第92話 絶望との対峙 ②
その日、グレースは目眩を訴えていたが、そのまま倒れ込んでしまった。
サンティティは彼女の貧血状態を確認して医務室に送り、そこでしばらく一緒にいて休んだ後で部屋まで彼女を送っていった。
「本当に大丈夫?」
サンティティはグレースの部屋のドアの前で立っている。
「うん…ちょっと疲れちゃったみたいだから、横になってるね。もう大丈夫だから、サンティティは仕事に戻ってね。」
「ああ〜〜、仕事サボる良い口実になると思ったのにな〜。」
軽口を叩いてから、仕事終わりにまた寄ると陽気に伝える。
少し微笑んだグレースがドアを閉めると、サンティティはドアに背を向けて首を項垂れた。
俺は何をやってるんだ…彼女があんなに心労でボロボロになっている時に。
せいぜい軽口を叩いて、何もないフリをするしか脳がないのか、オレは!
ゾアンにハルモニア侵略の件を伝えたことに関して、ステラ副船長からは軽率な行動であったと二人揃って散々叱られた。しかし、特にこれといったお咎めはなく、ゾアンとの交流をいち早く復帰できるように努力する事、と言われたのみであった。
その事があって、というわけではないが、いち早くゾアン達との関係を修復することが今のグレースにとっては一番の薬なような気がした。
しかし、未だにゾアンたちはグレースを無視し、ゾアンと交信中の脳波を復元する機械も完成していないため、グレース以外の人間は彼らと話すことができない。
もどかしい気持ちを抱えてサンティティは自分の部屋に寄った。グレースの脳の状態を確認するためである。疲労からの眩暈で倒れたのではと思っていたのだが、念のため確認しようと考えたのだ。
そこで彼は、さらなる絶望的な事実に直面することになった。
「う、うそだろ…」
サンティティは、脳スキャンの写真を前にして、硬直していた。
グレースの病気が進行している。
ここ数ヶ月の間、ずっとモニタリングしてきた。そして、病気の状態にもずっと変化はなかった。サンティティは、もしかしたら、このまま進行せずに、いつまでも一緒にいられるのではないかと、淡い期待を抱き始めていた。
そんな時の、突然の出来事である。
今の彼女に、言えるはずもない。目眩で倒れそうになったのも、そもそもこれが原因かもしれない。
サンティティは手元にある写真を握りつぶしてクシャクシャにしてしまう。
「わああぁぁぁぁ!」
サンティティはテーブルに置いてある資料を吹っ飛ばし、壁からはポスターを剥がし、目覚まし時計をぶん投げた。
「そんな、そんな…彼女は頑張ってきたじゃないか。それなのに、こんな…酷い、酷すぎる…」
サンティティはベッドに顔を埋めた。
そしてそのまま職場には戻らず、ベッドに顔を埋めたままで何時間も過ごした。
そろそろ仕事の終わりの時間だろうか?
サンティティは、ゾンビのようになった自分の顔を鏡で見て、すぐに顔に手を当ててそれを正す。グレースに会いに行く時間だ、こんな顔じゃいけない。
サンティティはそれでも神妙な顔つきのまま、グレースの部屋の前まで来るが、ノックしようとする手が止まった。
今彼女と会って、平常心でいられる自信がない。そもそも、もう恐らくまともな顔をしていないだろう。
サンティティはずっと部屋の前で立ち尽くした後、グレースにメッセージを送る。
『今日はどうやら遅くまで働かなきゃいけないみたいだから、また日を改めるよ。ごめんね…』
第93話『絶望との対峙 ③』 へと続く
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