第54話 ベッドに耳あり部屋角に目あり ②
ビー…音が鳴り、病室の扉が開くと、入ってきたのは、第二区代表ダテ・メンデスであった。
この来訪にはマリアンヌもフーコも度肝を抜かれた。
____この出来事の三十分ほど前……
グラシリアとダテは、フーコとマリアンヌに事の顛末を説明し、用心に当たるように警告することを決めた。
もちろん、これにはグラシリアにもダテにも危険が及ぶ可能性はある。フーコやマリアンヌを通して、こことの繋がりがバレないとも限らない。
しかし、グラシリアももう十分首を突っ込んでいて、それなりの覚悟は決めている。
奴らを追い詰めるならば遅かれ早かれ、仲間を増やし、周囲から追い詰めていくしかなく、隠し立てをするのはどんどん難しくなっていくのは必然だ。
ダテも簡単にイモを引くような男ではない。友が命を張っているのだ。自分だけ安全なところから眺めているのは彼の生き様ではない。
とはいえ、無駄に自分たちのことを
その結果、ダテが直接病室へ向かうという結論に至った。
そもそも、今回の事故はエリア14、第二区の管轄内で起こった出来事。
しかも、マリアンヌは元カオスファイティングアカデミーの講師をやっていた。
第二区代表のダテが見舞いに行くのはむしろ筋とも言える。
ダテはすぐに外出し、オムニ第3病院へと向かう。
病院でマリアンヌへのインタビューの機会を伺っている記者たちがダテの姿を確認してシャッターを切る。
「私はこの区の代表として、謝罪と見舞いに来ているだけだ。事故の被害者と自身を見世物にするためにここに来たわけではない!質問には答えるが、今はお引き取り願うか、ロビーで待っていていただこう!」
このような言い草で、ダテはとりあえずマリアンヌの病室へ向かう者を片っ端から追い返しておいた。
そして単独でマリアンヌのいる病室へと直行する。
___________そして今に至る。
ダテは驚くフーコとマリアンヌを見据えて、単刀直入に切り込んだ。
「本来ターゲットだったのはダーマッサー。それが偶然にもマリアンヌ、君が被害に遭ってしまったというで、気の毒であったな。」
一瞬の沈黙の後、不意にフーコは左手でダテの右襟を掴み引き込み、ダテがフーコの左腕を反射的に掴んだタイミングでステップを踏んで身体を反転させ、右腕をダテの右脇下に滑り込ませ、ガッチリその腕を挟み込んで左腕の引き込みの勢いと共に背負い投げを決める。
エッと言ったのも束の間、ものすごい衝撃が身体を走り抜ける。
「ぐわっ!」
ダテは悶絶する。なんとか受け身は取れたが、下が床なので、衝撃が強すぎて起き上がれない。
フーコからは並ならぬ殺気が放たれていた。
「あなた、マリアンヌをこんな風にした関係者?」
「う、うぐ、ち、違う…」
それをモニター越しに見ていたグラシリアは、うわぁ〜と痛そうな顔をする。
(ダテ、馬鹿なの?いきなり過ぎるでしょ。)
ダテは身体を起こそうとするところをフーコに膝で押さえつけられる。
「ゴホ、ゴホ、俺は、忠告に来ただけだ!君らの仲間なんだよ!」
ダテは全力で否定する。そして、フーコに膝で押さえつけられ腕を極められながら、全てを語り始めた…
(フーコさんのマジギレって、絶対怖いわね…)
グラシリアはその様子を眺めながら、ダテが気の毒になった。
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その頃、学者だらけの第五区の、とある家のとある書斎で、メディアに流れるニュースに視線を向ける目があった。
(…脳周波砲が粗悪品だった、若しくは細工に不備…ターゲットは別人、暗殺は失敗…)
蒸していたパイプをそっと置いて、記事を閉じる。
(現場を確認しないで出て来たのはNo.6の過失…功を焦り自惚れる…しかし、予期せぬ出来事の連続…No.1からNo.3までは、無関係の
男はゆったりと入り口へ向かい歩いていく。
本棚には、哲学、歴史、宗教、政治、科学、など、あらゆる分野の書籍が見られた。
書斎から出ると、メイド服を着た女性が通路の窓を拭いている。
女性は書斎から出てきた男に気がつくと、手を止めて深々と男へ向かってお辞儀をする。
「やあ、今日も外は騒がしいようだよ。」
男は喋りながら、ゆっくりと通路を歩いていく。
「左様で御座いますか。」
メイドはお辞儀をしたまま喋る。
男は立ち止まる。
「しかし、何一つ、意味のあることは無い。虚しきも…哀しきもかな。」
「…ご主人様は、決して満たされぬでありますか。」
「満たされるも、満たされぬも、また無意味…恐らく忘却だけが、私に平穏を与えてくれるでしょう。」
「忘却とは…?」
「『無』への回帰、ではないかと探っています…物理的にではなく精神的に、という解釈ですが…もっとも、この2つも切って斬り離せませんが…」
「…申し訳ありません。私には何のことか、よく分かりません。」
「…それで良いのです。今日の君の仕事は、窓を拭くことなのだから。」
そういうと男はまた歩き始める。
「安寧のために出掛けます。無駄な一日でも、穏やかでなくてはいけません。」
「いってらっしゃいませ」
そう言うと、メイドは窓拭きを再開した。
第55話『暗殺計画 ①』
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