第58話 急襲の病院 ②

 No.4とNo.6が病室前まで辿り着くのに、ものの一分と掛からなかった。


(見回りロボットなし、目撃者なし、監視カメラのハッキング状況問題なし。)


 No.4は確認を取ると、小声で「これより内部で手術を始める。お前はそこで見張っておけ。」と伝え、マスクをつけ始める。


 すると、No.6はいきなりNo.4のお尻をわし掴みにした。


「ッヒ!」


 思わずNo.4は悲鳴をあげる。


 その瞬間、裏拳を放つも、これを躱されて、そして頭を一瞬抱えられて、腹に強烈な膝蹴りを喰らう。


「グ、グハッ!一体何を…」


「いや〜、駄目じゃないですか〜、いつも冷静にって言ってるのに。こんなところでいきなり殴りかかっちゃ〜。」


「ふ、ふざけているのか…このクソ野郎。」


「あ、あれ、もう時間ないですよ、行かなくていいんですか〜?」


 No.6はとぼけた顔をしている。


 眉間に青筋を立てながら、フラフラとした足取りでNo.4は病室に入る。


 すると、マスクをつけたNo.6も病室に入り込んできた。


「おまっ、見張りは!?」


「いらないでしょ。」


 そういうと、No.6は、隣のソファで寝ているフーコの乳をガッと掴んだ。


(クソ!あまり時間もないしな。この落とし前はつけさせてもらうぞ、No.6!)


 No.4は寝入っているマリアンヌの方を向いて、道具の準備を始める。


「ぎゃああぁぁぁ!」


 突然、No.6の叫び声が病室にこだまする。


「バカ!大声を出…」


 No.4が振り向くと、No.6は目から血を流していた。


「え…?」


 フーコは起き上がり、今度はNo.6に金的を喰らわせた。


(何が起こっている!?)


 No.4の全身から汗が噴き出す。


 ッギ


 後ろから微かな音が鳴る。


 振り向くと、マリアンヌが立ち上がっている。


 No.4は次の瞬間に飛んできた蹴りをかろうじてブロックしたが、その勢いで病室の壁まで身体が吹っ飛んだ。


「あらら、私の方は、不意打ち失敗デスね。」


 マリアンヌはベッドから降りる。


(この女、大怪我してるんじゃなかったのか!?どういうことだ!?)


 No.4はブロックした腕に残る感触で、マリアンヌが自分よりも強いことを悟った。


「このクソ女ぁ!ぶっ殺してやる!!」


 No.6がナイフを取り出した。


(だから大声出すなっての!)


 No.4は言いかけたが、それどころではない。目の前にいる女は、まともにやっては勝ち目がない。ましてやフーコまでいるのだ。


「ふ〜ん、金的ガード、いいの使ってるのね。」


 フーコはそう言うと、ソファから枕を取って、まだ目が見えていないNo.6の下半身に軽く投げる。


 当たった瞬間、先ほどの金的への警戒も相待って、No.6は反射的にナイフを下向きに強く振る。


 その瞬間、ガラ空きになった側頭部にフーコのハイキックが決まり、No.6は崩れ落ちた。


「こっちは終わったわよ、マリアンヌ。」


 フーコはNo.6を縛り始める。


「手伝おうか?」


 という問いに、「いえ、大丈夫デスよ。」とマリアンヌは返す。


 No.4はジリジリとマリアンヌに詰め寄られていた。


(昨日の健康診断の時にすでに再生治療を受けていたのか??しかし、なぜ睡眠ガスが効かない?なぜ計画がバレている!?)


 No.4は、壁際まで追い詰められた。


(ま、まだだ…踵に仕込んだ毒針で2人とも…)


 No.4は、当たるか当たらない微妙な距離から前蹴りを放つ。


 前蹴りを当てることが目的ではない。かかとに仕込んだ毒針を当てるのが目的だ。


 当然のごとく後ろに下がるかブロックするか、と思ったが、予想外の動きをする。


 マリアンヌは廻し受けをすると同時に横に飛ぶようなステップを踏んだ。毒針は、マリアンヌの後ろへと飛んでいく。


「なに!?」


 その隙をついて、マリアンヌは距離を詰めて顎を掌底で打ち抜き、No.4の膝がガクンと崩れる。意識がグルグルと回っている中、立ちあがろうにも足がフラついてまともに立てない。そこにマリアンヌが三日月蹴りを肝臓の辺りに決めて、No.4は悶絶した。


「やっぱり、まだ右手は痛くて本気で打てないデスね。」


 マリアンヌは、手をブラブラさせる。


「ま、マリアンヌ…」


 振り向くと、フーコが倒れていた。


「エッ!?」


 どうやら、マリアンヌが避けた先にフーコがいて、毒針を食らってしまったようだ。


「大変!私が避けたからデスね!私、血清持っていマス!ちょっと待っててくだサイ!」


(な、なんでこの女、毒針のことを知っている…?)


 No.4は痛みと朦朧とする意識に耐えながら思考する。


(あの構え…どこかで…まさか!?)


「お、お前…神濤気しんとうき流の生き残りか…」


 血清を探すマリアンヌは、その手を少し止める。


「…あなたにその名を口にされると、反吐が出そうになりマスね…」


「…しかも、わ、私の毒針のカラクリを、し、知っている、ということは…あ、あの時のババアか。ず、随分と、若返ったじゃないか。」


「…そこで大人しくしていてください。なんせ、ようやく引っかかってくれたのデスから。」


 マリアンヌはそういうと血清を見つけて、フーコのところへ駆け寄った。


「…嫌だね。」


 No.4はそういうと、身体から煙がブシューっと出てくる。


「なっ!」


 ものの数秒で、あたりは煙だらけになった。


「ゴホ、ゴホ!」


 マリアンヌはフーコに血清を注射すると、すぐにドアのところで身構えた。


(出ていくならここしかない。あのダメージならすぐには動けないハズ。)


 マリアンヌはこの煙の中でのNo.4の出方を待った。毒針を警戒し、念のため血清を先に注射する。


 しかしNo.4は一向に現れなかった。


 煙が収まると、窓が空いていた。マリアンヌが近づくと、そこからワイヤーが伸びていた。


(…逃げられマシタか。しかし、もう1人の方は…)


「ゴホ、ゴホ、畜生!てめえら、絶対にぶっ殺してやるからな!」


 意識を取り戻したNo.6は、フーコとマリアンヌに連行された。






 第59話『空っぽだから、何でも入る』へと続く

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