幼馴染を拉致ってみた

立風館幻夢

幼馴染を拉致ってみた

「……やってしまった」


 私は目の前に眠る毒リンゴを食べた姫を見て、そんなことを呟いた。

 姫は茶髪のショートヘア、白い肌がきらめく美しい体をしている……布で手足を縛られ、仮に目が覚めても身動きが取れない。


「こ、これで……舞ちゃんは私の物……」


 何故私は、こんなことをしてしまったのか、これには深い理由があるんだ。



璃音りおん! 置いていくよ!」

「待ってよ!」


 私こと璃音は、幼少期からずっと一緒の友達……「まいちゃん」の事が恋愛的な意味で好きだった。

 最初の出会いは、小学生の頃。

 私の親は会社を経営してて滅多に家に帰ってこない。

 そして私は広い家でずっと一人……それ故に誰とも馴染めなかったし、変わっている私はいじめの対象になった。


 ……そんなある時、男子にいじめられていた私を、舞ちゃんが助けてくれた。

 舞ちゃんは男の子に負けないくらいの力を持っていて、いつも助けてくれた。

 だから私は、ずっと彼女について来ていた。


「舞ちゃん、いつもごめん……」

「いいよいいよ! 璃音は私が守るから! ずっとね!」

「舞ちゃん……」


 舞ちゃんは、親と認識した小鳥のようについていく私を嫌な顔一つしないで受け入れてくれた。

 「璃音は私が守る」それが舞ちゃんの口癖だった。


 だからある時、彼女が「私立中学に行きたい」という話をしたとき、私はとても焦った。

 私も親と相談して、猛勉強をして、彼女と同じ学校へ行った。


 高校も同じ学校を志望して、また彼女の元へ……。

 ……だけど、流石に高校にもなると、舞ちゃんは他の子とも仲良くなり始めた……私はどうしてもそれが嫌だった。


 舞ちゃんは私の物……私を守ってくれるナイト様……他の子になんか渡さない。

 テスト期間の最終日、私は彼女を喫茶店に誘った。


「ねぇ舞ちゃん! スタールコーヒーで新しいフレーバーが出たんだって! 飲みに行かない?」

「いいね! 行く行く!」


 舞ちゃんを誘うと、彼女は二つ返事で了承した。

 ……しめた。

 私は前もって通販サイトで睡眠薬を調達し、自宅で縛るための布も準備、舞ちゃんを養うための食料品も調達したし、着替えも用意した。

 鍵屋を呼んで部屋の鍵を厳重にしてもらい、ついでに家に赤外線も通して番犬も置いた。

 後は舞ちゃんを連れ去るだけ……。


「ちょっとお手洗い行ってくるね」

「うん」


 コーヒーを飲みながら談笑をしていると、舞ちゃんは席を立ち、お手洗いへと向かった。

 私はその隙に、カバンから液状の睡眠薬を取り出し、彼女の飲んでいたカップへと入れた。

 ティースプーンでそれをかき混ぜ、睡眠薬入りコーヒーの出来上がり。

 覚醒作用のあるコーヒーも、今は愛しの彼女を眠らせるための毒リンゴだ。


「ふふ……これで……舞ちゃんは……」


 彼女が戻るまで、私は妄想を続けた。

 眠らせたら、まず何をしようかな、とりあえず、キスをしたい。

 そして彼女の体をじっくりと味わって、私の物であることを体に刻みたい。

 目が覚めたら、おはようのキスをして、一緒に食事をして、テレビを観て、眠くなったらベッドに潜って、抱きしめ合って……。

 ……妄想が止まらない。


 この妄想があと少しで現実になるんだ、あと少しで……。


「璃音、お待たせ」

「あ、おかえり~」


 気づくと、彼女はテーブルに戻っていた。

 私は何事も無かったかのように返事をし、何事も無かったかのように笑顔を見せた。


「それでさー、この間裕子のやつがさー」

「うんうん」


 舞ちゃんは店に入ってから、他の女の話ばかりしている。

 私は平然を装って相槌を打っているが、実のところ気に食わない。

 舞ちゃんは私だけの物なのに、他の女と仲良くするなんて……許せない。

 でも、許してあげる、あと少しでその女どもとの縁も切れるんだから……。

 さぁ……口につけて……毒リンゴを食べて私の物になってよ、舞ちゃん……。


「……って言ってきたんだよ、マジないよねー」

「ほんと、そうだよねー」


 ……なかなか口につけないな。

 どうしよう……何か方法はないか?

 そうだ、話題を切り替えよう……。


「そういえば、このフレーバー、美味しいよね!」


 ……少々強引かもしれないが、これで飲み物に気が引くはず。


「……んん! 確かに!」


 ……よし、飲んだ……飲んだぞ!

 これで……舞ちゃんは……。

 私は嬉しくて飛び上がろうとしたが、ぐっと我慢し、舞ちゃんに笑顔を見せた。



「よし、じゃあそろそろ帰ろう、舞ちゃん」

「うん……」


 薬の効き目が出てきたのか、舞ちゃんはうとうとし始めた。


「どうしたの? 舞ちゃん?」


 私は心配そうな声を出した。

 だが、彼女が何故そんな状態になっているのか、既に理解していた。


「ちょっと……眠い……」

「テスト勉強頑張っちゃった?」

「ううん……なわけ……」

「私に掴まって、ちょっと私の家で休もう? すぐ近くだから」

「うん……ごめん……」


 私は舞ちゃんを抱え、舞ちゃんを家まで「案内」してあげた。



「……やってしまった」


 彼女の手足を縛り付け、準備完了だ。


「こ、これで……舞ちゃんは私の物……」


 まず、何をしよう……とりあえず、しばらくは目を覚まさないだろうから……。


「と、とりあえず、暑いと思うから……脱がせないとね」


 私は舞ちゃんのシャツのボタンに手を掛け、一個ずつ外していった。

 外すたびに、胸が高鳴り、手が震えた。

 いけないことをしているという罪悪感、舞ちゃんが起きてしまうかもしれないという緊張感。

 様々な感情が入り乱れ、手が止まってしまった。


「ふぅ……ふぅ……」


 落ち着け、落ち着くんだ私。

 もうやってしまった以上、後には引けない。

 ここまで来てしまったのだから、とことんやってしまおう。

 私は再び一個ずつボタンをはずし、彼女を覆っていた布を切り開いた。


「こ、これが……舞ちゃんの……」


 私は嬉しさのあまり、口を両手で覆った。

 息が荒くなり、胸の高鳴りが最高潮になった。

 こ、この体も……私の物……。

 ど、どうしよう……いざ本物を目の前にすると、どうすればいいのか分からなくなる。

 キスをする? いや、でも起きるかもしれないし……なら。


「さ、触るだけなら……」


 私はまず、指先で舞ちゃんのお腹をなぞった。


「さ、触っちゃった……舞ちゃんの肌を……」


 どうしよう、興奮が止まらない。

 あんまり大声を出してしまうと起きてしまうと考え、必死に声を抑えた。


「じゃ、じゃあ次は……」


 今度は手を思いきり開いて、舞ちゃんのお腹を撫でた。

 こ、これが……舞ちゃんの感触……。

 もっと……もっと欲しい……舞ちゃんが……。

 私は彼女の下着に手を掛け、上半身をすべてさらけ出した。


「ふぅ……ふぅ……」


 目の前に広がる光景、私にとってそれは、世界の名だたる絶景よりも美しく見えた。

 この絶景も……すべて私の物……。


「舞ちゃん……」


 私はその絶景に気を取られてしまい、思わず近づいてしまった。


「舞ちゃん……好き……好き……」


 私は舞ちゃんの唇に近づき、己の唇と重ね合わせた。

 舞ちゃんの唇……とても柔らかい。

 例えるならば、プリンのようなゼリーのような……いや、それとは比べ物にならないくらい最高の感触だ。

 しばらく堪能した後、私は彼女から離れた。


「舞ちゃん……」


 よし……では……舞ちゃんを……。


「んん……」

「……っ!?」


 舞ちゃんが声を発し驚きのあまり、後ずさりをしてしまった。

 舞ちゃんは……そのまま、目を開けた。


「ふぁー……よく寝た……ってあれ? ここ……どこ?」


 ど、どうしよう……舞ちゃんが起きちゃった……。

 お、落ち着け……まだ寝起きで状況を把握していない……ここは平然を装って話しかけよう。


「あ、舞ちゃん? 起きたみたいだね!」

「うん……璃音?」

「舞ちゃん急に眠くなったみたいで、私の部屋で寝てたんだよ!」

「そうだっけ……ってあれ? なんか手足が動かないんだけど……」

「あっ……」


 私はすぐさま、舞ちゃんに近づき、拘束を解いてあげた。

 どうしよう……咄嗟とはいえ、身動きを取れるようにしてしまった……。


「あれ……なんで私……服脱いでるの?」


 ま、まずい……流石に服が脱がされているのは違和感満載だ!

 こ、ここはそれとなく言い訳を……。


「い、いやぁ……なんか暑そうでさ、私が脱がしてあげたんだよ」

「そうなんだ……なんかごめんね、璃音」

「い、いいっていいって!」


 よ、よし……何とかごまかせた……。

 舞ちゃんは寝ぼけつつも、自分の服を直し、立ち上がった。


「なんか璃音に迷惑掛けちゃったね……私、もう帰るわ」

「か、帰る!?」

「……え?」


 や、やばい! 思わず驚愕の声を上げてしまった。

 ここで舞ちゃんを帰らすわけにはいかない……しょうがない、ここは……。


「いやぁ、この後夕立が来るんだってさー……ほら、舞ちゃんの家ってここから距離あるでしょ? どうせならしばらく私の家に居たほうがいいんじゃないかなー……」

「……そっか、じゃあ一応ママに連絡を……」

「あぁ! 大丈夫大丈夫! 私がやっておくからさ! それより寝起きで汗とかかいてるでしょ? シャワー浴びなよシャワー!」

「いや、いいよ、流石にシャワーをいただくのは……」

「いいからいいから! そんな汗まみれじゃ、折角の美しい体が……」

「……なんて?」

「いやなんでもない! とにかくお風呂場入ってて!」

「あ、ちょ……」


 私は舞ちゃんを強制的に押し出し、風呂場へと連行した。

 ……ひとまず時間稼ぎはできたぞ。

 ここからは長期戦だ、まずは夕飯を作って料理を振舞う、そしてそれとなく一緒に過ごして、一緒に寝る。

 明日は土曜日なので学校はない、とりあえずもう一度眠らせてじっくり洗脳して……。


「……あぁもう!」


 色々考えすぎて、頭が爆発しそうだ!

 ったく……こんなんなら、最初からこんなこと、計画するんじゃなかった……。


「何やってんだろ……私」


 私は大馬鹿者だ、舞ちゃんがちょっと他の女の子と仲良くしたからって嫉妬して、馬鹿みたいに家を要塞にして、舞ちゃんを眠らせて……挙句、舞ちゃんを自分を癒す道具みたいに……。


「私、最低じゃん……」


 ……なんか、自分が恥ずかしくなってきた。

 神様がもしも見ていたら、腹を抱えて笑うのかな?

 ……決めた、もう舞ちゃんばかりに頼らない、これからは自分一人でもなんとかできるようにしよう! もう高校生だし!


「……とりあえず、買いだめした食材勿体ないから、料理しよ」


 後で舞ちゃんのご両親にも連絡しなきゃ、今日だけは……独り占めしても良いよね?



「戻ったよー……ってなんか美味しそうな香り……」


 部屋で待っていると、舞ちゃんはタオルで髪を拭きながら入ってきた。


「舞ちゃんのために美味しい料理作ったの! 今日は泊ってってよ! ご両親には連絡したからさ!」

「ほんと? 璃音の家に泊まるのなんて久々じゃん! やった!」

「さ、早く食べよ!」


 私は舞ちゃんを連れて、客間へと案内した。

 舞ちゃんとお食事……嬉しいな。

 学校でも、最近一緒に食べられなかった……でも今日は特別だ、私の手料理を舞ちゃんが食べてくれる……。


「わぁ、美味しそう!」

「先に食べてていいよ、飲み物持ってくるから」

「うん! いただきまーす!」


 舞ちゃんはお腹を空かせた猛獣の如く、私の手料理に手を付けた。

 料理を口に運び、笑顔になる舞ちゃん……とても嬉しい。

 その笑顔を横目で見た私は、台所に向かい、冷茶を入れた。

 料理に合う冷茶……舞ちゃん、喜んでくれるかな?

 私はお盆にそれを乗せ、再び客間へと向かった。


「舞ちゃん、お待たせ」

「璃音! これすごく美味しいよ! 早く食べなよ!」

「うん、じゃあいただきます」


 私も箸を手に取り、自分の手料理を口に運んだ。

 うん、我ながら美味しい、しいて言えば少し甘かったかな?

 料理は幼少期からやっているが、たまに甘くしてしまったりしょっぱくしてしまったりなどをやってしまう。

 そろそろ味を確立させないと……ってあれ? なんか……目線がぼやけて……。


「あれ……? 私……どうなって……舞ちゃん?」


 私はぼやけた視線の中、舞ちゃんに声を掛けた。

 舞ちゃんは……笑っていた。


「ふふふ……ねぇ、璃音……今どんな気分?」

「舞……ちゃん?」

「実はさー、トイレ行く時―……私見ちゃったんだよね、璃音が私のコーヒーに変な液体を入れてるところ……」

「……!?」


 まさか……バレてた!? そんな……。


「それでねー……せっかくだから何企んでるか探ろうと思ってー……飲んだふりをしてたんだよねぇ……そしたらなんか璃音の家、前より厳重になってた上に……璃音ったら私の体でいろいろしてたでしょ?」

「まさか……全部……」


 そんな……舞ちゃん……。


「甘いんだよ璃音は、昔からね」

「舞……ちゃん……」


 意識が遠のいてしまい……目の前が真っ暗になった。


「大丈夫……璃音は私が守るからね……ずーっと」

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