第4話-人攫いと冒険者

私はこの領地を収める辺境伯のお屋敷へと歩いてく。街のはずれにあるお屋敷は途中から人気が全くなるが、その分春風が木々を揺らす音と野鳥の囀りが穏やかな散歩道を演出していた。


ルベルジュは今、花盛りの季節なので道端でも色とりどりの花達が目に入る。


ゆったりと景色を楽しみながら歩いていると、木々の間で何かが動き、後ろからは足音がした。


誰かに跡をつけられている。


これはちょっと、急いだ方が良いかもしれない。


私は無言で走り始めた。

後ろと横から私に付いてくる気配。

私が走るよりも早く、前方を塞ぐように、林から黒装束の男らしき人が出てきてしまい、私は足を止めざる終えなくなった。


らしき、と言ったのは、ご丁寧に仮面を顔にくっ付けていたからだ。


体格的に、まぁ、男だろう。


「ルベルジュ辺境伯のご令嬢、エルネット様とお見受けする。」


私は喋らない。


後ろに逃げようと後ずさるが、やはり似た様な格好のヤツが3人出てくる。


「……違うわよ?」


私はきょとんとして言い放つ。

とりあえず否定してみて、これで引いてくれたら万々歳だ。


「背格好も情報と一致している。脱走癖があると言う事も情報と一致する。」


「え――っ……脱走癖とか広まってるの?恥ずかしいんだけど。」

これを知られたら、また母は怒り狂うのだろう。


黒装束に言われた通り、私はルベルジュ領主、ジェロック・ウォル・ルベルジュの娘、エルネット・マリアナ・ルベルジュだ。


鉄壁の領主、英雄伯などと謳われる父は、隣国の恨みを一身に買っている。いわば人気者である。そしてその恨みの矛先は、弱そうな女子供に向くわけだ。

私はため息をつく。

「私が、エルネットだったらどうなるの?」

私は大切な本をぎゅっと抱きしめる。

これだけは傷付けてなるものか。


「我が国においで頂こう。」

男はジリジリと近づいてくる。


「拉致ですか。今まで同じ事を考えた刺客が居なかったと思います?」

私は腰を低くして後ずさるが、後ろにも3人いるのだ。


さぁ、どうしたものかと考えあぐねていると、後ろの刺客のさらに後ろから声が聞こえてくる。


「おいおい。お前ら女の子1人に男4人掛かりとか恥ずかしくねーの?」


後ろから赤髪の短髪に長身の冒険者のような男が歩いてくる。腰には服装に不似合いな繊細な装飾の大剣を下げており、明らかに身分の高い者だと分かった。

「……」

男達は無言でその男に敵意をむき出しにする。

「おー。こわ。お嬢さん、ここはいいから早く帰んな。」

冒険者っぽい男は大剣を、鞘ごと外し、そのまま構える。

「我らをみくびるか。」

黒装束の男達は一気に冒険者っぽい男に斬りかかる。

「いやいや、辺境伯サンちの前の通り汚せねーだろ。誰がお前ら掃除すると思ってんだよっ!」

それに応戦する冒険者っぽい男は4人を軽々と相手している。


私は全力で走って辺境伯の屋敷へと駆け出した。



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