時泊めておける宿はそうそうない上にコストもかさむからだ。

かくいう我々も拠点を持っている。


詰まる所、我々ハウネスト党はここを拠点にしている。






______


「あいつめ、逃げおってからに……」


都市・アルフスタッド ハウネスト党本部 二階 党首室。

ではなく、ハウネスト党本部より隠し通路を辿り西に2km 地下100m地点。

特殊金属にて覆われた球体状の研究室の中で、私ことアイズ・フォン・ギレは激しく憤っていた。


「あれだけの死人を出した遠征の後片付けなど実に頭の痛い……。

はぁ……。どうしたものか。」


何故私がこんな辺鄙なところにいるか。そんなことより何故私が生きているのか。疑問に思われた方も多いと思う。

実際に、今、党本部に帰還した構成員のうち歴の浅い者などは撤退の指揮を取っていたのが私だと知り混乱しているようだ。 


何を隠そう、私は傀儡師である。それも一流の。

一流の傀儡師ならば遠隔操作など、魔力回廊さえ繋げられれば赤子の手をひねるようなもの。本体は一切姿を見せず操作対象を使って相手を倒すなど私にとっては朝飯前だ。

本来ならあのような他対1の戦闘は十八番なのだが、もっとも先程は如何せん数が多すぎた。殺しても殺しても湧いてくる。500匹までは数えていたがそれからは面倒で数えるのもやめたほどだ。

だから決してプロニートなわけではなく在宅勤務ができる有能探索者なのである。


普段はつい先程失った汎用人型戦闘機械アイズをプライマリとし、同じく汎用人型機械ギレをセカンダリとして2台体制をとっている。プライマリはメインで運用しているだけあり、上級探索者の中でも上澄みの力量を発揮するボディである。それを私が操ることでワンマンアーミーと化す。

しかも戦闘だけでなく食事や芸能も嗜める私の自慢の機械だ。


が、壊れた。

そう壊れてしまったのだ。

そうすると私のメインはギレということになる。

ここ40年間アイズが破られなかった為、ギレは本来の目的を放棄し完全戦闘用カスタムである。日常ではまず使えない。

まして文字など繊細な作業は専門外も良いところだ。


しかし、あの女好きが死んでしまった今、党の実質的党首は私だ。

このような大損害を被る遠征をした場合、党首にはそれはそれは面倒な書類の山を処理するというなんとも面倒臭い仕事がある。当然のことながら署名なども求められる。


要するに日常使い用の機械を出すか、私が数十年ぶりに日の目を見るかの二択しかない。

そして私の所有する他の機械でプライマリの代用が効くものはない。


つまり私が行かなくてはならない。

つらい。




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