第71話 潜入!第一入船ホール ④

 青ざめたハリーは、どうしてそのことを…と心底驚いている様子だった。


「どうやって知ったか、は企業秘密ですな。」


 ハリーは観念した。どうやっているのかは知らないが、この記者のネットワークは恐ろしいものがあるということだ。


「そのことを喋れば、警察には行かない・・・のですね。」


 確認すると、ダニーは勢いよく「ハイ!」と返事をする。


「あの場所には放射性物質が高いレベルで検出されて・・・」


 いかにもマニュアル通りといった感じのストーリーを展開し始める。


 恐らくだが、あの場所を詮索しようものがいるなら、リトルチーキーのクルー全員が同じ話をするのであろう。


「あの〜、嘘をつくのはやめてもらっていいですか。」


 ダニーは古代流行語から引用してハリーを茶化す。


「あそこって、政府が隠したい、何かがありますよね。そいつら、めちゃくちゃ怒ってるみたいですけど。」


 ダニーは揺さぶりをかける。


(な、な、なんで知っているんだ!?)


 ハリーは目を見張った。


「ちなみに、こんどあからさまな嘘をついたら、この交渉は終わりですよ。おいしいスキャンダル、有難うございます。」


 ダニーは心底悪者になったようなニヤケ顔でハリーを上目使いにみる。グレースはそれを白い目で見ていた。


「ま、待ってくれ!すまない!ちゃんと話をするから、待ってくれ!」


 ダニーはずっとニヤケ顔だ。グレースも高圧的なプレッシャーをハリーに与え続けてた。


「でも、その口っぷり、もう知ってるんじゃないか。わざわざ俺に聞かなくても・・・」


「だ〜か〜ら〜、あなたがユ・ウ・エ・キな情報を僕らに提供できなかったら、あなたの人生終わりなんですって!頑張って、有益になってください!」


 ハリーは瞬時に悟った。


 ダニーたちが知らないことを、そして何か役に立つことを提供できなかったら、自分の人生は終わる、と。


 まさにそれがダニーがハリーに思って欲しいことそのものであった。


「も、もう一度確認させてもらうが、これを喋ったら警察に行かないんだな。それは分かったが、俺からバレたというのは、絶対に止めてくれ。命に関わる。」


 ハリーは終始狼狽えている。もう一度グレースをちらりと見る。その表情は、許してくれるような顔ではない。


「…私の隣の男はどうか知らないけど、私は約束は守る女よ。心の中はあなたをブタ箱に押し込みたい気持ちでいっぱいだけどね。それでも、約束は守るわ。あなたに信用してもらうための材料は、この言葉だけね。」


 グレースが変わらず怒っているのは伝わったが、信頼に足るほどの威圧感と説得力が彼女の言葉にはあった。


「わ、分かった。」


 ハリーは相変わらず震えが止まらなかったようだが、多少の落着きを取り戻しつつあった。


「お、お前たちは、どのくらいのことを知っている。い、いや、そんなことは聞いても仕方がないな。とりあえず、最初から話すことにしようか。」


 ハリーはまたも味のしないビールを一気に飲み干して、一息ついてから語り始める。


 ハリーは、前回のブラックワームとの戦いでブラックワームを政府が回収したこと。回収したブラックワームの中にゾアンが入っていたこと。そして、ゾアンが第一入船ホール、D5エリアで民衆には内緒で隔離されていることを伝えた。


 ダニーとグレースは、互いの顔を見合わせた。


(これだ!?)


 グレースは、予想だにしなかった答えに言葉を失った。


 ダニーも、建前上平静を装っているが、内心穏やかではなかった。


 それでもダニーはやっとのことで事態を飲み込み、不安そうにチラチラと様子を伺っているハリーに話しかけた。


「よ……よお〜し、ハリーちゃん。君の話はよ〜~っく分かった。それで、君はD5に自由に出入りできる、ということなのかな。」


「いや、それはできない。あの場所は、リトルチーキーのクルーにとってもタブーなんだ。ゾアン発見当時、クルー全員に情報が共有されてしまったから、仕方なくクルーが全員知っている、というだけなんだ。」


 ダニーは少し考える。


「では、そこに頻繁に出入りしているであろう科学者のリストを手に入れることぐらいはわけないだろう。」


「それなら…できるかもしれない。」


 ハリーは答える。


「潜入することはできないの?」


 グレースが尋ねる。


「い、いや、あそこは厳重にチェックも入るし、監視カメラも至る所にある。まず無理だろうな。」


 グレースは鼻でフーっと息を吐くと腕を組んでまた黙りこむ。


 ハリーは、自分が有益な情報を与えられているのか分からず、不安がっている。


「な、なあ、俺にはできることが限られているぞ。何度も言うが、俺がこのことをバラしたとは言わないでくれよ・・」


「分かってるわよ!約束は守る!」


 グレースが一喝する。


「うん、ご心配なく。君の利用価値は、すでに期待以上だから。リストが手に入ったら、当面きみに用はないから、きみはいつも通りの優雅な日常を続けたまえ。」


 ハリーが少しほっとした表情を見せる。すると今度はグレースが凄んでみせる。


「ただし!あなたがこれ以上なにかしらの悪事を働こうってものなら、その時が、あなたの終わる時よ!」


 ハリーはお腹が痛くなった。





 第72話『ゾアン体実験の様子』に続く。

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