第91話 絶望との対峙 ①

 ゾアンたちの前に出ると、三日ぶりに現れたグレースを迎えるように、すぐにゾロゾロとスペッツとマンゴーとミドリコニトがガラスの前に集まってくる。


 どうした?何があった?病気でもしてたのか?


 そんなような感情が伝わってくるようだ。


 グレースは一息つき、恨めしそうな目で三匹を見つめる。


 目の前で残酷な知らせを伝える事が、こんなに心苦しいのか。


 研究チームからは、不測の事態も予測されるためハルモニア侵略計画の件はゾアン達には内緒にしておくように言われている。しかし、彼らを偽り何も知らないフリをして愛想を振り撒くようなこと、出来るわけがない。


 偽りに目を閉じたままでいられるほど、私の感情は枯れてはいない。


 私の行動はさぞかし多くの人間に非難される事であろう。


 しかし、サンティティは分かってくれた。そして、こうしてすぐ隣で私の決断を支えてくれている。


 なぜこんなにも、彼は私のために尽くしてくれるのだろうか。何度確認しても、何度聞いても、彼は私のことを支えるという。重たいはずの荷物を軽く担いでいるような様子で。


 そして図らずとも、声を掛けてくれたティアナ、そしてフーコとマリアンヌからは、立ち上がる元気を分けてもらった。


 この先がどういう結果になっても、もはや後悔する事はない。


 どうやら目の前の三匹も、グレースの様子がおかしい事に気付いたようだ。不安な感情が伝播して、ゾアンたちも不安そうにグレースを見つめる。


 ごめんなさい、私も出来る限りのことはしたのだけれども…そんな言い訳に逃げるつもりはサラサラない。


 今まで教えた単語だけを用いて、語りかける。


〔近い未来…この船は、あなた達の惑星を攻撃する〕


【…?】


 少し難しかったらしい。グレースは言い直す。


〔ちょっと後、オムニ・ジェネシス、あなたの惑星、攻撃する〕


【!!】


 明らかな動揺がみられる。


【ハナシアウ…ヤクソク?】


 グレースは痛ましく目を閉じて首を横に振る。


 しばしの沈黙の後、ミドリコニトが雄叫びを上げる


【フキゥ#/**********!!!】


 凄まじい豪音のような声がグレースの頭を串刺しにする。


 激しい怒りの感情に、グレースは腰が砕けそうになる。


 マンゴーの身体はガクッと項垂れ、スペッツは嘘だろ、嘘だろ、と繰り返し聞いてくる。


 覚悟していたとはいえ、堪えきれなくなったグレースが嗚咽を漏らし涙する。


【ふざけるなぁぁぁぁぁあ!】


 言葉が分からなくても、感情として伝わってくる。


 もはや、ゾアンは罵詈雑言をぶつけること以外、何もしなくなっていた。


 それ以来、グレースがやって来て語りかけてもゾアンたちは彼女を無視する日々が続いた。


 侵略後に如何に犠牲を抑える事が大事なのか、という事を根気強く語っても、無視し続けられたのだった。


 グレースは日に日に重くなる足取りにて、無視をするゾアンたちに、一日中語り続けたのだった。



 オムニ歴105年8月27日…ハルモニア侵略計画執行日は、一週間後に迫っていた。






 第92話『絶望との対峙 ②』へと続く

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