8.消えた『モノサシ』


 休み明けの、久しぶりに気が重い登校から、更に数日が経ち。


 あれから一度も、夕奈さんとは、一緒に帰っていない。

 それどころか会話も、まともに顔を合わせることすら、できていなかった。


 ……当然だと思う。勝手に首を突っ込んで、訳の分からないことを捲し立てれば、嫌われるのは当たり前だ。


 教室の窓際、一番前の席に座る彼女と、一番後ろの席に座るボク。


 ボク達の間に『モノサシ』は見えない――あれから『モノサシ』は、完全に消えてしまった。


 夕奈さんはボクのことを、意識することもイヤになってしまった、ということだろう。本当に、ずっと彼女の後姿しか、見ていない。まあ元々、ボクが彼女の後姿に話しかけるのが定番だったから、見慣れたものではあるけれど。


 言ってしまえば、初めの状態にリセットされた、それだけのことだろう。もう、一緒に帰ることは、ないのだろうけれど。


 それは、長い長い『モノサシ』に胸を貫かれるより、苦しいことだけど。


 それでもあの日、彼女達を呼び止めたことに、後悔はない。


 ……あれから一度だけ、夕奈さんと義理のお母さん(多分だけど)が一緒に歩いているのを、街中で見かけたことがある。


 どことなく余所余所よそよそしいのは、相変わらずだったけれど。


 二人の間には、長い――長いけれど、確かに『モノサシ』が、から。


 それは本当に、良かったと、そう思えるから。


 それでもう、充分だ。


 たとえボクと夕奈さんの『モノサシ』が――二度と繋がらないのだとしても。


 ………………。


 ―――――――――――――――



「ねえ」



 一瞬、何が起こったのか、分からなかった。


 放課後の、誰もいなくなった、夕陽の差し込む教室で。




 ――――ボクは夕奈さんに、呼び止められた。

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