第3話 「南と西の地域の顔立ち」「坊門」「宮女」について

このエッセイは鷲生の中華ファンタジー「後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符」の「あとがき」です。


拙作のURLはコチラです→https://kakuyomu.jp/works/16817330658675837815


 拙作は唐の時代をモデルとしており、唐では女性の識字率もそこそこ高かったようですが。

 今回明らかになったように、雲雀は南の蘇からの移民なので、それで読み書きができない設定です。


 このファンタジー小説では唐がモデルの董の東西南北に王国がありますが、南の蘇の人の顔立ちとしては東南アジアの人々をイメージしています。


 東南アジアの方たちは二重瞼がはっきりしていてクリッとした目のいわゆる『濃い顔』が多いかと思います。

 雲雀は祖父母の代に移住してきてお母さんが董の人なのでもう少しすっきりした顔立ちです。

 そして作中にあるように結構な美人です。←これ、伏線なんですよ~w


 白蘭は西域出身です。サマルカンド出身でコーカソイド系の容貌です。

 ただ、コーカソイド系の顔立ちはモンゴロイドを見慣れた目には異相に見えるものですが、白蘭も董の人の血を引いていて少しマイルドな顔立ちという設定です。

 肌は白く、そして瞳はスカイブルーです。


 森安孝夫さんの『シルクロードと唐帝国』からソグド人の容貌についての文章を引用しておきます(94頁)。


「ソグド人は人種的にはコーカソイドであり、身体的特徴としてはいわゆる『紅毛碧眼』で代表されようが、より具体的には白皙、緑や青い瞳、深目、高鼻、濃い髭、亜麻色・栗色ないしはブルネットの巻き毛が挙げられる」


 *****

 さて。

 夜中に白蘭に助けられた雲雀は「坊門」が閉まっているので家に戻れません。


 作中の董の華都は、唐の長安をモデルにしています。


 氣賀澤保規さんの『中国の歴史6 絢爛たる世界帝国 隋唐時代』に長安の街の様子が紹介されています(223頁)。


 長安は平城京や平安京のモデルになったので碁盤の目になっていますが、


「碁盤の目状にできた街路間を埋めたのが、人々の居住する坊(里)であった。坊は周りを高さ三メートルほどの土塀で囲まれ、大きな坊で四つの門、小さな坊では二門がつけられ、この門から坊内の街路や路地を経て、それぞれの家へと行き着く。坊門は、鍵を管理する坊の責任者である坊正によって、日出前の四時頃開けられ、夕方日没とともに閉ざされる。したがって住人は日没までに帰宅し、翌朝まで坊から出られない決まりとなっていた」


 なお、ここで続けて「ただし有力者や大寺院などは、直接大町に向けて門をつけることもゆるされた」とあります。拙作の後半に登場する貴族キャラの家がそうなっています。


 雲雀は庶民の娘ですから、坊門が閉まってしまうと家に帰られないので白蘭の部屋に泊まりこんでいます。で、雲雀と白蘭はこの日の夜ガールズトークに花を咲かせることになりますw


 雲雀が言うよう、後宮の宮女というのはなりたくない立場だったようです。


 日本の平安時代の後宮に仕えていた女房とかは自由だったのですが、中国で宮女になるとずっと後宮で暮らさなければならず、不自由で窮屈な生活だったようです。


『大唐帝国の女性たち』という本は、全体に女性が抑圧されていたことを強調する文章が多いですが、やはり宮女についてもそうです。


 例えば51頁の記述では以下の通りです(「宮人」は「宮女」と同じである旨、46頁に描かれています)。


「宮人は奥深い後宮の中に幽閉されて永遠に肉親と別れ、青春と紅顔は葬り去られ、愛情と人生の楽しみは奪われ、生きている時は孤独の苦しみに、また死んだ後は訪れる人もない寂しさの中におかれた」


 氣賀澤保規さんの『絢爛たる世界帝国 隋唐時代』の186頁にも「自由に外部と接触できない」「ふつうの家庭生活を棄てなければならなかった」とあります。


 雲雀もこういう現実をしっかり弁えた女の子です。


 雲雀を雇い入れた白蘭の方も現実的というか、年齢の割に冷めた価値観の持ち主です。毒も吐きますしw


 とはいえ、雲雀も白蘭も年頃の女の子。可愛らしいところもあって、それは今後出て参ります。


 主人公の白蘭は、義侠心に富んだ心優しいふるまいを取るようになりますし、視野も広がっていきます。

 どうか最後までご愛読くださいますよう。

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