Track06.この幸せな時間をもっと(手作り綿棒・左)


「……何にも言ってないよ。気のせいじゃないかな」//素っ気なく誤魔化す

「分かったって、もう悪戯はしないから」


「……ふーん? 驚いてはいるのだけど、止めてほしい訳ではないんだ」//興味深そうに

「それなら、今度はキミがリクエストしてよ。ボクは全部受け付けるつもり」

「なーに照れてるんだい、ボクみたいに素直になればいいんだよ」

「……ふふっ、確かに難しいことなのかもしれない。ボクだってキミ以外にここまで全部さらけ出せたりしない」


「さて……もう一本作ろうか。脱脂綿を取り換えて……」


//SE 爪楊枝から脱脂綿を外す音


「くるくる……ぎゅっ……きゅっ。」//SE 手作り綿棒の作成音


「出来た。それじゃ、始めるよ」

「こちら側も浅い所を、ふーふーしながらやっていくね」


//SE (継続開始)手作り綿棒の音(浅め)



「ふわ、ふわ、ふわ……。ふわっ、ふわわー……」//呟く


「ふっ、ふー……。ふー……」//息吹き


「ふわー……。ふぅー……」//呟きと息吹き



「気持ちよさそうでよかった。この手作り綿棒にも色んな思い出があるけれど、一番大事なのは、まずキミに満足してもらうこと」//穏やかに

「さっきまでの話だって、聞き留めないで構わないぐらいだからさ」

「普通の綿棒や梵天とは違う、綿わたのもっちりとしたふわふわの触感でお耳の中を優しくケアする」


「そのまま、寝てしまってもいいよ。これが終わったら耳かきも終わりだけど、ちゃんと膝枕を続けるよ」

「今更、遠慮とか我慢とかもしないで。ボクがキミにしてあげたいことをやっている……それだけだ」



「ふー……、ふぅー……」//息吹き



「なんたって今はもう、半分ぐらい同棲してしまってる感じだし」

「ごはんは大体はどちらかの部屋に集まって食べてるし、お互いに相手の部屋で泊まった経験は数え切れない」


「大学に入ってもお隣さん同士だったけど、さらに距離感が近づいて生活面でも頼り合う関係になった」

「引っ越して早々、普段は使わないとして、万が一とか念のためとか理由を付けて合鍵も渡し合った」


「それからすぐの時期に、ボクの部屋に手のひらサイズの蜘蛛が出てきてしまって」//驚愕の瞬間を思い出しつつ

「助けを呼ぼうとキミの部屋まで駆け込んだ時に使ったら、お風呂上りでパンツだけのキミに鉢合わせてしまった」

「キミのパンツ姿自体は数回見たことがあったけど、それでも気まずかったなぁ」//しみじみと


「一応は緊急用の合鍵を使って入ったボクに、キミが文句とか羞恥心とかを押し殺して『何があったんだ』って聞いてくれて」//『』内は真剣味のある声で

「急いでなかった訳では全くないけど、それでも『でっかい蜘蛛が出て、追い出してほしくて……』って白状してると心苦しくて」//『』内は情けない声で


「ぶつくさ言いながら蜘蛛を追い払ってくれた時に、すごくほっとした気持ちになった」

「家族と離れている間に、割と何でもないことで助けてもらえたという事実に、とても安心出来たんだ」


//SE (継続終了)手作り綿棒の音(浅め)


「うとうとしてる、ふーふーも優しくしないと……」



「ふー……、ふー……、ふー…………」//息吹き、細く長め



「奥の方に、移るからね?」

「深めに移るときも、びっくりさせないようにゆっくり丁寧に……」


//SE (継続開始)手作り綿棒の音(深め)



「くる、くるー……ふわふわー……」//呟く


「ふー…………。ふっ、ふぅー…………」//息吹き、ちょっとリズムを取りながら


「くるー……、くるー……」//呟く



「寝落ちしてしまいそうなら、無理はしないでね。ボクの独り言も聞き流してしまっていい」

「他愛もない話だ。ハッピーエンドに終わった過程を振り返るだけの、過去の話」


「高校生の頃に外面そとづらを築き始めて、少しだけど休日に遊んだりする友達も出来たりして、キミとの距離が僅かに開いた」

「それは、ボクとキミの関係について見つめ直す機会でもあった」


「キミと一緒にいれば、キミさえいてくれたら……という思考が、キミに対する依存になっていないか?」

「ボクのキミに対する依存症も持っていて、それでキミが迷惑をこうむってないか? ……みたいなことを」

「結論は……『それでもキミと一緒にいたい』になってしまうのだけど」//苦笑いしながら



「ふー……、ふぅー……」//息吹き



「ただ……多少は自分のことについて広い視野を持てたのかな」

「キミが絶対にボクを見捨てないでくれると、そう信じられるようになって」


「ボク自身が将来やりたいことは何か、どんなライフキャリアを考えているのか、どういう人生なら後悔しないか」

「両親やキミに心配をかけさせていないか、キミがしんどい時にボクが支えてあげられる力があるか、キミにとってボクが魅力的で見苦しくないか」


「結局、キミの目線を気にしている所が多くなってしまっているけど」

「それでもボクが出来ることを探し始めていた。料理とか……家事を覚えていったのもこの時期」

「どちらが影響を受けたのか、与え合ったのかは分からないけど。進学先の第一志望が被ってしまってるのを知って、もっと具体的に考え始めた」


「キミとボクとの二人で生活するのに備えておきたいこと」//夢想しながら、ゆっくりと

「三人、四人と増えていく中で必要になること」

「また二人に戻った後でやりたいこと」

「どちらかひとり……になったとしても、思い残すことがないように……」//涙は零れないが、僅かに息を詰まらせる


//SE (継続終了)手作り綿棒の音(深め)


「最後にもう一度、息、吹きかけるよ」



「ふぅー…………、ふぅー…………」//息吹き、細く長め



「これで、全部おしまい」


「……」//寝ていることを確認しながら、聞かれる覚悟を決める


「でも、こんな時間がもっと続いてくれたらいいのに」//目を覚ましてしまわないように、静かに

「ずっとこのままでいたい。二人で、一緒に、この幸せな時間をもっと過ごしたい」//何度か経験した緊張感と共に

「変わらなくてもいいと、言ってくれたキミのそばでずっと……永遠に」


「……ふー……」//やっぱり寝ている、という安心感とやるせなさ


「……ほっぺたを優しく、ぷにっと」//気が抜けた感じで


//SE 頬にそっと触れる音


「やっぱり寝ちゃってる。ぐっすり眠れるぐらいに癒されてくれたのなら嬉しいのだけど」


「……ちゅっ……」//頬に軽くキス


「……中三の時から、幾度か似たようなことを繰り返してきたけど、起きた試しがない」//安堵しながら

「目が覚めている時に出来ないボクが悪いのだけどね」


「でも……例え、バレたり聞こえてたりしても構わないとは、本当に思っているけど」



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