【最終回】真佳ちゃんとこれからも…

 真佳ちゃんと連絡先を交換できた。嬉しいな~、高校最初の友達だ~。

わたしは自分の部屋で着替え終わった後、ベッドに寝転がりながら携帯を掲げる。


話したきっかけは、わたしが間違えて真佳ちゃんが使っているトイレの個室に入っちゃったから…。そんな事がきっかけになるなんて信じられないよね。


こういうのをなんて言うんだっけ? 『災い転じて福となす』で良いのかな?

…あれ? 災いを受けたのって、わたしじゃなくて真佳ちゃんだよね?


真佳ちゃんにとっての“福”は何になるのかな? 私と知り合ったこと?

なんて、そんな訳ないよね。自意識過剰だったよ…。



 夜ご飯の時間になったので、お母さんと2人きりで食べるわたし。お父さんは外で済ませるのが当たり前になっているから、これがいつもの光景なんだよね。


「莉子、今日はどうだった?」


登校する前、暗い顔見せちゃったからね…。気を遣わせちゃったかな?


「友達ができたんだ。井口いぐち真佳まかちゃんっていうの!」


「もう友達ができたの? 良かったじゃない、莉子」


「うん!」

…きっかけは訊いてこないみたい。訊かれても、ごまかせる自信がないけど。


「明日はどうするの? 一緒に登校したりする?」


「一応連絡先は交換したけど、それっきりなんだ…」


「そうなの…。井口さんと友達になれたのは、莉子からじゃなくてその子からでしょ? 次はあんたから行動したほうが良いわよ」


さすがお母さんだね。わたしのことはお見通しみたい。


「そうする」

初めてできた友達に、そっぽ向かれないようにしないとね。



 お風呂を済ませ、わたしは携帯を持って画面を見つめている。

真佳ちゃんと一緒に登校するように誘う…。簡単そうで難しいな~。


断られないとしても、喜んでくれるとは限らない。登校ぐらいは1人で済ませたいって考えるタイプかも? もしそうなら、誘う事が迷惑になっちゃう…。


…迷惑かどうかを考えたら、何もできないよね。真佳ちゃんのことだから、迷惑ならきっとそう言ってくれるはず。


わたしは勇気を出して『明日良かったら一緒に登校しない?』と送信した。


…何とか送信できた。あとは真佳ちゃんからの返信を待とう。


と思った時に、着信音が鳴った。真佳ちゃん、返信早!

わたしはおそるおそる、内容を確認する。


【誘ってくれてありがと~♡ 待ち合わせ場所は莉子ちゃんの家の前で良い?】


どうして♡なんだろう? …それは置いといて、OKしてくれて嬉しいな。

わたしは急いで『良いよ。待ってるからね』と送り返す。


その内容にもすぐ返されて、顔文字スタンプだけが来た。


明日、真佳ちゃんと一緒に登校できる。絶対に寝坊はできないね。それに朝の準備も今日以上に念入りにしないと…。


しっかり準備をするには、早く起きたほうが良いよね。そう考えたわたしは、いつもより早く就寝した。



 翌日。…いつもより早く寝たのに、昨日と同じ時間に起きちゃった。入学式で疲れがたまってたのかな?


準備に時間をかけたいから、朝ご飯を早く食べて遅れをカバーしよう。真佳ちゃんと初めて一緒に登校するんだから、身だしなみは昨日以上にしないとね。


……朝ご飯を急いで食べて部屋に戻ってきたわたし。思ったより時短できなかったなぁ…。早食いはわたしに合わないみたい。


なんてぼやいてる場合じゃないよ。急ぎながらちゃんと準備しないと。



 ……髪の乱れはないね。制服も問題なく着れてる。わたしはスタンドミラーで念入りに確認する。これで真佳ちゃんの隣に立っても恥ずかしくないはず。


もうすぐ待ち合わせ時間だし、家の前で真佳ちゃんを待とうかな。


…玄関で靴を履いていると、お母さんが来てくれた。


「莉子。バッチリ決まってるじゃない! 早食いしたおかげね」


「あはは…。気付いてたんだ?」


「当たり前じゃない」


お母さんは、わたしのことをよく観てくれてるなぁ。


「待ち合わせ場所はどこにしてるの?」


「家の前。昨日帰る時も一緒だったんだ」


「それなら迷う心配はないわね」


お母さんの言う通り、心配することは他にない…よね?


「ちょっと早いけど、家の前で待つことにするよ」


「そうしなさい。高校最初の友達なんだから、大切にしないと」


「わかってるよ。…じゃあ、いってきま~す」


「いってらっしゃい」


わたしは玄関の扉を開け、外に出た。



 「あ! おはよう、莉子ちゃん!」


家の前に、もう真佳ちゃんがいた。あれ? 時間間違えちゃった?

わたしは急いで彼女の元に駆け寄る。


「莉子ちゃんは時間間違えてないよ。あたしが早く来ただけ」

顔に出ていたのか、真佳ちゃんがフォローしてくれた。


「そうなんだ…。ビックリしたよ」


「莉子ちゃんと一緒に学校に行けると思うとワクワクしちゃってね。いてもたってもいられなくなったんだよ」


そこまで言ってくれるなんて…。


「そろそろ行こうか、莉子ちゃん」

真佳ちゃんはわたしの隣に立ち、手を握ってきた。


え? もしかして手を繋ぎながら登校するの? 小さい頃ならともかく、この歳だと恥ずかしいよ…。


だけど真佳ちゃんに手を握られると、ホッとする感じがする。ずっとこのままでいたいっていうか…。言葉にしづらいけど、良い気持ちなのは間違いないかな。


わたしは真佳ちゃんの手を強く握る。真佳ちゃんとこれからも手を繋ぎ続けられることを願って…。

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トイレで出会う莉子と真佳 あかせ @red_blanc

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