(仮)その椅子に腰掛けるのは
藤沢 志門
第1話
紛れもなくあの1ヶ月は、僕にとって一生に等しいほどの価値を持っていた。
僕はそう思っている。あのときも、そして、
これからも。
Title:その椅子に腰掛けるのは
藤沢志門
1,
「本日から北海道でも真夏日のところが増えてくるでしょう。」
天気予報士の声が静かに響く。
春も終わり木々の葉も緑になりつつあって、札幌全体が夏の準備を始めていた。
街ではカーディガンよりも、半袖一枚を着こなす人が目立つ。
午前7時、朝食に手を伸ばす。
今日の朝ごはんは、白米、わかめと麩をいれたお味噌汁、ベーコンに朝、冷蔵庫から取り出したレタスと、比較的食べやすいものを選んだ。
「いただきます」
味噌汁に箸を入れ、汁だけを一口飲む。
それから、白米、ベーコン、レタス、白米、ベーコン、レタス…と口に運び、最後にまた味噌汁を飲んで手を合わせる。何気ない15分だが、これが毎日をスタートするルーティンワークのようなもので、どんな献立でも同じように食べている。
「今日はよく、だしがとれたな。」
時々自分を褒めながら、毎日の朝を過ごしている。
一人暮らしを始めてからは、基本的に食事は自炊だ。朝5時に起きるとそのまま台所へ向かい、コップ一杯の水を飲みほしてから調理に取りかかる。ご飯の炊きあがりを7時にセットしているので、それまでは洗濯や掃除をし、ネットニュースに軽く目を通して時間を過ごす。
最近ではこの生活にも慣れてきて、手際よく進んだ日には、窓から日が昇る空を見上げて少し寝転がり、ご飯が炊き上がるまでの間のんびりと過ごしている。
今日は大学も休みだし、天気が良いので少し街に出てみることにした。
朝食後、歯を磨いて、街へ出かける支度を済ませる。今日はワイドサイズの黒シャツにグレーのスラックスを合わせてみた。窓の施錠を確かめてから、黒のサンダルを履き、外に飛び出した。
扉を開くと青白い光が差し込んできた。目を細めながら、ぼんやり滲んだ景色を確認する。今日は吸い込まれそうなほど、雲ひとつない快晴だ。これは天気予報も当たりそうだな、そんなことを思いながら、僕は街へと繰り出した。
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