第6話-お母様は手より先に剣が出る。



拉致騒動から2日目の朝。

改めて私はお母様のお小言タイムを設けられてしまった。


「それで、外で遊び呆けていたら拉致されそうになったと?」


お母様の執務室に呼ばれ、お母様のデスクの前に立たされている。明るい金髪をキッチリと結い上げ、おっとりした優しそう美人なのだが、私の素行が悪いせいか、かなり厳しいく眉を顰めている。

「……申し訳ございません。」

私は大人しく、ペコリと頭を下げる。


お母様……遊び呆けてなどいません…執筆活動です…。

なんて言えない。


「はぁ……貴方はお父様に似て向こう見ずな所があるから、お淑やかに、とは中々いかないのだろうけど。」


……私はどちらかと言えば、確かにお父様似だ。

とにかくアクティブ。前世からは考えられない程に。遺伝とはこんなにも人を変えるものなのかと、恐ろしくなるほどだ。


「あなたは、もう17歳ですよ?結婚しても良い歳だというのに……舞踏会に行けば必ず誰かを怒らせてばかり……社交界で貴方が何と言われているか分かっていますか?」


「はい……」

私は目線を泳がせて生返事だ。


「棘薔薇姫だの我儘姫だの…それはもう酷い噂ばかりなのですよ?!お勉強はできるのに貴方はどうしていつもいつも!!そんなだから結婚の申し込み一つ来ないのですよ?」


「はぁ。」

結婚?……結婚なんて墓場でしかない。あんな墓場に二度と足を踏み入れたくないわ。


私のため息にも似た返事に、お母様がついにキレた。


「はぁ、とはなんですか!!!」

バァンと机を叩き立ち上がるお母様に私はビクゥッと跳ね上がる。


「お、お母様、落ち着いて下さい。」

私は後退りながらお母様を宥める。やばい。

ユラリと動くお母様は、チラリと壁に飾られた剣を見る。私も一緒に壁を見た。やる気だ。


「母はこんなに心配しているというのに!!」

ダッとお母様が剣に向かって走り出すと同時に私も剣に向かって走る。

「お母様!結婚がなんだというのですか!!!」

二人同時に剣に手を伸ばし、手にしたのは母だった。


「……やばッ!」

私は間合いを取ろうと後ろに下がろうとするが、それよりも早くお母様は素早く鞘を振り捨て、一気に切り下ろしてくる。

「はぁぁ!!」

「ひぃっ」


パシィッ!


私は、間一髪で振り下ろされた刀身を頭上で両手に挟んで止める。


死ぬかと思った…っ!!


ハァハァと緊張で息が上がる。

頭上の手を緩めたら確実に頭をかち割りに来るだろう。ここが母の怖い所だ。


「結婚は女の勤めです!!結婚なさい!!幸せになれる殿方を探してあげるから!!」


お母様には私の命を脅かしてる自覚は無いのだろうか。

剣を握りる手に一切の迷いが無くて困る。


「嫌です!結婚するくらいなら出家して尼になります!」

殺されそうになったとしても、私も一切引く気はない。

ギチギチと攻防戦が続く。

娘だろうが容赦無い。生き抜く為には護身術を身につけ、母の一撃を止めるくらいは出来なければならない。母の愛(剣技)受け止める。これがルベルジュ辺境伯家だ。


「なんて事言うのですか!!ここまで立派に育ててきたのに!!」

ほろほろと涙を流し始めるお母様の表情と、今にも私の脳天をカチ割ろうとする頭上の剣とのギャップがすごい。


コンコンコン…


誰かが執務室のドアを叩く。

だが私達はそれどころじゃない。

女同士の引けない戦いがあるのだ。


「失礼致しますぅ……奥様……、お茶をお持ち致しま……した?」


ガチャリとドアが開き、侍女が入ってくる。執務室のお母様が居るべき場所に誰も居ないのでキョロキョロと部屋を見渡している。そして私と目が合った。


「あ、あなた、ごめんなさいね?ッ……お父様か、……っお兄様を、呼んできてくださるかしら?」

私はプルプルと震えながら引き攣った笑顔で言ったのだった。



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