第3話-スカーフの対価
沢山の人が行き交う大通り。
服装は生まれた地域によりさまざまな様子だ。
そこかしこに食事処が立ち並んでおり、昼時の空腹を刺激する香りを春風が運んでくれる。食事処も賑わっているようだ。
「んー、いい香りだわぁ。」
私はくんくんと料理の香りを嗅ぎながら歩く。
さて話は前世の事に戻るのだが、この記憶が夢なのか現実なのか分からなくて、私は前世の自分の知る料理を作ってみた事があった。
結果、料理なんてやったこともない私が美味しく肉じゃがを作ってしまった。
父と母は生死の境で神から能力を授かったのだと思っていたようだが、実は前世の記憶だ。
今では領地の名物料理になってしまった肉じゃがは、 ワインによく合うコッテリ肉じゃがや、チーズがタップリと乗ったチーズ肉じゃがなど独自の進化を遂げていて、どれもとても美味しいく人気のある料理となっている。
他にも…プリンや惣菜パン、菓子パンも下町に広がり、パン屋やカフェ、酒場などはとても賑わいを見せている。
露店で販売されているそれらを通り過ぎるのはとても悲しい。
「美味しそぉ。でも夕食入らなくなっちゃうし。」
私は服で林檎を拭いて歩きながら食べようとする。
「ちょっとそこの君!ねえ!」
ん?と後ろを向くと、銀髪の知らない男が追いかけてきた。
見た目は二十代だろうか、端正な顔立ちにツヤツヤの肌のくせに、旅人の様な格好でマントを羽織っていて、なんだか埃っぽい。
不審者を見るような目で見ていると、男は手を差し出した。
「君、これ落としたよ。」
見れば髪を束ねていたスカーフだ。
髪に触れると、長い亜麻色の癖っ毛はゆらゆらと好き勝手に遊んでいる。
「あ、気づかなかったわ。どうもご親切にありがとう。」
私がそのスカーフを受け取ろうっした瞬間、男はヒョイっとスカーフを持つ手を上げる。
私の手はスカッと宙を握り、受け取りそびれた私はムッとした。
「どうして返してくれないの?」
銀髪に見え隠れしていた琥珀色の瞳を覗き込んで抗議すると、男はにこにこと笑う。
「お嬢さん、この世は親切だけじゃ生きていけないんだ。知ってる?」
は?初対面で何言ってんの?
なんだこのムカつく野郎は。こういう失礼なやつ騎士団にでも放り込んで性根を叩き直してやりたい。
でもまぁ、親切だけじゃ生きていけないのは確かだ。
「何がお望みですか?そのスカーフに見合うお礼をします。」
逆に言えばなんでも言う事を聞くわけじゃないと言っている。別にスカーフなんて幾らでも持っているので、その銅貨2枚の安物スカーフに見合わない要望をふっかけて来たら騎士団に突き出してやるわ。
銀髪の男は、ふふっと、一瞬嬉しげに微笑んだかと思うと、次の瞬間には、いけすかない笑顔でニッコリと笑った。
「ここらで一番料理の美味い食事処を教えてください。」
私はきょとんとする。てっきり金でもせびられるかと思ったのだ。
どんな要求が来るのかと身構えていた私は、面白くなって笑い出す。
「あははは!いきなり意地悪な事するから、何事かと思ったわ。そんなの、普通に声掛ければこの辺の人は誰だって教えてくれるわよ?」
私はそう言うと通りの店を指差した。
「この通りの店はハズレなしよ。私が好きな店は、そこの宿屋の一階の食堂ね。こってり肉じゃががオススメ。」
親切に教えてあげると、男は嬉しそうに笑いながらスカーフを返してくれる。
「ありがとう。助かった。君の名前も聞いてもいいかい?」
スカーフを受け取るとまた髪を束ねて今度は見せつけるように、ギュッとキツく縛った。
そして腕を組み、ふん!と意地悪く笑う。
「欲しい物があるならそれ相応の対価を払いなさいな。私は高いわよ!城の一つでも用意なさい!!」
高笑いしながら言ってやると、男が驚いたようにこちらを見て、言葉に詰まってしまっていたので、そのまま優雅に立ち去ってやった。
あはは!因果応報よ!あーすっきりした!
旅人だったし、もう出会う事もないだろう。
私はまた軽やかに大通りを歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます