第4話七夕の夜に。

さて!皆様こんばんは!

最近暑いですねぇ…あ!そうだ!確か今日は七夕らしいですね!そうだ!以前聞いた事のある七夕の日に起こった話を話そうか…。

確かあの日もこんなに暑い夜だったな。

ある所に一人の男が住んでいた。

男の名は『彦星玲也ひこほしれいや

とある有名企業に務めるエリートサラリーマンだ。

俺はこれまで何不自由なく暮らしてきた。

家柄も医者の両親がいて家は金持ち。

そして学歴優秀、スポーツは何をやらせても即なくこなし女子にはモテまくりそんな俺だった。

まあ自分がそんな境遇だった為に友人なんかは少なく自分の金に興味があるものしか寄ってこなくそれでも満足する暮らしをこれまでしてきたのだ。

ところがそんな俺がいつも通り仕事帰り。

少々薄暗かったが駅を降り自宅への帰りだった。

家の近くの公園に差し掛かると目の前に蹲る老人の姿があったんだ。

俺は早く帰りたい気持ちもあり目の前の出来事が少々ウザかったのだった。

知らないフリをして横を通り過ぎようとするとその老人はこともあろうに苦しそうな声で俺に声をかけてきたのだ。

(うわ!マジかよ!さっさと帰りたいのに声かけてくんなよ!)

俺はそう思いそれでも気付かぬふりをして通り過ぎようとすると、なんとその老人の手が俺の足の裾を握っていたんだ。

「は!離せよ!俺は忙しいんだよ!」

「く…苦しい……た…たすけ……。」

「うわぁぁぁーーーっ!!??」

俺は老人の手を振り切り勢いよく走り逃げる!!

昔…陸上でも名を馳せたこともある俺の足は老人の手を振り切りそして気がつくと家の前までなんとか帰りついていたのだ。

「はぁはぁ…やっとここまできた!はぁはぁ…もういいや…帰ろ。」

そして俺は自宅へと無事に帰りそのままゆっくり休む事にしたのだ。

次の日、俺は昨日あった事が嘘のようにすっかり忘れ、そしていつもの様に会社へと向かう。

すると朝から俺のファンであろう女子達から挨拶が代わる代わるくる。

いつものその光景、余韻に浸っていると俺の目の前を歩いている女子社員を見かけたんだ。

その子の名は『天野織姫あまのおりひめ

会社内でも評判いい女子で皆に好かれるタイプの女子。

俺は実は前々からその子には興味があったのだ。

理由は会社含め世の女性は少なからず皆俺に好意をもって接してくる。

つまり俺はどんな女性からもモテる男なのだ。そんな俺が唯一声をかけても乗ってこない女子なのだ。

だからこそ俺の心に不思議と火がついたのだった。

「おはよう!『天野』さん!今日も君の魅力は他の子以上だね!あ!今晩時間とかあったりしないかな?ほら!今週末は七夕だしそうそう!夜空を眺めながらデートでもどうかな?」

「あ!おはようございます!今日もよろしくお願いします!」

彼女はこんな感じの返事を返しスタスタと立ち去って行ってしまったのだ。

(くそっ!どうして彼女だけは上手くいかないんだよ!?)

俺はヤキモキしていた。彼女を落として!そして必ず俺だけのものにしてやる!!

そう、この時更に心に誓ったのだ。

それからは怒涛の俺の攻めだ。

俺は天野さんとの接点をより身近にする為。影で彼女の身辺調査をする様になり少しづつ彼女との距離は身近なものになってきたのだ。

そして俺はやっとの事で彼女と二人での初仕事をする迄に段どりをしたのだ。

今日一日は朝から晩まで彼女と二人きりで仕事だ!

絶対俺の物にしてやる!!

朝から俺達は隣の県まで車での営業に行く事になったのだ。

「よろしくお願いします!」

天野さんは俺の運転する営業車に挨拶をすると乗り込んでくる。

彼女のふわりと心地いい香りに俺は興奮してくる。

「あ!今日はよろしくね!じゃあ早速○○県の取引き会社に向かうね!」

「はい。」

彼女はそう一言返事をすると俺達は仕事へと出発するのだった。

運転中俺は天野さんになにか話すきっかけを探す。

百戦錬磨の俺の話術は大抵の女子にならウケる話。それ以前にデートする時に限らず女性からの話で俺は会話が成立してしまうのだった。

だが…この子は違う。

俺の話には全てはいかいいえで返してくるのだ。

つまり会話のキャッチボールが出来ないのである。

俺達は行きは終始無言のまま取引き会社へと辿り着く。

そして仕事を難なくこなした俺達は帰路につく。

時間は少々かかったものの午後18時、今から帰ってもゆうに三時間はかかるだろう。

俺は天野さんを食事に誘う。

「あのさ…このまま帰っても腹が減るだろ?俺が奢るからご飯でも食べて帰らない?明日は会社も休みだしさ!」

そう…今日は俺にとってはまさに天国の様なシュチュエーション。

明日は休み。実はこれも取引き先に熱心にお願いをし俺は全て天野さんとこの時間を設けるために企てた仕事でもあったのだ。

彼女は無言でいた。

「俺さぁ!実はこの辺で美味しいって評判のレストランを見つけてたんだよね!」

「えっ!?いつの間にですか?」

その時、偶然彼女のお腹が鳴ってしまう。

ぐぅぅぅ。

「じゃあ!いいね?」

彼女は無言だったが俺はそのレストランに車を停めたのだ。

俺達は終始無言のまま食事を済ませる。

彼女は足早に車へと戻る。

俺も次はどうしようかと作戦を考えながら空を見上げるとそこには天の川が見えたんだ。

車のエンジンをかけないでいる俺。

「今日は七夕だね!天野さんは名前も織姫だしさ、俺も彦星だよね?」

無言の天野さん。

構わず俺は続ける。

「俺達はきっと運命の相手だったんじゃないかな?」

俺は助手席に座る彼女の肩に手をまわす。

彼女の身体は小刻みに震えている。

「大丈夫だよ!全部任せとけばいいよ!」

俺はそう言うと彼女の唇を見つめる。

月明かりが彼女の唇を怪しく照らす。

俺は目をそっと閉じ。

その時!!

ドンッ!!!

俺達の車は衝撃音と共に激しく揺れたんだ。

「なんだ!!??」

俺は慌て車の外に出る!!

すると車の天井には何かが乗っている。

「だ!誰だお前は!?」

するとそこには月明かりで照らされた老人がこちらを見て笑みを浮かべている。

「お!お前はこないだの!!??」

「く…くるし…くるしかった…。」

老人はそう呟く。

「な、なぁ、こないだは、その…悪かったよ、な?今は俺はちょっと用事があって抜けれねぇんだ。な!?だから。」

俺は急いで車に乗り込むとさっきまでいたハズの天野さんの姿がそこにはなかった!

「天野さん?」

その時!!

目の前のフロントガラスにへばりつく老人の姿が!?

「うわぁぁぁーーーーっ!!??」

俺は急いでエンジンをかけようとキーをまわす!!

ところがエンジンがいくらキーを回してもかからない!!

慌てる俺!!

そして老人はフロントガラスから喚く!!

「くるしかった!!くるしかった!!」

「うわぁぁぁーーーっ!!??」

俺は思わず車から飛び出そうとするが今度はドアが開かない!!

「くるしかった!!くるしかった!!」

ドンドンっとフロントガラスを殴り壊そうとしている老人の姿!!

俺はひたすら恐怖する!!

震え出す身体!次第に声も出なくなる。

次の瞬間!!

バリーーーーン!!!

とうとうフロントガラスが割られ俺の身体にその破片が突き刺さる!!

「ぐっ!!うあっ!!!」

すると老人はゆっくりと俺に手を伸ばしてくる。

「はぁはぁ…くるしかった!お前も!!!」

ガブッ!!!!!

その瞬間!!

俺は腕に強烈な痛みを感じる!!!

「うわぁぁぁーーーーーっ!!??」

俺の腕に噛み付く老人!!

ぐちゃぐちゃと音を立て俺の腕を食い、そして咀嚼する!

「はぁっ!腹がへった。」

がむっ!!!

「うぎゃぁぁぁぁああああーーーっ!!??」

そう言って老人は俺の太ももにかぶりつく!!

その痛みは想像を絶する程の痛み!!

俺の身体は思わず仰け反ってしまう!!!

俺の脳内には後悔しか浮かんでこない。

そして俺がふと…夜空を見上げると。

晴天だった夜空。

今日…七月七日年に一度の七夕の天の川はとても美しく空で輝いていたんだ。

ああ…天野さん、もう君とも一年に一度だけじゃなく…もう二度と……会えない……かも。



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