第56話 暗殺計画 ②

 ほんの小蝿ていどの音しか鳴らない小型ドローンが、病室のダクトへ侵入する。


 No.4はモニターを見ながら、ダクトに侵入したドローンを操作する。


「ミッション達成には、こういう作業の方が大事なんだ。お前もよく見ておけ。」


 外から病室を観察しているNo.6に語りかける。


「ドローン操作だろ?訓練の時にやっているぞ。」


 No.6は病室から目を離さない。まるで自分が殺そうとしている人間の品定めをしているようだ。


 No.4は、実践で使う場合にはまた違う工夫が必要になり、臨機応変に対応する必要があるぞ、と言いかけたが、無駄なことのように感じ、それ以上は何も言わなかった。


 それに、どこかNo.6は女性を狙う傾向が強く、女であるNo.4も常に警戒していた。そのため、余計な接触は避けていた。


 軽率なところもあるが、近接戦闘能力では彼が上だ。


(まあ、もっとも、暗器を使えば話は別だがな。)


 No.4は袖下と踵に忍ばせた刃物と毒針を軽く確認する。


「おい、病室から出ていくぞ!」


 No.6がそう言うので、No.4もドローン操作を一旦中断し、顔を上げてマリアンヌがいない様子を確認する。


 予めハッキングしておいた病院のコンピューターを通してマリアンヌの予定を確認すると、手術用に身体の健康状態を確認するため、再検査の予定が追加されていた。


 再生手術は3日後と記録されている。


「健康診断だ。特に気にすることはない。」


 No.4は気にも留めずにドローン作業を再開する。


(それにしても、毎晩病院へ寝泊まりするつもりか、あの女は。)


 No.4は、フーコも夜中には帰るだろうと踏んでいた。ところが、前日同様に寝泊まりする予定のようだ。


 しかし、今回の作戦においては全く支障はない。


 病室の中にいるのならば、フーコも睡眠ガスでぐっすりである。眠っている間に事を済ませれば終わりだ。No.6が余計なことをしないかだけが心配である。


 そのNo.6は、今度はフーコのことをずっと眺めているようだった。


 今回のミッションで、ボスはNo.6を試そうとしていることは理解しているが、もし自分がサポートについていなく、単独でミッションをこなそうとしていたら、組織にとって多大な不都合を生んでいただろう。


(まあ、そもそも社会のクズの集まり…)


 No.4は元々はある国の工作員。透明性が高く一枚岩のオムニ・ジェネシスでは需要がないため、羽振りの良い組織に再就職した成れの果てである。


 No.4は、組織のNo.2〜No.7まで会ったことがあるが、皆一癖も二癖もある異常な連中だ。唯一、No.1だけは会ったことがない。


 そもそも誰も会ったことがないらしく、本当は存在しないのではないかとも囁かれていた。


 ドローンを駆使し、睡眠ガス装置の配置を終えると、No.4は立ち上がり、相変わらずフーコをじっと眺めているNo.6に話しかける。


「作業は終了した。後は明日の晩に決行するだけだ。決行は日が回っての02:00を予定。集合は23:00だ。明日の決行時までに休養をとっておけ。私は道具を揃えておく。分かったな。」


「…ああ」


 No.6は相変わらず病室を眺めていて、No.4を見ていない。


「本当にわかっているのか?いいか、くれぐれも妙な気は起こすなよ。」


 No.6はNo.4の方を向いて、舐めるようにNo.4の身体をジロッと凝視し、舌なめずりをする。


 危険な匂いを察したNo.4は身構える。


「クックック、そう構えるなよ。メインディッシュは明日だ。それまでの我慢だ。余計なことなんてしねえよ。」


 と言いながら、No.6はNo.4の身体を相変わらずジロジロと舐めるように見ている。


(ふざけやがって!目ん玉に毒針ブッ刺してやろうか!)


 No.4がNo.6に殺気を向けるとNo.6は手をあげて降参のポーズを取る。


「クックック、怖いね〜。冗談だよ、冗談。あの女見ていたらちょっと疼いちゃっただけだよ。でもあまり俺に殺気を向けてると、その綺麗な身体をバラバラににされちゃうかもよ〜。」


 舐め回すような口調でそう言うと、No.6は振り向いて住処へと戻っていった。


 その後ろ姿を、No.4は目を見開いて凄まじい形相で睨め付けていた。






 第57話『急襲の病院 ①』

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