第53話 ベッドに耳あり部屋角に目あり ①

「おいおい、なんかヤバい話をしているぞ。でもこの内容だと、彼女はシロなんじゃないのか。」


 第二区代表のダテ・メンデスは、一緒にマリアンヌのいる病室の盗撮、盗聴の様子を見ていた第一区代表のグラシリアに話しかける。


 病室の監視カメラをハッキングし、さらに盗聴器をベッドに内蔵した。バレれば、さぞかし大きなスキャンダルとなるであろう。


 グラシリアは頭を抱えた。


(絶対にあのせいだ。いきなり殺しにくるなんて、なんてヤバい連中ですの。)


「どうする?マリアンヌに接触を図るか?」


「…考えすぎかもしれませんが、今回彼女は生き残ってしまいました。そのせいで、目をつけられる可能性があります。しかも、さっき病室で話していたようなことを世間に話せば、より精密な検査と大破した車の部品や運転状況や防犯カメラのログ、業者へのより具体的な介入、その他、様々なことが詳しく追及されるでしょう。」


「そうなると、黒血ブラックブラッドとしては、都合が良くないことが出てくる可能性があるな。」


「そしてそう考えるなら、今や、彼女も危険です。ちゃんと話をして、護衛をつけるべきですわ。病院の中だって安全ではありません。」


「で、どうするんだ?彼女に話すのか。」


「…いや、護衛をつけると、今度はこっちがバレる可能性がありますわね。なんの理由もなしに、いきなり彼女に護衛をつけるなんて…殺人未遂をうちらが疑っていることを相手に知られるようなものですわ。それに、護衛だって、民間の業者ですから…」


「___どこにネズミが潜んでいるのかわからない、ということか。どうする?」


 グラシリアがじっと考える素振りを見せると、ハッキングを行っているエンジニアのスタンプが話かけてくる。


「あ、あの~。私、超平和主義者なんで~、そんな危ない連中に目つけられそうになるんだったら、絶対にやりたくないんですけど~。」


 グラシリアはスタンプの方を向く。その目には怒りが見えた。


「あなたの身勝手な行動により、無実な民間人が殺されようとしているのかもしれないのですよ。」


「え?い、いや、待ってくださいよ。わ、私は頼まれたことをやっただけじゃないですか~。」


「ハッキング攻撃を仕掛けろと言った覚えはありません。」


「だ、だって、いけそうな気がしたし、実際できたらめちゃ得でしたよね~。」


「いいえ!安全と人命を優先すべきでした。あなたのしたことは軽率な行動です。」


「いや、だって、どうせ悪者と付き合ってるぐらいだから、悪者でしょう。そういう疑わしいことする奴が悪いっていうか~。」


「スタンプ、それは違います!背景事情も知らないのに、勝手な決めつけであなたは自分を正当化しようとしているだけです。マリアンヌさんはしばらく監視対象となっていましたが、彼女は模範的な人間であります。死んでしまえば、社会にとっては大きな損失と言えるほどの人物です。」


「な、なんすかそれ。私が全部悪いって言うんですか!グラシリア代表の言う通りにやったじゃないですか!私はそもそもこんなこと最初からやりたいなんて一言も言ってないのに!」


「…私に責任がないとは言っていません。だからこうして、彼女が助かるようにどうしようか考えているのではないですか。あなたにも責任があるのだから、それを認めなさい、と私は言っているのです。」


「…はい、分かりました………」


 …ッチ、クソ女


 スタンプは小さな声で舌打ちをしてボヤいた。


「スタンプ」


 グラシリアが威厳に満ちた声で呼びかける。


(ヤベ、声に出ちゃってたか!?)


 スタンプが焦る。


「あなたの能力は、特別なものなのです。私があなたの代わりにできるのであれば、いくらでも変わってあげたいのは山々です。それは、ここにいるダテも、頼めば私に部下にもいくらでもそういう人達がいるでしょう。」


「は、はあ…(よかった、バレてない)」


「あなたに義理や正義のために行動しろとは言いません。ただ、ほんの少しだけでもいいから、自身の取る行動には、必ず誰かの反応が返ってくる。責任を逃れようとする行為には、必ずそれに反発する力が働く、ということを学んで欲しいのです。何が正しい、ということではなく、そういうことが起こるということなのです。」


「は、はあ…」


 スタンプはグラシリアがジロッと睨んでいることに気づく。


「あ、あ、いえ!ハ、ハイ!ワカリマシタ!」


(こんなことでタッくんに会えなかったら最悪だわ。とりまハイハイ言っておけば大丈夫っしょ。)


 その様子を側から見ていたダテも、すでにスタンプの人となりがよく分かっているだけに、「止めておけばいいのに」とグラシリアを諭したい気持ちだった。


 この女には、何を言っても響かないだろう、とダテは考えていた。ならば、利用できる時にとことん利用すればいいではないか。


「それで、結局のところ、どうするんだ?」


 ダテが質問を繰り返す。グラシリアは合わせた両手を口に当てて再度考え始める。


「あ、あの〜」


 スタンプがまた話しかける。グラシリアとダテが振り向く。


「この、マリアンヌさんのお友達って〜、すごくお強いんですよね〜。この人がいれば、もう十分なんじゃないっすか〜?」


 グラシリアは目を見開く。


「そうか!フーコさんとマリアンヌさんは元々お友達!フーコさんの強さは、戦ったことあるからお墨付きよ!格闘技では女子最強、男子相手だって負けない、武術にもある程度精通していて、そこらのSPなんか目じゃないわ!」


 ダテはグラシリアの目論見に勘づく。


「元々よく会っているお友達が、怪我をしているお友達の見舞いでずっと病室にいても、不自然じゃあないな。」


 ダテはニヤリとする。


「引き受けてくれるかは分からないが、とりあえず、接触するのはフーコ、だな。」


 ダテがそういうと、グラシリアは頷く。


「マリアンヌさんも一緒がいいわね。スタンプ!あなた、冴えてるわね!」


「あ、あ、ハイっしょ!」


 スタンプは敬礼のポーズを取る。


(あそこはもう放っておいていいんじゃないっすかって言いたかったんだけど、まあ、結果オーライで〜。)


 ダテもグラシリアも、そんなスタンプの思惑までは見抜けていなかった。







 第54話『ベッドに耳あり部屋角に目あり ②』





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