第62話 美華の名を継いだ者 ③

 戻ってきたダミアンは、再生治療のお蔭で年を取っていなかった。


 師匠のフーウェイはダミアンの顔を凝視する。


「何をしに戻ってきた!胡蝶コチョウは、最後までお前のことを気にかけていたんだぞ!」


 ダミアンはフーウェイに怒鳴られて、少し顔を歪めた後、ただ頭を下げた。


「師匠、申し訳ございません。」


「もうお前と俺は師匠と弟子ではない!」


 マリアンヌが出てくる。


「だ、ダミアン!まあ、今までドコに…」


「あ、姉貴…お元気そうで。」


 ダミアンが顔を上げる。


「さっさと出ていけ!悪さばかりしおって!」


 フーウェイはダミアンに罵声を浴びせる。


「し、師匠。せっかくダミアンが戻って来たのデスから…」


「俺には娘しかいない!弟子も一人しかいない!」


 ダミアンは苦痛な表情を浮かべながら、言葉を絞りだした。


「し、師匠、よく聞いてくれ。」


 ダミアンは土下座をする。


「ここから、逃げてくれ!ここにいたら、二人とも危ないんだ!」


 マリアンヌとフーウェイは一瞬固まるが、フーウェイはすぐにその怒りの目をさらに尖らせた。


「事に及んで、ここから出ていけだ~!?俺と胡蝶コチョウが共に過ごした、この家をか!ダミアン、俺にぶちのめされたくなかったら、今すぐここを出ていくんだな。」


 ダミアンは表を上げようとしない。


「師匠、確かに俺はロクでもないことを繰り返した馬鹿だ。ヤバい組織にも手を出しちまった。俺はそこから抜けた!でも、やつらが追いかけてきて、そしてとうとう俺の家族がここにいるって、バレちまったんだ!頼む!逃げてくれ!」


 フーウェイは目を座らせている。


「ふ~ん。で、その組織のお友達とやらか、さっきから殺気を放ってそこらでウロウロしている連中は。」


「え!?」


 ダミアンが表を上げる。マリアンヌも驚いた。


 フーウェイは庭から小石を拾って、それを唐突に藪の中へ投げた。


 それから、もう一つを壁に向かって投げた。


「おい、もう面倒くさい。三人とも、出てこい。」


「い、イテテ…なんで分かったんだ。」


 藪からマスクをつけた女が現れる。メトロであった。


「№7…」


 ダミアンがぼやく。


「あら、壁の後ろにいたのに、なんで分かったのかしらね。」


 マニーシャが壁を越えて現れる。


「№3…!」


「一角のご武人、ということだろう。」


 背後から、ウールが現れた。


(こいつの気配は正直なところ曖昧だったんだよな。一番強いのはこいつか。)


 フーウェイの目が鋭く光る。


「な、№2!」


 ウールの姿を見て、ダミアンは組織の本気度を理解した。


 当然のことだろう。ダミアンは立派な裏切り者だ。見せしめに、確実に殺しておかなくてはならない。さらに、組織の情報を持ち逃げし、その一部をすでにリークしているのだ。殺し屋たちにとっては致命的な情報をだ。


「おい、裏切り者のクソ野郎は、私がやるよ。老人と女を殺す趣味はないしねぇ。」


 マニーシャが刀を取り出した。ダミアンが構える。


「よー、そこのゴツイの。俺が遊んでやろうか。」


 フーウェイはウールの方へ歩いていった。


神濤気しんとうき流、というのか?ご武人。我々はそこの男を引き渡してくれれば、このまま立ち去るつもりだ…それに、その姿。もう戦えるような年齢ではないだろう。」


「ヒヨってんじゃねえよ!立派な身体してるくせに。」


 フーウェイはそのまま道場の方へと歩いていき、ウールを手招きする。


 ウールは渋々ついていく。


「じゃあ、私はあなたね。恨みはないけど、私たちのことバレちゃったし、死んでもらうわ、お婆ちゃん。」


 メトロはマリアンヌへ詰め寄る。


 マリアンヌ、ダミアン、フーウェイは、それぞれに低く構えた。





 第63話『美華メイホアの名を継いだ者 ④』に続く。



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