世界一無敵な騎士を目指して

番外編 イフストーリー～誠の姉～

　私は、どこにでもいるOL。

　どこにでもって、わけではないけれど、ブラック企業で働いている。

　大学を卒業してから、新卒で入社して、憧れのOLライフがそんなはずじゃなかったのに・・・・。

　だけど、そんな日常は崩れることとなる。

　いつも通りに電車に乗っていると、「次は魔の駅」というアナウンスが聞こえた。　

　そんな駅、聞いたことない。

　もしかして、乗り間違えた？

　乗り換えなきゃ。

　あれ？他に電車に乗っている人がいない。

　目の前には、イケメンの男の人がいた。

「めちゃくちゃ、かわいい子がいる」

　「かわいい」なんて、言われたのいつぶりだろう？

「俺の嫁にならないか」

「結構です」

　会ってそうそう、イエスと返事するわけがない。

　というか、この人、どこかで見たことある気がするんだが、思う出せないからいいや。

「そうか、俺は気に入っているんだ」

「いいです。私、急いでいるので」

「急ぐ必要とかないだろ。電車は君が、了承してくれるまで止まらないんだし」

　あれ、本当だ。

　止まる様子がない。

「俺は、君が好きになった。

だから、結婚してほしい」

「いえ、私、そんな年齢でないので」

　本当は、友達が次々と結婚していって、婚期を焦っているんだけども、

　そんなことは、誰にも言いたくない。

　私のプライドが許さない。

　学生の頃は、社会にでればいつでも結婚できると思っていたけれど、

　社会に出て、出会いはなかった。

　大学生のころに、告白されたら付き合っておけばよかった。

「ふうん、俺のことを好きだと思っていたのに？」

「人違いだと思います。

第一、初対面ですよね？」

「君は、河神≪かわかみ≫歌小（かこ）だよね。

初対面ではない気がするんだが」

なぜ、私の名前を？

「私とどこかで会ったこと、ありますか？」

「会ったも、何も、これ以上言わないでおこう。

さて、返事をする気がないようだし、このまま駅を降りるとするか」

「どこに向かうんですか？」

「俺の故郷」

「私、仕事なんですが」

「行かなくていいんだよ。

歌小は、自由なんだから」

「無断欠席になります」

「ならない。君の存在を忘れているのだから」

「そんな非科学的なこと、信じません」

「非科学的なことが、世の中にはあるんだ」

「とにかく、私は結婚なんて認めません」

「まあいいさ。この駅で降りれば、君もいやでも認めるだろう」

　魔の駅に着いた。

　着いたけれど、降りなければいい。

　だけど、あいつは、わたしの腕を引っ張る。

「初対面で、馴れ馴れしい」

「初対面ではないだろ。愛を何度も誓い合っただろ」

　愛？

愛。 そうだ、私は、高卒の社員とよくお話したことがある。

「どうしたの？」

「上司に怒られて」

「そんなこと、くらいよくあるじゃない」

　どこかで見たことあると思ったら、辞めてしまった田中（たちゅう）君だった。

　「たなか」と読めるかもしれないけれど、これで「たちゅう」と読むらしい。

「仕事、辞めようと思って」

「どうして？」

「こんなブラックなところで、やってられなくてさ」

　私の会社は、社員が入ってきても、次々と辞めていく。

　だから、いつも求人で、社員を募集したいる。

「河神さんは、辞めたいとか思わないの？」

「私には夢があるから。寿退社をするって夢が」

「どんな人がタイプなの？」

「どんな人がタイプって言うのはないけれど、結婚したらこうしたいなっていうのはあるな」

「どんなことをしたいの？」

「結婚したら、仕事を辞めて、専業主婦になりたい」

「いつか、それを叶えられる人が現れてくれるといいね」

「そうだね。田中君も仕事を辞めなければ、そうゆう人になれるかもしれないよ」

　翌日には、田中君は仕事を辞めていた。

　まさか、それかな？

　どこに愛を誓う場面があったと思える？

「もしかして、田中君？」

「やっと、思い出してくれたか」

　田中君は嬉しそうにしていた。

「俺が、歌子の願いを叶えてあげたくてさ」

「そんな話、本気にしなくてよかったのに」

「歌小のこと、好きだから。

結婚したいくらい、好きだから」

　そうして、私のことを抱きしめたけれど、私は抱きしめ返さなかった。

　些細な言葉が誤解を招くなんて、

　今更、引き返そうになかった。

　時間を戻せるのなら、あの時に戻りたい。

　もう少し、自分の発言を考えるべきだったように思えてくる。

「歌小のことは、何でも覚えてるよ」

　田中君は、こわくなるくらい、私のが過去に話していたことを覚えていた。

　言われなければ、自分でも忘れているくらいの内容だった。

　私がお酒が嫌いで、お酒に弱いこと。

　お局様問題に巻き込まれていること。

　仕事に着ていくスーツは、締め付け感があって、嫌いなこと。

　ウエディングドレスを着ることが夢だったこと。

　私が四人きょうだいであること。

　私がおとめ座のＡ型であること。

　私の身長が１５４センチであること。

　私が、現在２２歳で、誕生日がまだであること。

「それくらい、俺は本気なんだよ」

　本気度はそこまで伝わらなくても、好きだってことはわかる。

　だけど、結婚なんて軽々しくするものではない。

　友達の話でも、勢いで結婚して後悔した人の話を何度か聞いたことがある。

　だから、私の中で、結婚に対する恐怖ができたんだと思う。

　私、河神　歌小。

　身長１５４、９センチ。ほぼ１５５センチといっていいくらいのような気がしてくる。

　血液型は、ＡＯ型。

　誕生日は、９月２２日。ぎりぎりおとめ座で、一日遅ければてんびん座だった。

　今、元職場の同期に、結婚を迫られて、戸惑っている。

　退職届けを出していないのに、記憶改ざんによって、会社に元々いないことになっているとのこと。

　本当に辞めさせたいなら、退職届を提出しようよ。

　今は、魔の駅で降りて、田中君の城にいるらしい。

「君の部屋、作ったんだ」

「ありがとう・・・」

　今更、突き放すこともできなくなっていた。

　隙を狙って、逃げることもできるかもしれないけれど、

　どこに逃げればいいのかわからないし、ここがどこなのかもわからないし、

　様子を見ることにした。

　着いていったわけじゃない。

　連れてかれただけ。

「俺は、魔界王なんだが、魔界王の嫁にならないか」

「魔界王の嫁って、何？」

「俺の父が魔界王なんだが、この世界での王ということだ。

歌小には嫁になってもらおうか、と」

「嫁って、何をするの？」

「特に何も。子供産むくらいかな」

「子供って・・・」

「たしか、この世界では２５歳超えてから、子供を作るのが常識なんだが、少し早いけれど、歌子も産めなくはないかな」

「いきなり、子育てなんて」

「俺が跡継ぎだから、男の子一人いればいいから。

悪く言えば、男の子を産むまで、産まされることになるんだけどさ」

「女の子なら、最悪じゃん」

「俺の母親も人間界出身だから、よく言っていたけれど、人間が産むのは大変らしい。

母親は最初の段階で男の子を産めたけれど、持病があって、

それで、二男の俺を産むことになったんだが」

　それからというもの、私は子供を産むことを毎日、拒んでいた。

　子供なんて、心の準備ができていない。

　子供なんて、遠い未来の存在だと思っていたから。

　こうしている間に私は23歳の誕生日を迎えた。

「人間界に帰りたい」

「ごめん、それは子供ができるまで外出できないルールでさ、

俺の母親は、俺が生まれてすぐに離婚したけど」

「離婚したの？」

「うん。だから、父親が魔界にいて、母親が人間界にいる。

俺も人間界にいたけど、人間界の生活になじめなくて、帰ってきたけど」

　話を聞くと、田中君は、二人兄弟らしい。

　今は、兄が人間界にいて、魔界老が田中君の父親らしい。

　田中君の両親は結婚する前は仲がよかったけれど、

　異世界での生活に馴染めなくて、離婚となったみたい。

　話し合いの結果、田中君は、子供が三人以上ほしいという話になり、

　私は、四人未満なら、産んでもいいという話になり、

　子供は三人まで産むという話になった。

　親の常識にとらわれない、夫婦生活を送ることとなる。

　２３歳で、初めて一人目に挑戦しようと思った。

　男の子であれ、女の子であれ、子供三人にしよういう話し合いになった。

　男の子でなきゃだめとか、女の子だからだめとう考え方は、子供だってつらいだろうし、夫婦でもプレッシャーやストレスになりかえねないから。

　女の子が、跡継ぎになっても、いいように感じた。

　もちろん、魔界老は納得しなかった。

「男の子を産まなくてもいいとか、何を考えとる」

「父さんも、ルールを守ったかな」

「ルール？」

「自分の母親に言われた、人間と結ばれてはいけないというルールを破ったよね」

　魔界老は、魔界老の母、田中君の祖母が王を務めていた。

「人間と結ばれてはいけない」という言いつけを破り、人間と結ばれたけれど、

女の子を跡継ぎにしてはいけないというルールを一人で作ったりしたとのこと。

　もちろん、魔界老は、何も言い返せなくなっていた。

　私は、こちらの生活に馴染んでいた。

　あの納得のいかない日が、嘘みたいだった。

　男の子を産まなくてはならないというプレッシャーから、解放されて楽になった。

　妊娠の兆候は、表れなかった。

「妊娠は、ゆっくりでいいから。

２５歳まであと２年あるから」

　それは、２５歳までに産まなくてはならないといプレッシャーにもなるんだが。

　そこで、田中君と二人で散歩していると、

「歌小、探していたぞ」

「お兄ちゃん」

　私の兄が現れた。

「妹を返せ、記憶改ざんをしたかもしれないけれど、俺はごまかせない」

　私とは、誕生日は違うけれど、同い年の兄だった。

「ただの人間ではないな」

「異世界と人間世界を行ったりきたりはできる」

「勇者が現れたか」

　勇者と、魔界王は対になる存在と言われているけれど、

　私の兄が勇者だとは、思わなかった。

「今すぐ、決闘だ。

妹がいなくなってから、かなり時間がたったが、誘拐していたのか」

「誘拐じゃない、結婚だ」

「どっちも同じだ。結婚なんて、家族に紹介してから、するもんだ」

　お兄ちゃんと、田中君が戦った。

　もちろん、お兄ちゃんの方が勝った。

　噂で聞くと、魔人老でさえ、お兄ちゃんには勝てなかったらしい。

「これで、帰れるぞ」

「でも、私、こっちの生活がいいの」

「洗脳でもされているのか？」

「そうじゃない。

私、今、子供を産もうって話にもなってるくらい、田中君が好きなの」

「その男はやめておけ」

「でも・・・・」

「人間世界で、いい男を見つけて結婚した方がまだいい」

　お兄ちゃんに連れられて、人間世界に帰ることになった。

　帰れたけれど、嬉しくない。

　私は、田中君を好きになってしまったから。

　お兄ちゃんは、一人暮らしをしていて、アパートを借りている。

　私は、一緒に住むことになった。

　私は、食欲がなく、食べても、吐いてしまうようになっていた。

　最初は、ただの風邪だと思っていた。

　１か月してからも、治らないし、お腹は膨らむ一方だった。

　もしかしたらと思い、病院にかけつけたら、

「おめでとうございます」

　私は、妊娠していた。

　妊娠していたのは嬉しかったけれど、私は人間世界にいる。

　シングルマザーとして、育てていくのかな？

　お兄ちゃんに、妊娠のことを話してみた。

「魔界王といるのは気が引けるが、妊娠したとなれば、話は変わってくるな」

　お兄ちゃんが、異世界に連れていってくれた。

　結局、田中君とまた、会うことになった。

「妹が妊娠したみたいなので」

「妊娠かあ、子供がなかなか産まれなくて、困っていたものを。

男の子？

女の子？」

「まだ、性別はわからないみたい」

　私は、田中君のところに戻ってくることになった。

　お腹は大きくなるし、お腹の赤ちゃんは動いているとわかる。

　魔界老は、喜んでくれていたが、

「男の子だといいな。そろそろ、性別もわかってくる頃だろう」

　まだ、男の子の妊娠を諦めてなかったのか。

　魔界老は、目をつむり、私のお腹をさする。

　こんな老人に、正直触ってほしくない。

　目を開けたと思うと、

「中にいるのは、女の子だ。早くおろせ」

「何を言ってるの？」

「なぜ、女の子を妊娠してる？罰あたりな」

「そんな」

「兵士たちよ、そこの女の腹をさけ」

　兵士が集まる前に、私は必死に逃げ回った。

　私は、隠れていた。

　お腹にいる赤ちゃんが、女の子？

　そもそも、なぜ、お腹の子の性別がわかる？

　兵士は、探し回る。

　田中君が「父さん、この兵士、どうしたんだ？」

「罰当たりがいたか」

「罰当たり？」

「そうだ、女の子を妊娠する罰当たりだ」

「父さん、何を言ってー」

「孫の代で、女の子ができるなんて、わしの息子失格だ」

　たくさんの兵士が、田中君に剣を突き付ける。

　私は、どうすることもできなかった。

　そこで、お兄ちゃんが現れた。

「勇者、登場」

　お兄ちゃんは、複数の兵士と魔界老を倒していった。

　お兄ちゃんの剣は、無敵としか思えなくなっていた。

「助けてくれたのか」

「なんとなく、いやな予感はしてたから」

　その後、魔界老の反逆により、私と田中君は異世界に住めなくなり、人間世界に住むこととなった。

　田中君と、田中君の母と、私で暮らすこととなった。

「あー、あいつね、あたし、あいつ嫌い。

あいつにモラハラされたから、離婚したわ」

　田中君の母の話によると、自己流のルールを押し付けられて、魔界老が嫌いになったらしい。

　私のお腹は、どんどん膨らんでいった。

　どこまで、膨らんでいくのだろう？

「魔界老は、女の子って言っていたけれど、本当に女の子が生まれてくるのかな」

「さあ。人間界で言うエコーみたいなものだからね、外れることもあるわよ」

　いざ、臨月を迎えて、産んでみると、男の子だった。

　あれだけ、女の子がお腹にいると騒いでおいて、生まれたのは男の子。

「多分、何かしらで女の子に間違えたんじゃないかしら」

　私は、魔界老のやることを許すつもりはなかった。

　女の子であれ、男の子であれ、私は嬉しい。

　生まれてきたことだけが、嬉しく思えてくる。

　跡継ぎとかも、男の子にしなくていいと思っていた。

　跡継ぎは、子供の自由意志だと思うし、私はこの子が生まれてから、母親としての自覚が強くなった。

　しばらくは、子供二人目を欲しいとは思えないけれど、

　落ち着いたら、二人目も考えていた。

　私の苗字も、田中に変わった。

　子供が生まれると同時に、籍を入れてもらった。

　子供の名前は、優心（ゆうしん）。

　優しい心を持ってほしいという理由から、お姑さん、旦那、私の三人で考えた名前だった。

　ゆうしん君の服は、ベビーブルーだった。

　顔は、どちらかと言うと、私に似てると思う。

　お義母さんは、ゆうしん君をかわいがった。

「女の子が生まれたら、かわいい服も着させたいわね」

　魔界老が、人間世界にやって来た時は、警戒したけれど、

「男の子が生まれたなら、こっちによこしてくれないか」

「お断りです」

　その後、何度も魔界老が、ゆうしん君をほしがったけれど、

　お義母さんも、旦那も、私も、お断りだし、

　魔界老は虫がよすぎる。

　魔界老なんて、嫌い。

　一応、旦那は働いてくれて、私は専業主婦。

　ゆうしん君が落ち着いたら、パートに出ようかと考え始めていた。

　ゆうしん君には、幼稚園がいいか、保育園がいいか迷ったりもした。

　人間世界での、育児は決して簡単なものではなかった。

　おむつ、ミルク、服のサイズもすぎに変わるため、定期的に買い替えが必要で、

　夜泣きもあった。

　お義母さんに子育てのアドバイスをもらいながらも、子育てをしていた。

　魔界老は、懲りずにやってきては、

「子育てが大変なら、わしのところにあげてもいいんだぞ」

「いやです。何をしでかすかわかりません」

　勘違いとは言え、息子の命を狙ったことに変わりはない。

　そんなやつのところに、子供なんて渡さない。

　魔界老は、ゆうしん君をかわいがる。

　ハイハイなんて、始めたころには、魔界老のところに寄っていくことなんてあった。

「よしよし、ゆうしん」

　魔界老は、懲りない。

　諦めが悪い。

　お義母さんからも、旦那からも、「家に来ないで」と言われていても、来る。

　ゆうしん君が、魔界老になつくなんて、いや。

　そう思う私は、わがままなのだろうか？

　私は、魔界老に嫉妬を覚えるようになっていた。

　母親の私に、嫉妬なんてあるんだ。

　ゆうしん君もまだ歩いていないけれど、ハイハイを始めたし、

　パートに出ようと考えて、

　４月からは保育園に預けることを考えていた。

　いざ、４月にゆうしん君を保育園に預け、私はパートに出た。

　だけど、保育園に送り迎えの時に、魔界老は「おじいちゃんだよ」と来るので、

　嫌気がさしていた。

　２歳になると、ゆうしん君のいやいや期が始まり、

　私は精神的に追い詰められるようになった。

　しまいには、保育園できたない言葉を覚えてきて、

　「ばばあ」「バカ」などの言葉を浴びせらるようになった。

　私は、それが原因で、精神科で定期的に通うようになっていた。

　スーパーで買い物をしても、脱走していくし、大声で泣きわめき、恥ずかしい思いをしたり、

　しまいには、近所に虐待を疑われることもあった。

　その時に、魔界老が

「子育ては、大変だろう」

　私には反発的なゆうしん君も、魔界老には「じいじ」と駆け寄って、懐いてくる。

　精神的にも、肉体的にも、追い詰められていた私は、

　母親として、失格なんだと思うようになっていた。

　私よりも、魔界老がいいんだ。

　魔界老といた方が、ゆうしん君も幸せなんだ。

　お義母さんや、旦那が魔界老を嫌っていても、ゆうしん君だけは魔界老を好きだった。

　子供に裏切られた気持ちだった。

「はい、大変です」

　私は、子育てに根をあげてしまった。

　もう子育てなんてしたくない。

　だけど、私は、二人目を妊娠してしまった。

　旦那も、お義母さんも、二人目の妊娠を喜んでくれていたけれど、

　魔界老は「跡継ぎは長男さえいればいい」と興味すら示さなかった。

　手のかかるゆうしん君の他に、二人目も産むのか。

　私は、憂鬱だった。

「ゆうしん君を、本当にもらっていくんですか？

二人目の子もですか？」

「わしも、一人はさびしいんだ。

こうしよう。

二人目が男の子なら、二人目もかわいがってやる。

二人目が女の子なら、二人目なんて知らん。わしには、ゆうしん君がいればいい。

どちらの性別にしろ、処刑するつもりはない。　

二人目が女の子なら、ゆうしん君は連れて行こうと思ってる。

自分の顔を鏡で見てみろ、ゆうしん君の育児は向いていない気がする」

「ゆうしん君の育児はむいていない」という言葉に傷つけられたが、

私は自分の顔を鏡で見た。

　すごく老けていた。

　本当に私がゆうしん君を育てて、二人目の子供を育てられるか、自身がなかった。

　家族のだれにも言っていないけれど、

　病院で、ゆうしん君は発達障害があると聞かされて、ショックを受けていた。

　しかも、中度の発達障害らしい。

　私は最初、発達障害と聞かされても、何のことかわからなかったし、認めたくなかった。だから、家族のだれにも言わなかった。

　発達障害と言えば、私の弟も発達障害だった。

　私には兄一人、妹一人、弟一人いる４人きょうだいだけど、

　弟が発達障害と診断された。

　ゆうしん君は、自閉症と診断された。

　そして、二人目が生まれたら、女の子だった。

　私も、お義母さんも、旦那も、二人目を可愛がり、

　ゆうしん君にますます手がつけられなくなり、

　だんだん癇癪を起すようになった。

　娘の名前は、愛心（あこ）ちゃん。

　愛する心から、そう名付けられた。

　結局、魔界老に、ゆうしん君をあげることになってしまった。

　魔界老は、喜んで連れていき、それ以来は、魔界老は来なくなった。

　ゆうしん君がいなくなってから、

　荒れた部屋を片付けることになった。

　ゆうしん君は、物をよく投げる子だった。

　私は、あこちゃんも、発達障害じゃないかと心配になった。

　一応、出生前診断を受けたけれど、問題はなかった。

　だけど、発達障害だけは見抜けない。

　私は、パートを辞めた。

　ゆうしん君の失敗談を振り返り、保育園は辞めて、幼稚園にしようと思った。

　幼稚園にすることも考えた。

　あこちゃんは、ゆうしん君ほど、手がかかる子ではなかった。

　お義母さんが、あこちゃんによくかわいい服を着せていた。

　ピンクばかり着せていた気がする。

　さすがに、２歳になったら、私もパートを復帰しなくてはならなくなる。

　パートに復帰したくないし、

　保育園にも預けたくなかった。

　だから、２歳になったら、三人目の子供を考えていた。

　そのまま専業主婦でいて、あこが２歳になってから、三人目も子供の妊娠が発覚した。

「結局、一人目の子供は父さんが育てることになったね」

「うん」

「だけど、子供二人だけでも、自分たちで育てられればなって思ってる」

　一人目の子供を育てられないのは、親失格に思えてくる。

　三人目が生まれたら、男の子だった。

　名前は、恵望（けいの）君だ。

　恵まれたことに望むだから、恵まれることを願ってだった。

　けいの君が生まれてから、あこちゃんは３歳になった。

　けいの君が生まれてから、魔界老がやってきた。

「助けてくれないか、ゆうしん君がすごく手がかかる子でな」

　話によると、ゆうしん君は、魔界に来てから数年で、発達障害とわかった。

　誰とも意志の疎通はできないし、

　こちらのいうことはわからないみたいだし、

　かなりの癇癪持ちで、暴力をふるったり、物を投げたりする。

　しかも、中度の発達障害で、魔界老が手をつけられないけれど、

　人見知りが激しいため、誰にも預けられないと言う。

「助けてくれないか」

「ごめんなさい。父さん。これは自分の責任」

「そこをどうにか」

　私たちには、どうすることもできない。

　ゆうしん君と、けいの君を交換してほしいという、魔界老の話は夫婦揃って断った。

　別の日に魔界老は、ボロボロの状態でやってきて、ゆうしん君に殴られたと来ることもあった。

　壁に八つ当たりをして、城が穴だらけとか。

　また別の日には、魔界老が歯が欠けた状態でやってくる。

　ここまでくると、私も旦那も、ゆうしん君を引き取ろうとか思えなかった。

　しばらくしたら、魔界老が人間世界に来なくなり、

　魔界に城の兵士によると、

　魔界老はゆうしん君にさんざん殴られたあげく、殺されたらしい。

　ゆうしん君は、発達障害のせいもあるのか、

　暴力的で、自己中で、思い込みが激しい子に育ってしまったらしい。

　あこちゃんに、発達障害の検査を受けさせたけれど、発達障害はないらしい。

　けいの君は、赤ちゃんなので、まだわからないとのこと。

　一応、子供三人を産むという約束は果たせたし、

　あこちゃん、けいの君の二人を旦那、私、お義母さんの三人で育てることとなった。

　あこちゃんが、「大きくなったら、パパの跡継ぎになりたい」と言ったので、

　そこは旦那も喜んでくれた。

　ただ３歳の言うことなので、変わりそうな気がした。

　あこちゃんを幼稚園に通わすことにした。

　あこちゃんは、幼稚園の出来事を楽しそうに話してくれた。

　私は、けいの君が幼稚園に入園するまで、専業主婦でいようという話になっていた。

　けいの君が幼稚園に入園する前に、発達障害の検査を行ったら、大丈夫という話だった。

　けいの君が幼稚園に入園してから、私はパートに出た。

　幼稚園のけいの君、小学生のあこちゃん。

　時々、ゆうしん君のことが気になる時もあるけれど、

　今更、引き取るのも、虫がいい話のように感じてきた。

　私は、魔界王の嫁になってよかったと思っている。

　魔界王は、人間世界にいる時は、仕事が続いていて、

　不安になるけれど、

　私は今も魔界王と仲のいい夫婦。

　近所の人にも、ゆうしん君のことは「父方の祖父は一人暮らしなので、一緒に暮らしています」と話してあるし、

戸籍上は長男はいるけれど、別居という扱いになっている。

「魔界老もいないことだし、そろそろ魔界に戻ろうか」

「でも、子供がまだ小さいし、子供も今の生活が楽しいみたい」

　子供が自立して、家をでるまでは、人間世界にいることになった。

　あこちゃんは高卒で働き始めたけれど、

　けいの君は大卒で働き始めた。

　結婚して家を出るのは、しばらくしてからだけど、

　けいの君がお嫁さんを連れてきた時は、二人して喜んだ。

　お義母さんは、認知症で介護が必要となり、魔界に帰るのはまだまだ先になりそうだった。