ラーメンをいただきます


 SE///賑やかな店内の音。


 店の中に入ると店員さんが空いている二人席に案内してくれようとする。


「えっ、あの、ボク達は連れってわけじゃないんですけど。えと、お兄さんはボクと同じ席でいいの?」


 空いている席がそこしかないのなら同席でも構わない。君こそ一緒で大丈夫かと少年にたずねる。


「ううん、ボクは別に気にしないよ。お兄さん、話してていい人そうだったしね、お兄さんが嫌じゃないならイイよ。正直、らぁめんが早く食べたいしね。あ、すいません二人席で大丈夫です。はい」


 少年はちょっとはにかんだ笑みで頷くと店員さんに二人席を了承することを伝える。


 SE///椅子を引き座る音。


「えーと、ボクは決まっているんだけどお兄さんは? ボクがおすすめした馬杉しょうゆと鰹節ミニ丼? そっかわかった。実はボクも同じやつ頼むつもりだったんだよね。だからおすすめしたってわけじゃないよ? 美味しいからおすすめを──あ、すみません。このまま注文をお願いします。馬杉しょうゆらぁめん二つと鰹節ミニ丼二つ。麺の硬さは、お兄さん硬め? はい、ボクも硬めで。はい、お願いします」


 少年は店員さんがまだ隣りにいることに気づきちょっと慌てながらも、なんだか嬉しそうに馬杉しょうゆラーメンと鰹節ミニ丼の注文を店員さんに伝え、店員さんがテーブルに置いたお冷をくぴりと一口飲んだ。


 SE///テーブルにコップを置く音。


「ふぅ〜、それにしてもさ、ボク達そんなに連れっぽく見えたのかなぁ? ちょっと喋ってたくらいなのにね」


 仲のいい兄弟くらいには見えたのかも知れないと言うと、少年は笑いながら野球帽を脱ぐ。


「あははは、えぇ〜、兄妹に見えるかなぁ。確かに歳はちょっぴり離れて見えてそうだけどそんなに顔は──て、どしたのお兄さん?」


 野球帽を脱いで黒髪のショートカットヘアを手櫛で軽く整える仕種と真正面から顔をよく見る。ほんのりと唇以外薄く化粧された顔に少年だと思ってた子が少女だったと気づき、思わず女の子だったのっと口走ってしまう。


「ええっ、それじゃボクを男だと思ってたってことッ。ヒドイなぁ〜どう見たってボク女の子じゃない。ぇ、口調て今どきは多様性な時代だよ口調なんて自由じゃないか。もう、お化粧だってしてるのに……いや、多様性なら今どきの男の子も化粧くらいしてるのか。とにかく、ボクは正真正銘に十七歳の女子高生なんだからねッ」


 同い年である事に更に驚き、中学生なのかと思ってたと余計な事を口走る。


「チュウガクセイだってえぇっ。そっちの方が許せな──て、待ってよお兄さんも高三だっていうことッ。嘘だよ、その顔は社会人か大学生の大人じゃんか──ぁ」


 また新たにプリプリと怒ろうとしたが、タメだと聞いて向こうも若干失礼な事を口走ったと口を抑えた。本当はこちらは高二だと言うことは黙っておく事にする。


「タハハ、ま、お互いに失言て事でさ。遺恨は無しにしちゃおうよ。せっかくのらぁめんの前だからさ、オッケー? うん、お兄さん話が早くて助かるよ」


 特になにか言ったわけではないが賛成ではあるので軽く頷く。


「とと、せっかく顔を並べて馬杉しょうゆらぁめんと鰹節ミニ丼を食べるんだ。腹を割ってお互い自己紹介といこうよ。ボクは新芽あらめ永吉新芽ながよしあらめ」てゆうんだ。新芽しんめて漢字でアラメて読むんだよ。お兄さんのお名前は──」


 永吉新芽さんの柔和な笑みを見つめながらこちらも簡単な自己紹介をして、ラーメンが来るまで楽しく談笑をした。


 SE///一際強くなる賑やかな店内の音。


 しばらくして、永吉さんおすすめの馬杉しょうゆラーメンと鰹節ミニ丼が運ばれてきた。


「わあッ、待ってましたよ。はい、箸。ようし、食べよう食べよう」


 湯気たつしょうゆラーメンの美味そうな香りに目を輝かせて引き戸式の箸入れから割り箸を二つとって永吉さんが渡してくれるのでそのまま受け取る。


 SE///パキリと割り箸をキレイに割る音。


「いただきまぁす。ふぅ、ふぅ、ズズッ──ん〜ッ」


 永吉さんは手を合わせ頭を下げた丁寧ないただきますをして、先ずはレンゲで琥珀色のしょうゆスープをズズッと啜ると満面な笑みを浮かべている。一瞬、見とれながらもこちらもならってスープを一口啜る。アッサリ系のしょうゆスープが身体に染み込んでゆくのような不思議な美味さを感じる。


 なるほど、これは確かに美味しいと顔を上げると


「ズズズッ──ふ、ふぅ、ズズッ、はふ、んん〜ッ、ズズズズッ」


 永吉さんは目の前のラーメンに集中して全身で美味しいを表すような笑顔で食べている。

 そうだ、彼女は大好きなラーメンを前にしているんだ言葉なんて交わす時間は無い。こちらも彼女の大好きを味わなければ。


 SE///しばらく麺とスープを啜る音。


「ふうぅ〜、さてさてお待ちかねのしめメシといこうかなぁ」


 あらかた麺を食べ終わったらしい永吉さんは一枚残していた鶏チャーシューを半分ほど食べた鰹節ミニ丼へとトッピングしレンゲでしょうゆスープを掬いススッと投入した。


「お兄さんもやってごらんよ。この〆メシがまた美味しいんだよ」


 こちらもちょうど麺を食し終わったので言われた通りに真似てスープをミニ丼に投入する。


「それじゃあ、〆をいただきまぁす。はふ──ん〜♪」


 レンゲで掬いオジヤのように食す永吉さんの顔はご満悦で魅入ってしまいそうになる。

 見とれてしまっているのを気づかれないうちにこちらも新芽さんの言う〆メシをこちらは箸で掻き込んでいただく事にする。


 SE///お互いの〆メシを食べる。


 単独で食べたふわりと削り立てか鰹節の味も美味かったが、しっとりとしょうゆスープに浸って染みる鰹節のお味がまた別の味覚の扉を開けてくれるようであっという間に平らげてしまった。


「ふぅ〜、ごちそうさまでした〜。いやぁ並んだ甲斐のある美味さだったなぁ。もう一杯食べたい気分だよ」


 SE///お冷を注ぐ音。


 同時に〆メシを平らげ、ご満悦な笑顔でお冷を注ぐ永吉さんがまた食べたい気分というのでもう一杯頼むのとたずねる。


「いやいやいや、気分だって気分。さすがにボクだってお腹いっぱいで入んないよ。ンク──ンク、ふぃ〜。まあお腹に余裕があったら本当に食べたいところだけど」


 お冷をくぴりくぴりと飲みながら平らげたドンブリを眺めるので、あながち冗談でも無いのかも知れない。


「ンク、よし。ま、入ったとしても次に待つ人達にこの席は譲らないとね、みんなここのラーメンが食べたいのは一緒だからさ。にひひ」


 SE///お冷グラスを置く音。


 そう言って飲み終えたお冷グラスを置くと野球帽を被るとニンマリと笑う。その顔はどこかイタズラ小僧のような少年っぽさが見えたと言ったら怒ってしまうだろうか。


「たまには誰かとお店のラーメン食べるのも悪くないね。前はひとりで食べた馬杉しょうゆらぁめんと鰹節ミニ丼だけど一緒に食べられて楽しかったよ」


 それはこちらも同じだ。楽しくて美味しかったよとお礼を言う。


「えー、お礼言われることかなぁ。とと、お会計しにいかないと」


 永吉さんは、はにかんだ照れた笑みを見せながら伝票を片手で取って振った。


「今日は奢り、と言いたいところなんだけどここはお互い金無し高校生。自分の分は自分で払いましょうか」


 それはそうだねと笑うと、永吉さんも釣られて声を出して笑った。


「あはは、そういうわけでお会計いきましょうお兄さ……んぅ、でも同い年タメでお兄さんてのもおかしな話かぁ……あぁ、でも君を呼ぶボクの唇はもうお兄さんで固まっちゃってるからお兄さんでいいよね?」


 本当はそちらの方が学年は上の先輩であるのだが、こちらもお兄さんの方が不思議ともうしっくりくるような気がするので、指摘はせずに了解の意味で頷いた。


了解ラジャー、それじゃいこっ。おにい〜さんッ」


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