第2話 あたしのパンツどうだった?

 休憩時間にお母さんからの連絡に返信した後、トイレに行ったわたし。何気なく一番手前の個室の扉を開けると、使用中で驚いたよ…。


使っていたのは、わたしのクラスメートの井口いぐち真佳まかさん。わたしの不注意に怒らなかったし、優しい子だと思う。


そんなトラブルをきっかけに少しおしゃべりしたんだけど、今日の放課後に一緒に帰る約束をした。もっと話したいし、放課後が楽しみだな~。



 休憩時間の終わりを知らせるチャイムが鳴り、HRホームルームが始まる。チャイムが鳴り終わってすぐ、担任の天笠先生が教室に入ってきて教壇に立つ。


たくさんの連絡事項を頑張って聴いた後…。


「明日から授業が始まるから、気を引き締めてね」


そうなんだ。…終わりの言葉っぽいし、これでHRは終わりかな?


「最後にもう1つ。くれぐれも夜遅くに出かけたり、変な所に行かないこと。これはみんなのためを思って言ってるの。わかってちょうだい」


わたしには関係ない話だね。夜遅くに出かけないし、怖いところに近付かないから…。


「これでHRは終わりよ。寄り道は程々にして帰りなさい」

先生はそう言うと、教室を出て行った。



 「莉子ちゃ~ん。一緒に帰ろ~」

井口さんがわたしの席まで来てくれた。


「うん」

わたし達は一緒に教室を出る。


「そういえばさ~、莉子ちゃんってどうやって通学してるの?」

昇降口で靴を履き替えてる時に、井口さんが訊いてくる。


「歩きだよ」


「歩き!? ってことは、家近いの?」


「10分ぐらいかな」


「良いな~。あたしは電車だよ…」

彼女はテンションを下げて話す。


「井口さん、遠くから来てるの?」


「別にそういう訳じゃないんだけど、朝の電車は混むから疲れるんだ…」


「大変だね…」

やっぱり百合園高校を選んで良かったよ。



 「ねぇねぇ莉子ちゃん。帰る時に莉子ちゃんの家の前を通っても良い?」

校門を出たあたりで、井口さんが興味津々な様子で尋ねてきた。


「大丈夫だよ。わたしの家は、高校と駅の間にあるから」


「ありがと~。だったら、莉子ちゃんの通学路に合わせるね」


「わかったよ、井口さん」

わたしと別れてから、駅に向かうみたい。


「あのさ~莉子ちゃん、できれば『真佳まか』って呼んで欲しいんだけど…」


「良いの?」

知り合って間もないのに…。


「もちろん。名字で呼ばれると、壁を感じるんだよね~」


「そういう事なら…、って呼ぶね」

また1つ、真佳ちゃんと仲良くなれた気がした。



 「莉子ちゃん。あの時からずっと気になってる事があるんだけど…」

真面目な顔で訊いてくる真佳ちゃん。


「あの時?」


「莉子ちゃんが個室に入ってきた時だよ」


「やっぱりすぐには忘れられないよね。本当にごめんなさい…」


「違う違う、怒ってる訳じゃないから。あたしが訊きたいのは…」


何を訊きたいんだろう? …全然見当が付かないな~。


「あたしのパンツ、どうだった?」


「えっ?」

予想外の内容に、声が裏返っちゃったよ…。


「あの時観たでしょ? あたしのパンツ?」


…言われてみれば、真佳ちゃんのふくらはぎあたりにあった気がする。

けど一瞬過ぎて、何が何やら…。


「真佳ちゃんの顔を見てすぐ扉を閉めたから、全然見てないんだ…」


「そうなんだ…。莉子ちゃんの意見を訊きたかったんだけどな~」


わたしの意見が役に立つのかな? よくわからないよ…。



 …もう少しで、わたしの家に着く。真佳ちゃんと一緒だとあっという間だな~。


「あそこがわたしの家だよ」

指差して真佳ちゃんに教える。


「本当に高校から近いね~。羨ましいよ」


…そして家の前に着いた。真佳ちゃんとお別れしないと。


「じゃあね、真佳ちゃん」


「バイバイ、莉子ちゃん」


お互い手を少し振った後に別れて、玄関の扉を開けようとした時…。


「莉子ちゃん、うっかりしてたよ! 交換しよ!」

真佳ちゃんが戻ってきて、わたしに向かって言う。


急いで真佳ちゃんの元に駆け寄ってから、連絡先の交換を済ませたわたし達。


「他にやり忘れたことないよね? 莉子ちゃん?」


「ないと思うけど…。あったら連絡するね、真佳ちゃん」


「わかった。今度こそ、バイバイ」


「うん。また明日」


わたしは玄関の扉を開けて、家に入る…。

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