第52話 狙われたマリアンヌ ③

 目覚めた時は、ベットの上だった。


 目を開くと、フーコが椅子に座って本を読んでいる。


 マリアンヌが寝たままフーコの方を向くと、フーコがそれに気づく。


「マリアンヌ!」


 フーコは起き上がり、マリアンヌと顔が合うと、ベッドの端の取手に頭をつける。


「よ、良かった〜〜…」


 頭を上げたフーコの目は潤んでいた。


「事故に遭ったって聞いて。急いで駆けつけてきたのよ。ずっと目を覚さないから…」


「な、何が起こったのデスか…」


「覚えてないの!?あなた、車で建物に突っ込んで、じゃなくて、建物へ突っ込みそうになって、飛び降りたのよ。」


「い、いや、それは、覚えてイマス。あの車が、おかしくて…」


「そ、そうなのよ!自動制御装置が作動しなかったって言って、もう大問題になってるわ。」


「…?」


「なんか、電波発生装置の違法廃棄のせいで局地的電磁パルスが起こって、ちょうどそこにあなたが運転してて、よく分からないけど、一時的に車が制御不能になるような状態になったって。」


「…そう、でシタか。」


(そんなわけないデスね…あれは、もっと別の何か…)


「今、その違法廃棄をした個人を特定するのと、十分な電磁パルス対策を怠ったっていうことで業者が締め上げられているわ。業者はAIのせいにしてるけどね。」


 マリアンヌは段々と頭がハッキリして来る。どうやらかなり的外れな事になっていることも悟った。


「…状況は、分かりマシた。ところで、ここは何処デスか?」


 マリアンヌがそう聞くや否や、ビーっと音がなり、医師が看護師を引き連れて入ってくる。


「気がついたようですね。」


 医師はマリアンヌのところへ行くと、彼女の目を覗き込み、看護師に点滴やモニタリング機器のチェックをするように言う。


「今回は不運な事故でしたね。右腕の骨折と左脚の裂傷、そして肋にもヒビが入っています。幸い、脳を打ちつけてはいませんでしたので、不幸中の幸いでした。最新の再生治療を受ければ、1週間で治りますよ。どうしますか?」


「…あ、」


「あ、もちろん、全額保険対象になりますので、ご心配なく。あなたは運が良い。最先端の治療はオムニ・ジェネシスでも今までに数人しか受けられていない、貴重な技術ですよ。」


 そもそもこんな大怪我をして病院に運ばれてくること自体が珍しい。


「…エ、エット、じゃあ、お願いしマス。」


「では後ほど、もう少し元気になった後で合意書にサインをお願いします。」


 医者はマリアンヌの決断に満足したようで、ゆっくり休んでくださいと言って病室を後にした。


 最先端の技術はもの凄く高いそうだ。保険会社からふんだんに搾取しようという魂胆であろう。


「フーコさん…」


「ん?何、マリアンヌ?なんか買ってきて欲しい?」


「いえ…」


 マリアンヌは真剣な顔をしてフーコの目をじっと見つめる。


「ダーマッサーさんが、危ないかもしれまセン。」


「___どういうこと…!?」


「あの車の中で、不思議な現象が起こりマシた。すごくハイになって、まるで違法麻薬でも嗅がされたような…でも、誰も騒いでいないということは、そういった類のものは私の身体から見つからなかった、ということデスね。」


「え?え?ちょっと、話が追いつかないんだけど。」


「先ほど、局地的な電磁パルスの話をしていマシタね。じゃあ、なぜアクセルだけは働いて、ブレーキが利かなかったのでしょウ。ハンドルも物理的に壊れていまシタ。」


「な!?そんな、気のせいじゃないの!?」


 マリアンヌは冗談ではないという風に、ゆっくりと首を振った。


「車は大破したと言っていましたが。私の最後の記憶だと、爆発したと思いますが。」


「え、ええ!爆発してなくなちゃったって。」


「強い衝撃で車が爆発する可能性はゼロではないデスが、恐らく証拠隠滅を図ったのではナイかと…」


「な!?誰がそんなことを…」


 マリアンヌは少し考える素振りを見せる。


「本当は、あの車は、ダーマッサーさんが受け取ることになっていマシタ。」


「____ダーマッサーさんが、命を狙われた!?」


 マリアンヌは頷いた。


(それにシテモ、あの衝突必至の状況でのあのガリガリとした音は一体…?)


 マリアンヌ自身、不可思議な出来事を完全に消化できずにいた。






 第53話『ベッドに耳あり部屋角に目あり ①』に続く

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