第90話 煌めく星に願いを込めて ⑤

 フーコに連れられて出かける道中、休憩に入ったサンティティとダニーが歩いていたところに鉢合わせる。


「あ、グレース!良かった!部屋から出てきたんだね!」


 サンティティが声をかけながら、グレースの目の前まで歩いてくる。


「う、うん、なんとか、ね。」


 グレースはもの凄く久しぶりにサンティティに会ったような気がして、少し気恥ずかしくなってしまった。


「え、ええ〜、オホン。」


 フーコがわざとらしく咳をする。


 サンティティは今気付いたという感じで、グレースを取り囲む三人の女子に目を向ける。


「え、ええっと、こちら、どちら様で? 」


 サンティティがグレースに聞く、


「あ、えっと、つい最近、お友達になった人たち…」


「と、友達!?知らなかった!?いつの間に…」


「はい、でもって、グレースに軽々しく話しかける、こちらのお方は、一体どちら様でしょう。」


 フーコは目を細くしてサンティティを品定めでもするかように見る。


「え、あ、さ、サンティティと言います。グレースとお付き合いさせていただいています。彼女がいつもお世話になっています。」


 サンティティは馬鹿丁寧な挨拶をする。グレースの友達なんて初めて紹介されたから、どうするのが自然なのかが分からないが、とにかくサンティティにとっては嬉しいことだった。


「で、俺の紹介は、いらないよな?」


「ダニーさん!ご無沙汰しています。」


 ティアナが挨拶をする。ダニーは既に全員と面識があるが、グレースがこの輪に入っているのは初めて見た。


「あ、ダニーさん、その節はどうも。」


「こんにちハ〜。」


 女の子たちが皆でダニーに挨拶をするのを見て、サンティティが驚く。


「え!ダニーさん、みんな知ってるんですか!?」


 サンティティは自分だけ省かれているような気がして少しショックだった。


「サンティティ、休憩終わっちまうからもう行くぞ。それとグレース、元気になったんなら、職場にも顔出しな。みんな待ってるぜ。」


 ダニーがそう言うと、ツカツカと歩いて行ってしまう。


「じゃ、じゃあ僕らはここで!グレース、無理はしなくて良いよ!いつでも戻ってきて!また連絡するね!」


 サンティティはダニーの後を追って行った。


 その後ろ姿を眺めていたグレースが振り向くと、ハイエナのような目をした三人がいた。


 その後、目的地に着くまであれこれと質問されたことは言うまでもない。


 _______________________



「ここよ!」


 フーコが皆んなを連れてきたのは、オムニ・ジェネシス唯一のプラネタリウムだった。


「あ、ここってあの、星が観れるってところ?」


 ティアナが尋ねる。オムニ・ジェネシスでは、その気になれば仮想空間で星なんていくらでも観れるし、星空デートだって出来る。なぜわざわざ…?


 そのような疑問もごもっともである。


 しかしながら、このプラネタリウムが生き残っている理由。


 それは、独自に運営する船外カメラ映像をプラネタリウムドームに投影するというシステムを用いて、24時間リアルタイムで星が観えるという、唯一の場所であるからだ。


 中に入ると、何人かのプラネタリウムの客と、入り口付近にオムニ・ジェネシスが船として投影されている以外は、360°どこを見渡しても、あたり一面の星だった。まるで自分が宇宙空間を歩いているような錯覚に陥る。


「これは予想外でした。すごい綺麗…」


 グレースが目を見張る。


「でしょう!360°カメラの映像を、そのままライブで流してるんだって。」


「彼氏とのデートにも良さそうね〜、」


 ティアナはあちこち眺めながら目をキラキラさせている。


「もっとも、アタシらはいないけどね。」


 フーコが突っ込むと、ティアナはムスッとした。


「わ、宇宙空間に浮いてイルみたいデス。」


 周りに人と同じように寝転がってみると、今度は自分が宇宙空間を漂っているような錯覚に陥る。プラネタリウムのフロアは透明だが柔らかい材質で出来ていて、少しだけ波を打っている。本当に漂っているような感覚になる演出だ。


 四人は十字を描くようにそれぞれ寝転がる。


 皆黙ってしばらく星を眺めていると、自分の存在が宇宙に溶け込んでいって、塵になってしまたんじゃないかと思われた。


 そして、塵になったまま、溶け込むように宇宙を彷徨っている…北東には、一際目立つ虹色の惑星、ハルモニアがみえる。


「…ここにいるとさ、自分は、こんなにちっぽけな存在なんだって、そう思えてさ、なんか、悩み事も、クヨクヨしそうになる心も、不思議と吹き飛んでいっちゃうんだ。」


 フーコの言葉を聞いて、グレースは少し目頭が熱くなる。


「…はい。」


 グレースがそれだけ答えると、また沈黙が続く。


「…ありがとうございます。」


 -自分は…自分に出来ることだけをやろう…


 グレースは肩の力が抜けた気がした。


 自分が全てを背負わなくてもいい…自分は最初からちっぽけな存在で、手を伸ばしても、伸びたところまでしか届かないのだから。


「元気、でたみたいデスね。」


 マリアンヌはいつに間にか座り込んでいた。


 カサカサカサ…


「ん?」


 何か聞こえたグレースが、突然ガバッと起き上がる。


「やだ、虫!」


「え!?マジで!?どこ!?」


 フーコはまるでバネでも付いているかの如くビョーンと飛び上がり、ハワヮ、とか言いながらキョロキョロする。ティアナも必死の形相で起き上がる。どうやらこの二人、虫はよほど苦手らしい。


 四人は急いで大ホールを後にする。こうしてロマンチックな星空観賞は突然の終わりを迎えた。


 その後、プラネタリウム内の、オムニ・ジェネシスやハルモニアが拡大投影された別の部屋を周りながら他愛もないお喋りをして、カフェで時間を潰した。それから皆んなで一緒に夕食を食べて帰路に着いた。


 部屋に着いたグレースは、早速メッセージを送る。


「今すぐ会いに来て!」


 サンティティがすっ飛んで来たという。





 第91話「絶望との対峙 ①」

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