永吉さんとラーメンを

もりくぼの小隊

行列に並んでいる


 街をブラリと歩いていると何やら行列ができているのが見えた。SE///街の喧騒

 何の行列だろうと最後尾に並んでいる青い野球帽を被りダボッとした白色パーカーを着た小柄な少年に聞いてみる事にした。


「はい、なんですか? ぇ、何の行列かって見てわからない? あれあれ一番奥の看板見てくださいよ」


 少年は少し高めな声音で答えてから指を指す。男にしてはちょっと華奢めな細指の先を見つめると達筆な看板に「らぁめん馬杉うますぎ」と書かれている。なるほどラーメン屋さんの行列だと理解する。


「お気づきご理解どうもですね、じゃ、ボクはらぁめんに忙しいんで。お兄さんは並ばないならこれにてサヨナラ」


 少年は素っ気なく片手を上げると前の方を向いてソワソワと楽しそうに身体を揺らしている。どうやらよっぽどここのラーメンが楽しみなのだろう。なんだか興味が湧いてきて少年の後ろに並ぶことにした。


「え、なにお兄さんもらぁめん食べるの?」


 こくりと頷くと少年は口元を小さく笑わせた。


「なあんだ。ボクはさ、てっきり──ううん、邪険にしちゃってごめんね。ちょっと色々と警戒しちゃってて……気にしてない? そっかぁお兄さんは心が広い人なんだねぇ」


 そんなことよりここのおすすめのラーメンを聞いてみたいとたずねると少年は得意げに野球帽を指で押し上げ、その吊り目がちな眼を輝かせて答えてくれる。


「ボクのおすすめなら看板メニューの馬杉しょうゆらぁめんだね。白髪ネギに鶏チャーシューが二枚とトッピングはとってもシンプルだけど、スープの味わいが凄く深くってさぁ、麺に絡んですんごく美味しいよ。これに鰹節かつぶしミニ丼を頼んで締めにスープを投入、カカッとかき込んで食べるのも至福な美味しさなんだよねぇ。あ、カカッとておかか鰹節とかけたギャグじゃないよ。ボク、そんなオヤジギャグ言わないからねっ」


 オヤジギャグがどうとかは気にしていないが、そんな美味しそうな表情をされるとそのしょうゆラーメンとミニ丼を頼むしかないなと伝える。


「え、ボクのプレゼンで食べたくなったってこと? うんうん、是非とも食べてみてよ。後悔しない美味しさがお兄さんを待ってるんだぜ。へへ、なんだか馬杉しょうゆの魅力が伝わってくれたみたいで嬉しいなぁ。実物はもっと魅力的だからね、楽しみにしててよ」


 少年は柔和な口端くちはを上げてとても嬉しそうに微笑み、目を輝かせて馬杉しょうゆラーメンの魅力を語ってくれる。なんだかこちらがちょっとドキリとしてしまう程に少年のラーメン好きまっすぐな笑顔はとても素敵なものに見えた。



 SE///行列に並ぶ人々の音



 しばらく並び、列に流れに沿って歩いて行くを繰り返していると店員さんがここまでのお客様どうぞとこちらに顔と手を向けて言う。


「お兄さぁん、ラッキーだねぇ。ギリギリ入ってんじゃぁん」


 少年が顔をこちらに向けてイタズラ小僧のように笑う。確かに、ギリギリで入れるのはラッキーだなと言うと。


「でしょう、しっかりらぁめん味わってくれたまえ」


 なんだか店の店主のように得意げに胸を張る少年に和みながら店に入ってゆく。


 SE///店の引き戸を開けるガラガラとした音。


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