第55話 暗殺計画 ①
「標的はあの女か。」
No.4がNo.6に小声で語りかける。
この2人は看護婦と看護師になりすまし病院へ潜伏している。
2人は、ダテが出てくる時に開いたドア越しにマリアンヌとフーコの姿を確認した。
「ああ…余計なことを喋る前に殺すだろ。」
「一緒にいる女もやるのか?」
No.4はフーコの姿を見て、一目であの格闘家のフーコであることを見抜いた。
「ああ、こいつもやらなければならないだろう。」
No.6は悪党の目つきを隠しもせずに女たちを睨んだ。
「一緒にいる女もやるとなると、隠蔽は格段に難しくなるぞ。ボスは騒がれるのを最も嫌うからな。」
「殺してからなら、なんとでもなるだろう…」
「…焦って失敗を重ねるな。私たちは暗殺集団と呼ばれてはいるが、ミッション達成が最優先の組織だ。誰でも殺せばいいというものではない。」
No.4が諭すと、No.6はガリガリと爪を噛み始める。
「いいのか、少なくともあのマリアンヌとかいう女は、退院すれば必ずメディアに晒されることになるぞ。余計なことを喋るかもしれん。」
No.4の女は、フーっとため息をつく。
「…こういうのはどうだ。あの女を錯乱させれば、あの女が何を喋ろうと誰も本気にはしないだろう。事故のショック、或いは治療のなんらかの副作用で、精神に異常をきたし、軽い記憶障害に陥った…という筋書きも、悪くはない。」
「…どうするつもりだ?」
「2人が寝ついたところで睡眠ガスを噴射。脳周波砲を照射し、脳内化学物質を異常活性化させ、さらに海馬域に少し焼きを入れて、まともな思考が出来なくなるようにする。数分で終わる施術だ。数週間もすれば治るだろうが、それまではまともな思考ができないであろう。治った時にはこんな事故のことを掘り下げようなんてしないだろう。仮に掘り下げようとしても、記憶が曖昧になっているから、自分の記憶に確信が持てないはずだ。」
「…特に異を唱える理由はないな。じゃあ、今夜にでもやるか。」
「待て!色々と準備が先だ。一緒にいる女も襲うつもりか。彼女のことを知らないのか。格闘王者だぞ。」
(この男、組織には向いていないな…多様な可能性に対する思慮が薄い…なんでこんな奴と組まされるのか…いや、こんな奴だから、私が出張ることになったのか。)
No.4はNo.6が足を引っ張ると確信した。
「準備が順調に整えば、決行は明日の真夜中にでも行う。無臭ガスを用意しておく。お前は待機だ。」
「…わかった。」
No.6は面倒臭そうに答える。
「私らは定期点検にきた看護師と看護婦という程で病室に入る。」
そういうと、前から人が歩いて来たので、No.4はニコニコとしてやり過ごす。
No.6はニヤニヤとしていた。
「クックック…これでやっとあの女をぶっ殺せる。しぶとく生き残りやがって。」
No.6が不用意に殺気を放つ様子を、No.4は冷やかに見ていた。暗殺者は、不用意に殺気を撒き散らすものではない。
「おい、殺人のミッションじゃないぞ!」
No.4が釘を刺す。
「あ、ああ、そうだったな。」
No.6はさほど気にも留めないような答え方をする。
「いいか、言っておくが、今回のターゲットはダーマッサー。そして、お前のミスでターゲットを違えてしまったので、奴のことはしばらくは襲えなくなった。奴の車に乗った恋人が事故に遭い、すぐにその後で死んだら流石に不自然だからな。ボスはお前に尻拭いをするチャンスを与えているんだ。それを忘れるな。熱くなって、ミスをするんじゃないぞ。」
「あ、ああ。当然のことだ。」
No.6はトロンと目を座らせてNo.4の言うことを聞いた。
No.4は嫌な予感がしていた。
この男は組織の新人。近接戦闘能力は申し分ない。しかし、無関係な女子供を巻き込むことような仕事はNo.1〜No.3が基本的に受けないので、汚い仕事を任されるために雇われたようなものだ。
むしろ女や子供といった弱者を喜んで殺すようなサディストである。
No.4は命令とあれば仕方なくなんでもやると決めてはいるが、それでも気が引けるミッションは多少はある。これもその一つである。
No.5のバシリスクはNo.2のウールとNo.3のマニーシャとよくつるんでいるので、今回のミッションからは外された。
(ボス、こいつに単独でミッションを任せてはいけませんよ。)
次回の時にボスに進言しようとNo.4は心に決めた。
題56話『暗殺計画 ②』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます