転生百合女は『女の子と赤ちゃんを』作りたい。

藤丸新

百合狂いのヤバイ女

 異世界転生したら、魔法と剣のファンタジー! な、世界だった。

 なんて、ライトノベルみたいな出来事。


 ――あった。


「嘘でしょ~~~!?」


 転生初日、秋沢茜――いや、元、秋沢茜は、この世界の全てを理解した。

 この世界での茜は、マリン・ヴィア・ヴィロッセル。王国の第七姫。つまりは自由の身で、産まれてから死ぬまで王国の金で好きなことだけやりたい放題の存在。だったのだ!

 

 早速マリンは、齢十にして、離宮を建てさせた。

 そこに、あらゆる種族の美人メイドを集めて、引きこもった。

 引きこもって、何をするのかと言えば……。


「はひぃ……。もふもふだぁ……」

「ひっ、姫様っ……あふんっ。そこはダメですぅっ……」


「おっぱいっ。おっぱいだっ! うっひょ~いっ!」

「ひゃぁっ!? 姫様っ!?」


「はぁ。はぁ。尻……。尻を舐める……。じゅるりっ」

「ひぃんっ! せめてお外では勘弁なさってくださいっ……!」

 

 それはもう、好き勝手やっていた。

 十で作った離宮には、十五になるころには、述べ百人以上の美人メイドが集まっていた。

 このままこの楽園で、一生を過ごしたい……。

 

 だが、そう上手くいくわけもいかなかった。

 結婚の話が来たのだ。

 王族の血を引くものは、子孫を残さねばならない。

 だが。

 だが!

 マリンは、可愛い女の子しか愛せない!

 だから彼女は考えた。

 これまで、どうすれば女の子を気持ち良くできるか。ただそれだけのために割いていた脳のリソースを、まとめて問題解決に回した。


 そして彼女は――結論に辿り着いた。


「女の子と赤ちゃん作ればよくね?」


 この世界は、異世界なのだ。

 魔法があるのだ。

 きっと、女の子とも、赤ちゃんを作ることができる!


 希望を胸に、マリンは、とある令嬢の元を訪れた!


「無理ね」

「どうして!?」


 令嬢の名は、セリア・シン・ロゼリアル。若くして魔法を極めた美女で、その冷徹な性格と、違法な実験をガンガン行ってしまう非道な性格から、悪魔の魔女――言いづらいので悪魔女と略されて呼ばれていた。


「生命とは神秘なの。人の介入できる世界ではないわ」

「嘘ばっかり! セリアは生命体をたくさん作って、実験のためにアレコレしてるじゃん! 命への冒涜じゃん! おっぱい揉ませて!」

「殴るわよ」

「いたっ! なんで拳っ!? 魔女なら魔法で叩いてよっ!」

「あんたが燃えカスになるじゃない」

「はぁ、はぁ。それも本望かも……」

「ふざけんじゃないわよ……」

 

 (あんたがいなくなったら、誰が私の面倒を見るっていうの……?)


「あれ? セリア、顔が赤いよ? どうしたの?」

「なんでもないわよっ。とにかく、同性と子を為すのは無理。諦めて」

「うぅっ……。そっかぁ。じゃあもういいや。今は無理ってことで。とりあえず、さぁ……。実験、しない?」


 セリアを抱き締めて、腰をヘコヘコ……とするマリン。


「愛が奇跡を起こすことだってあるんだよ!」

「奇跡なんてものは、魔法の対局にある概念よっ……」

「じゃあなおさらじゃん! セリアに、知らないこと……いっぱい教えてあげるよ……」

「……気持ち良くなかったら、許さないから」


 セリアは。

 マリンの秘技の虜になっていた――。


 ◇

 

 マリンは、まだまだ諦めない! 

 魔法的アプローチが不発ならば、身体的アプローチだ!

 王国騎士のサビーンの元へ向かった!


「ねぇねぇサビーン! 女の子と赤ちゃんが作りたい!」

「ぶはっ。ひっ、姫様は、気が狂ったのか……!?」


 あぁいや。元々こうだったな。と、サビーン・エドガー・ハリオネスは納得した。

 王国騎士である彼女は、マリンとも長い付き合いだ。


「だってほら、サビーンのお腹はカチコチでしょ? これだけムキムキなら、きっと立派な赤ちゃんを埋めるはずだよ。ほらぁ骨盤もガッチリしててさぁ……すんすんっ。おっほっ。訓練、たくさん頑張ったんだねぇ……。いい汗の匂いがするよぉ……」

「やっ、やめてくれっ。姫様っ……臭いからっ……」

「臭くなんてないよ? サビーンはいつも、レモンみたいな匂いがして、甘い匂いもして……。この鎧の下には、大きな果実を二つ携えていることも、知ってるんだよぉ?」


 まるで外道のような言葉遣いだが、これでも姫である。

 マリンは、サビーンを騎士の宿舎に連れて行くと、すぐさまベッドに押し倒した。


「ひっ、姫様っ、ダメだ……こんな昼間からっ……うっ」

「じゃあさ……。夜になるまで、する……?」

「……っ!」

「それとも、朝まで? 丈夫なサビーンなら、きっとついてきてくれるよね?」


 翌日。

 艶々になったマリンと、シナシナになったサビーンを見た騎士たちは、何も言わなかった――。


 ◇


 魔法もダメ。物理的な努力も意味が無い。ともすれば、これは種族の問題なのではないかと、マリンは悟る。

 彼女が次に訪れたのは、ドラゴンの里だった。

 ドラゴンなどの高貴なモンスターは、人間に化けることができる。


 つまり。


「アレの生えてる女の子がいてもおかしくないよね!?」

「なぜそうなるのじゃ……」


 ドラゴン族の長老、スカッピアは、ため息をついた。


「よいか? 竜がヒトに化けるためには、凄まじい努力が必要なのじゃ。そうして努力して、ようやっと、ギリギリ子供に化けられるくらいのもんで――」

「でもでもっ。スカッピアは、美人爆乳お姉さんじゃん……」

「妾とて、このように尻尾が残っておるじゃろう。完璧な人化は無理なのじゃ。まして、オスに化けて、そのっ……。いっ、イチモツを生やすなど、無理に決まっておるわいっ」

「そう言わずに……。一本だけっ! 一本だけでいいから生やしてっ!」

「お主なぁ……」

「それか、ドラゴン族の秘術で、私に生やして!」

「もう帰ってくれ。里の子が聞いたら性癖が歪む」


 スカッピアの放った言葉に、マリンは怪しく目を光らせた。


「なっ、なんじゃ……」

「……スカッピアもさ。出会ったころより、だいぶ性癖が歪んじゃったもんね?」

「なにをっ……ひゃっ! やっ、やめんかっ! 尻尾を撫でるなぁっ!」

「ふひっ。最初はここ、気持ち良くなかったのにねぇ。今では尻尾をコスコスするだけで、昇っちゃうもんねぇ?」

「やめっ……ひっ。いやぁっ……」


 誇り高き竜が、涙目になっている。

 なんとも罰当たりな行為だが、スカッピアはマリンのテクニックに夢中なのだった。


 ◇

 

 スカッピアから、こんなことを聞かされた。

 ――万物を統べる魔王であれば、同性と子を為すことができるかもしれん。


 マリンは、努力した。

 魔王を倒さねば、話など聞いてもらえないだろう。

 セリアから、魔王を倒せるだけの魔法を学んだ。


「ねっ、ねぇ……マリン。あなた本当に、魔王を討伐しに行ってしまうの?」

「うん……。きっと、険しい戦いになると思う」

「いやよ! あなたに何かあったら、私っ……」

「大丈夫。絶対に無事で戻ってくるから。ね?」

「いやっ。いやぁっっ。行かないでぇマリンっ!」


 孤高の魔女。悪魔女。様々な言葉で忌み嫌われてきた女も、マリンにメロメロのようである。

 マリンは、セリアの目元の涙を拭うと、唇に軽くキスをした。


「もっと深いのは……帰ってきてから、ね?」

「約束よ……? 絶対なんだからっ」


 魔法だけでは、魔王には勝てないだろう。

 そもそも魔法とは、魔王がこの世に放った、溢れんばかりの魔力を元にして使役するもの。

 ならばきっと、通用しない。


 だからマリンは、サビーンの元へ向かった。

 現世最強の騎士である彼女に、稽古をつけてもらえば、魔王にも抗えるかもしれない。


「はぁ、はぁ……。……よもや、一国の姫が、最強の騎士である私を、コテンパンにするかっ……」

「ふんっ。もっと強くなりなさいな。サビーン」

「屈辱的だなっ……くそっ」

「……まだ立つというの?」

「そうだっ……。あなたをっ。大切なあなたを、魔王の元に行かせるわけにはいかないっ……!」


 サビーンは、震える足で、剣を支えに、なんとか立ち上がった。

 だが、どうすることもできない。泣きそうな目で、マリンを見つめるだけだ。

 マリンは……。

 剣を捨てて、サビーンを抱き締めた。


「姫っ、様っ……?」

「もうおしまいよ、サビーン。……こんなに傷だらけで、可哀そうだわ。一体誰がこんなことを……」

「それは、姫様がっ……うっ」


 マリンは、サビーンの腕の傷に、キスをした。


「いっ゛……。唾が沁みますっ……姫様っ……おやめくださいっ……」

「んっ……」

「っ!?」

 

 今度は、唇に……。

 血の味のするキスだが、やや深く、サビーンをうっとりさせるには十分だった。

 ゆっくりと唇を離すと、二人の間に、涎の架け橋ができて、地面に落ちた……。


「姫様っ……本当に行ってしまうのか?」

「えぇ。だからサビーン。ちゃんと私に勝てるように、訓練しておいてね? 戻ってきたら、三日三晩……連続だから。ね?」

「……はいっ。必ず、ですよっ」


 もう一度キスをして、マリンは行った。


 最後に、スカッピアの元へ。


「のう……マリンよ。人の子よ。妾は確かに、魔王ならもしやと申した。だが、アレに勝つのは無理じゃ。考え直せ」

「ううん。私は行くよ。女の子と赤ちゃんが作りたい」

「そんな理由で……。……いや。この言い方はよくないな。お主の意思の強さは知っておる。同性と子を為すことができるようになるという噂の魔石を求めて、地獄のダンジョンへ潜ったり、山を登ったり……。……そうじゃったな。お主はいつも、妾に何かを尋ねるだけで、やめておけというアドバイスを聞いてはくれんかった」

「ごめんね……スカッピア。でも、私、余裕だから。赤ちゃん作りたいパワーで、魔王なんて蹴散らすから」

「マリン……」


 ドラゴンの里の子は思った。

 (赤ちゃん作りたいパワーってなんだよ……)


 マリンはとうとう、魔王の住む城へ向かった。

 道中、慌てて話しかけてくる魔王の使いを、言葉を無視して叩き切り。

 魔王の配下を、爆裂魔法で蹴散らし。


 とうとう、魔王の元へ――たどり着いた!


「……ふんっ。貴様が、我の城に不法侵入した、ヤバイ女か」

「そうだよ。私がヤバイ女。ねぇ魔王……選んで。私に倒されるか、私と赤ちゃんを作るか――」

「……」

「……沈黙は、敵対行為とみなすよ」

「いや、待たんかい」

「なに」

「我、なんか悪いことした?」

「は?」


 魔王は……。

 だいぶ泣きそうな顔をしている。

 ちなみに魔王の見た目は、中二病の女の子みたいな感じである。


「我、人にちょっかいかけたことあった? ねぇなんでこんな酷いことするの? みんな貴様のせいでボロボロだよ!?」

「えっ、いやっ、だって、魔王ってだいたいワルモンじゃん……」

「どこの世界の常識だよっ! 配下の話とか聞かなかった!? 魔王城って、人間の国で言うところの市役所みたいなもんだよ!? 丁寧に案内しようとしてくれなかった!?」

「ごめん……全然話とか聞いてなかった」

「なにそれっ……。意味がわかんないよ! もう怖いっ! 出てってっ!」

「出ていかないよ! 私は……。私は、女の子と赤ちゃんが作りたいっ!」

「もうなにそれ怖いっ!!!」


 すぐさま、話の通じる相手。として、セリア、サビーン、スカッピアが呼び出された。


「ねぇねぇ人間とドラゴン。このヤバイ女に教えてあげて? 魔王とはそもそも種族の違い的に赤ちゃんは作れないって」

「ねぇサビーン。あなた、マリンと別れる時、私より深いキッスをしたって本当? 私は浅いキッスだったのに!」

「ふんっ。私は姫様から最も愛されたメスだからな。ベッドの上で重なり合った時間は、最も長いだろう」

「人間共……。魔王の前でスケベの話はよさんか。魔王は初心なのじゃ」

「なんの話してるの……!? わけがわかんないよっ……!」


 スカッピアは、魔王に耳打ちした。


「のう魔王よ。あのマリンという女はバケモンじゃ。きっと何を言っても諦めん。ここは適当に嘘をこいて、話を終わらせるのはどうじゃ?」

「うっ、嘘っ? 魔王は嘘なんてつかないよ?」

「ええい知るもんか。威厳の無いヤツめ。いいから嘘をつけ嘘を。さもなくば、ドラゴンの里で販売している甘々のケーキを、もう分けてやらんぞ」

「えぇっ!? しょんなんぁ……。……わかったよぅ。嘘、つくよぉ……」


 渋々と言った様子で、魔王は、マリンを呼んだ。


「どうしたの。私の赤ちゃん、産んでくれる気になった?」

「もう怖いよそれやめてよ……。……ごほんっ。あの、あのね? 実は、魔界に昔から伝わる話があって……」

「なにそれ聞かせて! ちゅっ!」

「ふぇえぇっ!? なんでキスしたのぉ!?」

「だって、魔王ちゃん可愛いから……。ねぇお話が終わったら、私とスケベしない? 大丈夫……そこにいるスカッピアだって、満足させた指だよ……?」

「ひぃっ……。助けてぇっ。スカッピアぁっ……」


 スカッピアは、頬を赤くして、俯くだけだった。


「いっ、いいからっ。話を聞いてよぅっ……」

「そうだったね。なに? 言ってみなよ」

「うん……。その……。なんちゃら大陸ってとこに、なんちゃらの秘宝ってのがあって」

「ちゅっ」

「相槌でキスしないでよぉっ!」

「それからそれから?」

「だからっ。なんちゃら大陸に行って、なんちゃら冒険すればっ!? お願いだからもう魔王の城には近づかないでっ! マリンは出禁っ!」

「えぇっ!? もうこのお店には通えないの!?」

「お店じゃないよっ!!!」


 こうして、マリンは魔王城を追い出された。


 ◇


 数年後。

 

 なんちゃら大陸を見つけだしたマリンは、なんちゃらの秘宝を手にしていた。


「……これ、どうすればいいんだろ」


 わからないので、情報をくれた魔王の元へ向かった。

 出禁なので追い出されそうになったが、マリンが怖すぎて、誰も逆らえなかった。


「魔王ちゃんっ!」

「ひゃぁっ! また来たぁっ!」

「なんちゃらの秘宝、手に入れたよ! どうやって使うの!」

「……ふぇっ?」

「だ~か~ら~っ。なんちゃらの秘宝、見つけたよ~! って!」


 (そっ、そんなの、あるはずが……)


 マリンが掲げた秘宝を見て、魔王は絶望した。

  

 (あ~。我、殺されちゃうんだ。あははっ)


「ごっ、ごめんねっ……あれは、嘘みたい、なのっ……」

「嘘っ……?」

「ひぃっ! だ、だって! 伝説だったんだもんっ! 我も嘘って知らなかったんだもんっ!」

「……そっか。嘘かぁ」

「ひっ……」

「あははっ。じゃあしょうがないよね!」

「えっ……!?」


 (なんで笑ってるの……!? 怖い怖い……!)


「まぁぶっちゃけ、嘘かな~って思ってたんだよね! それよりもさ、魔王ちゃん! 私とデートしない?」

「デートぉ!?」

「うん! あ、大丈夫! 終電までには返すから! ね? 絶対絶対」


 (我知ってる……。これ、絶対家に連れてかれるヤツだ!)


「いっ、いやっ。デート、いやっ……」

「えぇ~? 魔王ちゃんの大好きなスイーツのお店、予約したのになぁ」

「スイーツ……?」

「うん。とってもふんわりしてて、甘いんだよぉ?」

「ふんわり……。甘い……。へっ、へへっ」

「早く行かないと、売り切れちゃうかもなぁ?」

「い、行く! 我を連れてって!?」

「ふひっ。やったぜ」


 (ホテルも予約しとこ……)


 最低の女。

 百合好きの変態痴女。

 

 お忘れかもしれないが――彼女は転生者なので、当然のようにチート能力を有している。

 魔法も武道も、ピカイチの才能を持ち、その体が老いることは無い。不老不死のバケモノ痴女。それこそが――マリン・ヴィア・ヴィロッセル。


 彼女の夢は……女の子と赤ちゃんを作ること。

 

 これ以上の被害者が出ないうちに、さっさと夢を成し遂げてもらいたいものだ――。

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