第2話

2ー1,

 僕はなぜか、日の当たるところしか歩くことができない。これは生まれつきそうで、暗所や建物の影にはあまり近寄れなかった。完全に入れないというわけではないのだが、一度影に入ると吐き気とともに胸が苦しくなり、しばらくはそのまま動けなくなってしまう。

 だから、友だちに誘われても、お祭りやお泊り会に行くことはできず、いつも少し電気をつけたまま眠るようにしていた。小学生まではそれでよかったが、部活動などで本格的に活動時間が夜まで伸びる中学校に入ってからは、あまり上手く馴染めなかった。気づけば、自分の周りに友達と呼べる存在はいなかった。

 時々自分の体質を恨むことはあった。が、今となっては人付き合いの中で生まれる面倒くさい揉め事にも巻き込まれることもなく、生きてこられて良かったと思っている。

 だからこれまでの僕の人生と言えば、ただ淡々と“単々と”高校生活までを過ごし、特にこれといった事件もイベントもなく、皆が憧れるような華々しい学生生活からは遠ざかった日々を過ごしていた。


 日の当たる道を歩きながら僕は駅へと向かった。30分歩いてつくその駅は、この都市では最も大きな駅で、JRに新幹線、地下鉄やバスにタクシーなど様々なターミナル地点としての役割をもち、多くのショップを兼ね備えていた。日々客足は衰えることなく、最近では国際色豊かな観光客も多く見る。

 東西に伸びるその駅を目的地にした理由はただ単に、「何か時間を潰せそうだから」だった。

 ゲームセンターにでもいれば、自然と昼時になるだろうと、のんきに駅の階段を登っていると入口付近中腹辺りに落ちた、小さな紙切れを見つけた。

     

                    

【開店時間変更のお知らせ】

本日の開店時間は店内改装工事により、9時を予定しております。

お客様にはご迷惑、ご不便等おかけしますことお詫び申し上げます。



 拾った紙切れを読みながら階段を上がると、確かにまだ入り口の扉は開く気配を見せていない。

 参ったな。これでは時間を潰すために時間を潰さなければならない。今上って来た階段を下りて、近くに休めるところはないか探していると、右前方に長椅子が並べられているのが見えた。小走りにそこへと向かい、やや日にあたっているそれに腰掛ける。

 どっとあふれる汗をハンカチで拭い、投げやりにカバンへとしまって息を吐く。

 疲れたな、これから1時間どうするか。どこか別な場所で時間を潰すのでもいいが、そこまでの移動にも体力を浪費することになり、ただでさえ暑くなってきたのに、その選択は懸命ではないと考えた。

 結局僕は、その椅子に腰掛けたまま1時間を過ごすことにした。

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(仮)その椅子に腰掛けるのは 藤沢 志門 @SimonFujisawa

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