再会は急に訪れる
SE///駅コンコース。人々の騒がしい音。
「あれ、もしかしてだけどッ」
放課後下校中、電車を降りて人の流れに沿ってコンコースを歩いていると、どこかで聞いたような少し高めな声が耳に届く。
「お兄さんお兄さんちょっとお兄さん」
SE///足早な
声は後ろからこちらへと近づいてきて、明らかに自分に声をかけている。この少し高めな声で自分をお兄さんと呼ぶ人に心当たりはひとりしかいない。人の流れの邪魔にならないように立ち止まり振り向く。
「あ、ほらやっぱりお兄さんだったッ」
そこにいたのは黒髪をショートヘアに整えたスカート制服姿の女子がひとり。先日、ラーメン屋で一緒にラーメンを食べた女の子。
「わぁ、制服姿を見ると本当に高校生だったんだなって感じだね」
それはこちらの台詞だよと思いながらも、先日のラーメン屋の
「ん、どうしたの変なお顔になっちゃってさ?」
が、見とれた間は気づかれてしまったようだ。慌ててスカート履くんだねとまた失言を口走ってしまう。
「ん、ああなるほどね、この前が
永吉さんは不快には思ってないようでホッとする。彼女の言ってる事も間違ってはいないので正直に頷く。
「あれは好きで着てるのもあるけど事情も色々とあるんだ。確かにスラックスも今どきは選べる時代だけど、ボク、スカートも可愛いから嫌いじゃないんだよね。ほら、せっかく選択肢があるなら色んな格好してみたいじゃん。気分によってはもちろんスラックスも履いちゃうよ」
ニンマリとした永吉さんの笑みは変わらずなイタズラ小僧のようでもありちょっと小悪魔的にも見えてしまう。これは、こちらが女の子として意識をしてしまっているせいなのだろうか。
「そうだ、せっかく再会したんだしさッ、ちょっとお話しをしない。あ、時間が無いなら引き止めちゃわないけど、どう?」
時間が無いだなんて事は無い。いいよと了解すると。
「やったね、さすがはお兄さんだ。うんうん」
永吉さんは頷きながら、何故だかご満悦な様子だ。何故、そんなにご満悦なのかは分からないのだが。
SE///ハンバーガーショップの音。
立ち話もなんだという事で駅近くのバーガーショップにやってくる。永吉さん的にはラーメンの方がよかったかなと今更ながらにたずねる。
「いやいや、たまにはバーガーも悪くはないよ。一番がラーメンであることには間違いないんだけど──ハムッ、ン〜美味しっ。ぅありゃ、口の端っこについちゃったみたい。む、んま、よしと」
永吉さんは注文したビッグなバーガーに一口かぶりついて口横に着いたケチャップを親指ですくい舐める。これは素なのか、また可愛い仕種をしてくれる。
「ん〜、それよりもお兄さんこそさ、ボクみたいな女子と一緒にハンバーガーだなんて大丈夫? 友達とかになにか言われたりしないの?」
何かと言うのはなんて羨ましいヤツめなやっかみという事だろうか。それならじゃんじゃか自慢して羨ましくしてやろうと思うが。そちらこそ、お友達に何か言われてしまうんじゃないかとたずねると
「ぇ? あぁ、アッハハ、お兄さんならボク安心だから大丈夫だよ。同じ馬杉しょうゆを美味しく食べた仲だしね。あんなに美味しそうにラーメンを食べる人間が悪い人なわけないしね。それに、うちの学校はこっから離れてるからさ、知り合いなんて会う方が珍しいんだよ。ま、確かに女子校だからそういう話も友達同士でしちゃいがちだけどさ。あっ、ボクはあんまり興味無いんだけどねッ。恋愛とかは漫画やアニメで充分だよっ」
大丈夫や安心と言うのは異性としては見られていないという事だろうか、そういう色恋話に興味無いという事はそうなのだろう。何故だか気持ちがちょっとショックを受けているが、こうやって恋愛対象と意識されないで心の
「ん、どうしたのお兄さん? なんか考え事でもしてんのかいしてないのかい? どっちなんだいっ。なんてね、アハハ」
また何か考えているふうに見えてしまっただろうか。ポテトをモグモグしながら永吉さんは首を傾げつつなにかのギャグを決めて笑っている。たぶん芸人さんのギャグなのかもしれないがそっちには疎くて分からない。しかし、あまり意識しすぎている事がバレては気分よく思わないのではと思い、視界に入った永吉さんの鞄に着いている色んなラーメンの形をしたストラップを話題にする。
「あ、これ? 美味しそうで可愛いでしょう。ドンブリの中に鈴が入ってるんだよ。最近お気に入りのアイテムなんだ」
確かに美味しそうではあるが、可愛いだろうか? 女子の可愛いはよく分からないが、永吉さんが可愛いというのなら可愛いのだろう。しかし、凄い数だ。お店で買ったのかとたずねる。
「ううん、ゲーセンとか本屋さん、スーパーとかに置いてあるガチャガチャだよ。結構いろんなあるでしょ。中には誰が買うんだっていう面白いのもあるけどね」
あぁ、入り口とか出口によく置いてあるあれかと納得。しかし、誰が買うんだって面白いものって言うのはまさにコレの事では無いだろうかとラーメンストラップを眺める。
「なに、なんか言いたそうな顔をしてない?」
いや、別に。と、目をそらす。
「ホントかなぁ? ま、いいやボクはちょっとお兄さんに言いたい事があったからこの流れはちょうどいいかも知んない」
こちらに言いたい事? 何だろうかと首を傾げると、永吉さんはちょっと言いにくそうに口ごもった様子で油のまわったフニャッとしたポテトをモグモグとさせてから身を乗り出して顔をグッと近づけてきた。いや、近すぎではっ。
「ちょっと耳貸して」
ドギマギなこちらの心を知ってか知らずか。耳を両手で包むように隠して小さな声を震わせてヒソヒソなこそばゆい耳打ちをしてきた。
「あの、ちょっとだけカレシのふりして欲しいんだけど?」
その言いたい事には目を丸くせざるを得ない。
「次の日曜日にぃ、なんだけどぉ、ダメかな? 予定あったりしちゃう?」
こんな可愛さしかないお願いされたら予定なんてあってもないようなものだろう。カレシのふりをする理由はよく分からないが、断る理由は無い。返す言葉は二つ返事だ。
「ホントッ、やったっ」
永吉さんはもの凄く嬉しそうな笑顔で片手でガッツポーズを取ると残りをビッグなバーガーを美味しそうにたいらげるのだった。
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