Track03.一癖ある新耳かき棒(煤竹耳かき・右)


「そういえば……最後に耳かきやってあげたのってどのくらい前だったかな? 結構前になると思うんだけど」//真後ろから顔を覗き込んでいる距離感

「うん。そっか。それじゃあ、ついでに耳かきもやってあげようか。新しく買ってきた耳かき棒もあるんだ」


//SE 耳かき棒を取り出す音


「そう、この子。媒竹すすたけ製の極細耳かき」

「滑らかで優しいけど、かりかりと引っ搔いていく感触で結構気持ちいいよ。試してみない?」


「決まりだね。それじゃあ、ボクも座椅子に座らせてもらって……」//ローテーブルの斜向はすむかいに移動開始


//SE 座椅子に座る音


「はい、膝枕。おいで?」//SE 太ももを軽くペチペチする音

「濡れタオルで拭いてた髪の毛が若干濡れてても、ボクはショートパンツで生脚だし平気だよ?」

「む。なんだ。ボクの膝枕が今更イヤがるのかい? 何回もしてあげてるじゃないか」//わざとらしく、不満げに見せてみる


「そうそう、いつものことなんだから最初から素直に……んゅっ!」//油断していた所で驚かされる

「ぅぁ……油断してた……。思ってたより湿っているというかひんやりしたよ」//後悔を滲ませる

「ああでも、太ももにキミのほっぺたの感触が直に伝わってくるのは……少し面白いかも」//調子を取り戻す


「気を取り直して、耳かき棒を入れていくよ」

「最初は浅い所から。痛かったりしたら言ってね?」


//SE (継続開始)煤竹耳かきの音(浅め)



「かりかり……かりかりっ……」//呟く



「どうかな? 普段使っている耳かき棒とは使い方を変えてみたのだけど」//どこか自慢げに

「匙の部分が小さめだから力は軽めに、かりかりする回数は多めにしてるんだ」

「ちゃんと耳垢も取れてるし……いい感じ」


「耳かき棒自体が細めでよくしなるのを生かして、その弾力を上手く生かしてあげるのがコツ」

「お耳の中の皮膚を傷付きにくくしながら、ほどよくマッサージ効果も期待出来るんだよ」

「だんだんとお口が開いてきてるよ、気持ちいい? ……それなら買って正解だったね」//得意そうに



「かりかり……♪」//楽しげに呟く



「こうやって耳かきしてあげるのは何回目になるのかな。初めてやった時のことは覚えているけど」//過去を思い返しながら、ぽつぽつと

「小学校の時に、ボクの家のリビングで、窓際のソファーの上に二人で上がって」

「ちょうどよく暇してたキミに声をかけて実験台にしたんだ。結局は帰ってきたお母さんにバレて怒られたけど。覚えてる?」


「ふふっ。あの時は巻き込んじゃってごめんね?」//一瞬、可愛げを出して


「ボク自身はお母さんに耳かきしてもらっていて、自分でやるのはまだ駄目だと言われてた」

「お母さんがお父さんにやってあげてるのを見たことあって、それが大人っぽい感じがして憧れていたんだ」

「それが悔しくて、親がいないタイミングにこっそり自分で使ってみたのだけど、人にやってあげないとイマイチ達成感がなかったんだ」

「自分でやるとお耳の中が見えない、というのが怖かったのもあるけど」


//SE (継続停止)煤竹耳かきの音(浅め)


「次は深い所に移るね。浅い所よりも皮膚が薄いし気を付けるつもりだけど……」//一度、耳かきの話に戻る

「痛かったりしたらちゃんと言うんだよ。……一旦、集中して」


//SE (継続開始)煤竹耳かきの音(深め)



「……ん……。ふっ……んっ……」//一度、集中力を高める。無意識に息が漏れる



「奥の方も、力加減はどうかな?」

「……よかった。力加減が上手くいってるときには、すごく気持ちいいよね。長年の経験の賜物かな? なんだかんだでキミとの耳かき歴は長いもの」


「お母さんに怒られた話の続きだけど、両親相手に練習はやらせてくれるようになって」//再び、思い出話

「中学生に入った辺りで、キミ相手に耳かきしてもOKだってお母さんに許可をもらった。噂をうかがった感じだとキミの親御さんにも話が通っていたみたい」

「そのことを知った時には、流石に恥ずかしかったな。通しておくべき筋だというのは分かってるけど」


「それからはときどきキミにお相手してもらった。でも、最初の頃はあまり上手くないし、耳の形は人それぞれ違う」

「初見でキミに耳かきしてあげた時は、何回か少し痛がらせてしまってさ」

「流石に全て詳細に覚えてる訳じゃないけど……申し訳ないなーとか悔しかったなーとか。悔やんだことが強く印象に残った」



「……んっ……」//吐息。集中のあまり、距離感が近づく



「だんだんと、キミ相手でも慣れてくるとキミの反応を伺えるようになってた」//近づいた分、僅かに声量を落とす

「なかなか固めにくっ付いている厄介な耳垢を剥そうとしているときの緊張した顔。無事に取れた後のほっとした顔」

「気持ちいい所を、ちょうどいい具合に耳かき出来た時の、とろけた気持ちよさそうな顔……」

「そうやって、キミのことをひとつひとつ分かっていけたのが嬉しかった」


「いつの間にか、耳かきするのも日常の中で当たり前のことになってた」

「好きなことなので特に問題とかはないんだけど。集中して無心になれることでもあって、気分転換にもなったし」

「ずっとしてなかったらボクの方が落ち着かないくらいには習慣になってしまったね。それぐらいキミとの耳かきの時間は好きだよ」

「本当に落ち着くというか……ほっとして」


//SE (継続終了)煤竹耳かきの音(深め)


「よし、奥の方もおしまい。最後に溝とか窪みの部分をやっていくね」//距離感を戻す


//SE (継続開始)煤竹耳かきの音(耳介部分)



「すっすっ、かりかりー……」//呟き



「大体はボクの方から耳かきのお誘いをすることが多いけど、キミの方から要望を聞いたことがない」//多少不満げに

「たまにはそっちも甘えてくれてもいいんじゃない?」


「……えっ。ボクが提案する頻度ってそこまで高かったの? なんか痒いなーとか思わなかったってことだよね?」//露骨に動揺する

「えっと、やり過ぎは避けるために一週間は間隔空けてたと思うのだけど。ひょっとして回数多すぎたのが嫌だったりする?」


「……大丈夫なのだったら、いいけど。今までずっと迷惑かけてしまってたかと焦ったよ。まあ、嘘でそんな気持ちよさそうな顔はしないか」//一息つく


「でも、普通はお願いする側が来るのが普通だと思うんだよ。やっぱりボクの方がやりたくて、甘えてるのかなぁ」

「とりあえず次は、キミが頼みに来て。実際にボクの方から求めてたとしても、何だか不公平な気分」//甘え心を覗かせつつ


//SE (継続終了)煤竹耳かきの音(耳介部分)


「……うん。約束だよ。キミもボクに耳かきされるの、好きなんだよね?」

「……よかったぁ」//心底ほっとした声



「ふう。ちゃんと綺麗に出来ました」

「こっち側の耳かきはおしまいだよ。反対側を向いてね」

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