番外編 誠の姉
私は、どこにでもいるOL。
どこにでもって、わけではないけれど、ブラック企業で働いている。
大学を卒業してから、新卒で入社して、憧れのOLライフがそんなはずじゃなかったのに・・・・。
だけど、そんな日常は崩れることとなる。
いつも通りに電車に乗っていると、「次は魔の駅」というアナウンスが聞こえた。
そんな駅、聞いたことない。
もしかして、乗り間違えた?
乗り換えなきゃ。
あれ?他に電車に乗っている人がいない。
目の前には、イケメンの男の人がいた。
「めちゃくちゃ、かわいい子がいる」
「かわいい」なんて、言われたのいつぶりだろう?
「俺の嫁にならないか」
「結構です」
会ってそうそう、イエスと返事するわけがない。
というか、この人、どこかで見たことある気がするんだが、思う出せないからいいや。
「そうか、俺は気に入っているんだ」
「いいです。私、急いでいるので」
「急ぐ必要とかないだろ。電車は君が、了承してくれるまで止まらないんだし」
あれ、本当だ。
止まる様子がない。
「俺は、君が好きになった。
だから、結婚してほしい」
「いえ、私、そんな年齢でないので」
本当は、友達が次々と結婚していって、婚期を焦っているんだけども、
そんなことは、誰にも言いたくない。
私のプライドが許さない。
学生の頃は、社会にでればいつでも結婚できると思っていたけれど、
社会に出て、出会いはなかった。
大学生のころに、告白されたら付き合っておけばよかった。
「ふうん、俺のことを好きだと思っていたのに?」
「人違いだと思います。
第一、初対面ですよね?」
「君は、河神≪かわかみ≫
初対面ではない気がするんだが」
なぜ、私の名前を?
「私とどこかで会ったこと、ありますか?」
「会ったも、何も、これ以上言わないでおこう。
さて、返事をする気がないようだし、このまま駅を降りるとするか」
「どこに向かうんですか?」
「俺の故郷」
「私、仕事なんですが」
「行かなくていいんだよ。
歌小は、自由なんだから」
「無断欠席になります」
「ならない。君の存在を忘れているのだから」
「そんな非科学的なこと、信じません」
「非科学的なことが、世の中にはあるんだ」
「とにかく、私は結婚なんて認めません」
「まあいいさ。この駅で降りれば、君もいやでも認めるだろう」
魔の駅に着いた。
着いたけれど、降りなければいい。
だけど、あいつは、わたしの腕を引っ張る。
「初対面で、馴れ馴れしい」
「初対面ではないだろ。愛を何度も誓い合っただろ」
愛?
愛。
そうだ、私は、高卒の社員とよくお話したことがある。
「どうしたの?」
「上司に怒られて」
「そんなこと、くらいよくあるじゃない」
どこかで見たことあると思ったら、辞めてしまった
「たなか」と読めるかもしれないけれど、これで「たちゅう」と読むらしい。
「仕事、辞めようと思って」
「どうして?」
「こんなブラックなところで、やってられなくてさ」
私の会社は、社員が入ってきても、次々と辞めていく。
だから、いつも求人で、社員を募集したいる。
「河神さんは、辞めたいとか思わないの?」
「私には夢があるから。寿退社をするって夢が」
「どんな人がタイプなの?」
「どんな人がタイプって言うのはないけれど、結婚したらこうしたいなっていうのはあるな」
「どんなことをしたいの?」
「結婚したら、仕事を辞めて、専業主婦になりたい」
「いつか、それを叶えられる人が現れてくれるといいね」
「そうだね。田中君も仕事を辞めなければ、そうゆう人になれるかもしれないよ」
翌日には、田中君は仕事を辞めていた。
まさか、それかな?
どこに愛を誓う場面があったと思える?
「もしかして、田中君?」
「やっと、思い出してくれたか」
田中君は嬉しそうにしていた。
「俺が、歌子の願いを叶えてあげたくてさ」
「そんな話、本気にしなくてよかったのに」
「歌小のこと、好きだから。
結婚したいくらい、好きだから」
そうして、私のことを抱きしめたけれど、私は抱きしめ返さなかった。
些細な言葉が誤解を招くなんて、
今更、引き返そうになかった。
時間を戻せるのなら、あの時に戻りたい。
もう少し、自分の発言を考えるべきだったように思えてくる。
「歌小のことは、何でも覚えてるよ」
田中君は、こわくなるくらい、私のが過去に話していたことを覚えていた。
言われなければ、自分でも忘れているくらいの内容だった。
私がお酒が嫌いで、お酒に弱いこと。
お局様問題に巻き込まれていること。
仕事に着ていくスーツは、締め付け感があって、嫌いなこと。
ウエディングドレスを着ることが夢だったこと。
私が四人きょうだいであること。
私がおとめ座のA型であること。
私の身長が154センチであること。
私が、現在22歳で、誕生日がまだであること。
「それくらい、俺は本気なんだよ」
本気度はそこまで伝わらなくても、好きだってことはわかる。
だけど、結婚なんて軽々しくするものではない。
友達の話でも、勢いで結婚して後悔した人の話を何度か聞いたことがある。
だから、私の中で、結婚に対する恐怖ができたんだと思う。
私、河神 歌小。
身長154,9センチ。ほぼ155センチといっていいくらいのような気がしてくる。
血液型は、AO型。
誕生日は、9月22日。ぎりぎりおとめ座で、一日遅ければてんびん座だった。
今、元職場の同期に、結婚を迫られて、戸惑っている。
退職届けを出していないのに、記憶改ざんによって、会社に元々いないことになっているとのこと。
本当に辞めさせたいなら、退職届を提出しようよ。
今は、魔の駅で降りて、田中君の城にいるらしい。
「君の部屋、作ったんだ」
「ありがとう・・・」
今更、突き放すこともできなくなっていた。
隙を狙って、逃げることもできるかもしれないけれど、
どこに逃げればいいのかわからないし、ここがどこなのかもわからないし、
様子を見ることにした。
着いていったわけじゃない。
連れてかれただけ。
「俺は、魔界王なんだが、魔界王の嫁にならないか」
「魔界王の嫁って、何?」
「俺の父が魔界王なんだが、この世界での王ということだ。
歌小には嫁になってもらおうか、と」
「嫁って、何をするの?」
「特に何も。子供産むくらいかな」
「子供って・・・」
「たしか、この世界では25歳超えてから、子供を作るのが常識なんだが、少し早いけれど、歌子も産めなくはないかな」
「いきなり、子育てなんて」
「俺が跡継ぎだから、男の子一人いればいいから。
悪く言えば、男の子を産むまで、産まされることになるんだけどさ」
「女の子なら、最悪じゃん」
「俺の母親も人間界出身だから、よく言っていたけれど、人間が産むのは大変らしい。
母親は最初の段階で男の子を産めたけれど、持病があって、
それで、二男の俺を産むことになったんだが」
それからというもの、私は子供を産むことを毎日、拒んでいた。
子供なんて、心の準備ができていない。
子供なんて、遠い未来の存在だと思っていたから。
こうしている間に私は23歳の誕生日を迎えた。
「人間界に帰りたい」
「ごめん、それは子供ができるまで外出できないルールでさ、
俺の母親は、俺が生まれてすぐに離婚したけど」
「離婚したの?」
「うん。だから、父親が魔界にいて、母親が人間界にいる。
俺も人間界にいたけど、人間界の生活になじめなくて、帰ってきたけど」
話を聞くと、田中君は、二人兄弟らしい。
今は、兄が人間界にいて、魔界老が田中君の父親らしい。
田中君の両親は結婚する前は仲がよかったけれど、
異世界での生活に馴染めなくて、離婚となったみたい。
だけど、私はこの人との子供を作ろうなんて思えなかった。
魔界老は、魔界老の母、田中君の祖母が王を務めていた。
「人間と結ばれてはいけない」という言いつけを破り、人間と結ばれたけれど、
女の子を跡継ぎにしてはいけないというルールを一人で作ったりしたとのこと。
意味のわからないルールだった。
だけど、私は従うつもりはなかったけど、逃げる方法も和からなかった。
まともに戦っても、勝てなさそうだから。
ある時、田中君と二人で散歩していると、
「歌小、探していたぞ」
「お兄ちゃん」
私の兄が現れた。
「妹を返せ、記憶改ざんをしたかもしれないけれど、俺はごまかせない」
私とは、誕生日は違うけれど、同い年の兄だった。
「ただの人間ではないな」
「異世界と人間世界を行ったりきたりはできる」
「勇者が現れたか」
勇者と、魔界王は対になる存在と言われているけれど、
私の兄が勇者だとは、思わなかった。
「今すぐ、決闘だ。
妹がいなくなってから、かなり時間がたったが、誘拐していたのか」
「誘拐じゃない、結婚だ」
「どっちも同じだ。結婚なんて、家族に紹介してから、するもんだ」
お兄ちゃんと、田中君が戦った。
もちろん、お兄ちゃんの方が勝った。
噂で聞くと、魔人老でさえ、お兄ちゃんには勝てなかったらしい。
「これで、帰れるぞ」
「ありがとう。 助けてくれて」
「人間世界で、いい男を見つけて結婚した方がまだいい」
お兄ちゃん、かっこい。
私はお兄ちゃんと共に、人間世界へ帰った。
お兄ちゃんが、私を助けてくれたんだ。
だけど、これで私が日常に戻れるわけではなかった。
田中君は、何度か私のところに来ては、私が逃げる日々だった。
「考え直してくれないか?」と言われても、私はお兄ちゃん以外の人は考えられなかった。
私は、お兄ちゃんのようなタイプが好き。
ただ、それだけだった。
身長は、田中君よりも高くないかもしれない。
だけど、お兄ちゃんは強くて、かっこいい私の頼れる憧れなお兄ちゃんだもん。
お兄ちゃんのところに逃げれば、きっとお兄ちゃんは助けてくれるはず。
私は、信じていた。
お兄ちゃんが必ず、助けてくれることを。
同い年の兄が一人いて、学年は早生まれのためにひとつ上だった。
年齢は23歳。
身長は長女の私より高いけど、二女の妹よりは低い。
お兄ちゃんの名前は、勇気。
名前の通りに、勇気のある人で小さい頃から支えられていた。
妹がいて、その下に弟がいる。
私は、大嫌いなストーカーから助けを求めるために、お兄ちゃんのところに駆けつけた。
だけど、お兄ちゃんのところに、何故かたどりつけなかった。
あれ?
「ははは、君は俺を好きになるんだ」
「そんなわけない」
「俺の魔法で好きになるんだよ」
ちょうど、妹の飛び蹴りが田中君の顔に来た。
「あれ?
妹の唄がいたの。
「勘違いしないで? お姉ちゃんを助けたわけじゃないの。
ただ、お姉ちゃんが妬ましかっただけ。
どう? 自分の妹に支配される気持ちは?」
唄ちゃんは、私より2歳年下の21歳。
末っ子は、18歳。
「どうって?」
「もてることが気に入らないってこと。
不幸にしてやりたいって、誓ったのはいつかしら?
大学でも、人の物とろうとしたの忘れないから」
「告白されたけど、振ったよ」
「告白されたの、何回かって話をしてるの。
どうしてもてんだが。
お兄ちゃんのことも、奪ったみたいだし。
自覚ないなら、いーよ。
こんな話をしても、無駄だろうし。
お姉ちゃんが、幸せになるなんて許せない。
これだけは覚えておいて?
ま、覚えておいても、何のことかわかってないんでしょうけど」
一方的に話し、その場を唄ちゃんは去った。
今回は、助かったということでいいのかな?
私は唄のおかげで、助かったんだとばかり思っていた。
だけど、帰ってきてから、お兄ちゃんがとんでもない一言を発する。
「一緒に逃げよう」
「えっ? どうして?」
「唄が暴走したんだ。 田中も殺されたらしいしな」
田中君が殺された?
そんなことって、あるの?
「唄が、クイーンが暴走したんだ」
「一体、どうゆうこと?」
「説明している時間はないんだ。
命を狙われている以上、逃げ切るぞ」
お兄ちゃんと私は、二人で家を出た。
私は、お兄ちゃんに手を引っ張られるまま、走った。
「こんな場所にいたのね。
憎きお兄ちゃん、お姉ちゃん」
包丁を持った唄が現れた。
お兄ちゃんは瞬時に剣を抜いたけど、唄の素早い動きで、お兄ちゃんはお腹に包丁を刺されてしまった。
包丁を抜いた瞬間、お兄ちゃんは血だらけになって、倒れたまま動かなくなった。
私は為す術もなく、唄に包丁を刺され、その場に倒れた。
世界一無敵な騎士を目指して 野うさぎ @kadoyomihon
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