第36話雪男の伝説3

俺達はイエティが出ると噂の小屋へと立ち寄る。

そして…事もあろうに奴はやってきた。

ノシノシと雪を踏みしめる足音。

そして…クッチャクッチャと何かを食っているような咀嚼音を立てながら。

そして…その扉は今。

開かれた。


バァンという扉の開いた音と同時に奴の白い毛が見える足が部屋の開いた扉から見えたんだ。

ぬぅーっと入ってくる奴の身体は白い毛がゴワゴワと生え揃い…その身体はゆうに二メートルは越えているだろう。

その時…ぽたぽたと床に何かの水滴が滴り落ちる。

その水滴を凝視する俺。

なんとそれは…真っ赤な血液だった。


「くっ。」


俺はその光景に思わず声も出せなくなってしまう。

そして足元から見上げていくと。

手にはさっきまで食っていたであろう人間の腕を握り。

その顔を見あげようと見ていると。

身体中の所々に付着している血痕が付着している。

それは奴が食っていたであろう腕から飛んだのだろう。

すると。

突然部長が声を上げる。


「貴様ら……私が囮になるから…その隙に逃げるのだ。」

「えっ!?」

「ぶ、部長!!???」


仁も俺も部長のその提案に開いた口が塞がらなかったんだ。

すると部長はニヤリと口もとを歪め続ける。


「ふん!オカ研の部長たるもの…この身をもってして部員の生命を守る…お前らの生命が…最優先だ。」

「部長!!?何言ってるんですか?ダメですよ!?何とかして部長も一緒に…逃げますよ!」


仁も部長にそう告げる。

俺は。

ただ部長のその表情を見ている。


「藤野…部長。」

「輝也……。」


だがこの時…俺は非常に違和感だらけな事に気がついていた。

だが…俺は。


「涼子……」

「えっ!?て、輝……也?お、お前…なんだ」


俺のその言葉に部長は顔を赤らめ…焦り始める。


「いいから!!」


俺の大声に部長と仁は驚いた表情でこちらを見ていたんだ。


「仁…」

「突然…どうしたんだ??輝也??」

「いいから俺の話を聞け。」

「お、おう!」

「いいか?これから急いで外へ出るぞ!?」

「え?あんな怪物いるのにどうやって??」

「いいから!俺にあわせろ?」

「お!、おう!」

「いいか?外にスノボ一枚とソリが置いてあったのを確認した!仁はソリに乗って全速力で麓へ向かえ!」

「でも?どうやって?たしかに僕はスノボには乗れないけど。」

「ならやはりこの作戦でいく!!部長は…俺が!!」


ダッと走り出す俺達!!

部長の手をひき俺は外へと走る。


「えっ??て、輝也!?あの…」

「いいから部長!!」

「よし!僕はソリをゲットした!もういくぞ!!」


仁はソリに乗り滑り出す。

俺はスノボを足に装着する。


「お、おい!輝也??」

「部長!!しっかり掴まってろ!!!??」

「えっ!?きゃーーーーーーーっ!?」


俺は部長をその手に抱くとスノボを滑らせる。

後ろから待っていたかのようにイエティが走り出してくる。

すると。


「いやっほーーー!!輝也!これなら逃げれる!!」

「おう!!このまま下山するぞ!!」

「っていうかーーーー!?輝也スノボ……」


俺の目の前にはどんどん流れていく景色。

スピードに乗り加速していくスノボ。

俺にしがみつく部長。


「輝…….輝也……貴様…いや…君…スノボ……」

「ああ!言ってなかったね!俺スノボはプロ並みだぜ??」

「あ…うん。」


再びしがみついてくる部長。

俺は、そして仁も滑走していく!!


どんどんどんどん…。


「あ!前にジャンプ台がーーーーーー!!」

「ああ!!仁!!とべーーーー!!、」

「ぐぁぁぁぁ!ーーーー!!」


ダンッと俺達は飛んだ!!

まるで宙を自由に飛んでいるかのように。

そして。

「ふぅ〜〜〜!なんとか逃げれましたね!」


俺の目の前には腰が抜けたかのようにはぁはぁと息を切らしている二人がいる。


「いやぁ!逃げれたな!良かったーーー!」


仁は安心しきった声を上げる。

そして。


「イ……イエティ…」

「あー!部長まだ忘れてなかったんだ!」


部長の声にそう返す俺。


「イエティ……ってほら…あの人…でしょ?」

「う…うん。」


するとそこにいたのはこのスキー場の管理人がイエティの頭を外して座り込んでいたのだ。


「えっ!?管理人さん??」

そう。

部長曰く、ここのスキー場は昔は本当に繁栄して沢山の人が来てくれていたらしい…最近の不況の煽りでここのスキー場の利用者も減ったらしい。

そんな時…部長の父と友人だった管理人さんは何かあればと相談に来た所部長の提案でこんな企画をして客寄せをしてみようと。

こんな企画をしてみたらしい。


「とまぁ…そんな感じなのだ…貴様らにも悪い事をしたな。」

「ほらね?」

「えっ?やっぱり輝也は気がついたのだな?」

「まあ俺も気がついてこんな感じで演技をしたという訳だ。」

「マジか!?気づかなかったのは僕だけ?」

「「そうだな」」


仁はガックリしていたが。

夜空から雪が舞い落ちてくる。


「雪….」

「お嬢様!?本当にこの度は迷惑おかけしました!」


管理人さんは申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「いえ!ここのスキー場…私も昔から連れてこられ好きな場所だ。」

「ありがとう……ございます。」


空から舞降る雪。

それと共に管理人さんの涙が一粒…。

お読み下さりありがとうございました!

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