2.『望月 夕奈』という彼女


 望月もちづき夕奈ゆうな――望月さんは。


 クラスで窓際の一番前の席に座っていて、人の目を惹く端麗な容姿をしていた。


 長いストレートの黒髪は、涼やかな顔立ち引き立てるように、静謐な雰囲気を漂わせて。

 大きな目を飾るまなじりは切れ長で、清楚でありつつクールな印象を醸している。


 そしてどことなく、愁いを帯びている……気がする表情は、やはり他者を引き付けてしまうようで。


 けれど望月さん自身は、人と関わるということに、あまり好意的ではないらしかった。



 ある日の放課後、クラスのムードメイカー的な女子が、望月さんを遊びに誘おうとした時。


『ねえねえ、アタシら帰りにカラオケ行くんだけどさー、望月さんも一緒に――』


『行かない』


『…………』



 また噂で聞いた話では、入学からそれほど経っていないというのに、別のクラスの男子から呼び出されたらしく。


『も、望月さん! 良かったら俺と、友達からでもいいんで――』


『お断りします』


『…………』



 誰に『モノサシ』を伸ばされようと、望月さんには一切取り付く島もなく。

 一瞬だけ望月さんから伸びた『モノサシ』が槍のように相手を貫いて、すぐさま消えてしまうのが、ボクから見える通例だった。


 そんなこんなで、望月さんは今日に至るまで、誰とも『モノサシ』を繋がず。


 入学当初の『涼やかな』美人という印象が、『冷ややかな』という評価に転じる頃には、望月さんに話しかけようとする人は、ほとんどいなくなっていた。


 ………………。


 だからこそ、ボク自身、本当にどうかと思うけれど。


 今まで喋ったこともなく、そもそも人との関わりを避けているような、そんな彼女に。



 ボクは今から、話しかけようとしている。



 夕陽の差し込む放課後の教室で、たまたま残っていた望月さんと、二人きり。


 彼女はいつも放課後、図書室や教室で本を読むなどして、遅くまで時間を潰していた。なぜなのか、事情は『モノサシ』と違って計り知れないけれど、話しかける分には助かる。


 ボクの席は窓際の一番後ろで、望月さんの後姿ばかりが印象深い。


 席を立ったボクは、緊張しながらも一歩一歩、彼女へと近づき。



 声をかけた――〝良かったら一緒に帰らない?〟と、シンプルに。



『モノサシ』は、まだ繋がっていない……つまり話しかけられたと、すぐには理解できなかったのだろう。


 そしてようやく意識されたのか、ボクと彼女の『モノサシ』が繋がると。


 ストレートの黒い長髪の、見慣れた後姿が、ゆっくりと振り返ってきて。


 ぽつり、返してきたのは。


「……………は?」


 不審者を見るような視線と、長い長い『モノサシ』が、ボクの体を真っ直ぐ貫いた。

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