第50話 狙われたマリアンヌ ①

【AI搭載型 カオスファイター始動!犠牲ゼロでブラックワーム大群を撃破】


 大きな見出しのついたオムニ・ジェネシス新聞『セブンタイムズ』の記事を読みながら、フーコは朝食の卵をぺろりと口に入れた。


(もう本当に人間はいらないのね。)


 牛乳も飲み干し、朝のトレーニングの準備をする。出かける前にアミノ酸を摂取する。


 サプリメントは瞬間的に狙った効果の数値を上げてくれるが、固形物で摂取したものは緩やかに消化され、身体に長く残ってくれる。


 フーコは一日三食、健康的な食事を心がけ、サプリメントはトレーニングの前後のみで摂取する。


 フーコは1日に2回トレーニングをするので、体感的にこれが一番良いと考えていた。


 公園まで歩いて行けば、ちょうど良い食休みだ。


 途中、偶然マリアンヌを見かけた。


「おはよう!マリアンヌ!」


「あ!フーコさん!」


 マリアンヌは笑みを浮かべて手を振る。


 フーコはマリアンヌの隣に来る。


「何してんの?マリアンヌも公園で朝練?」


 マリアンヌはクスクスと笑う。


「違いマスよ。暇ならお付き合いしたいところデスが。今日はダーマッサーさんの車を取りに行くところデス。この区のメンテ業者に頼んだので。今日は私が暇だったので、取りに来まシタ。」


「はは、なるほどね。じゃあ一緒のトレーニングはまたの機会で。それよりも、今日の記事見た?五十万の勢力をたった一万で無傷で撃破だって。」


「ハイ、私も見まシタ。もうカオスファイターは人間要らないですネ。」


「あ〜あ、なんか寂しくなっちゃうわよね。なんか、ドンドンやること無くなっていく感じ。」


「あらフーコさん、でもアナタは、こうして毎日トレーニングをシテ、薬でどうにでもなるのにいつモ健康的な生活を心がけて、羨ましいぐらいに自然体ではないデスか。」


「そぉ〜?羨ましいかな〜?まあ、自然体ってのは当たってるかもね。余計なことごちゃごちゃ考えすぎな人が多すぎだよ、この船は。マリアンヌみたいに、のほほんとしてる人見ると、マジで癒されるわ〜。」


 マリアンヌはニコニコとしている。


「私も、フーコさんみたいに、裏表のない、真っ直ぐで、とっても頼りになって、面白いフーコさんといると、とっても楽しいデスよ。」


「え、褒めすぎだよ〜。」


 フーコは手を激しく振って照れ隠しをする。マリアンヌはまたクスクスと笑う。


 天使のような笑顔を見て、フーコは前々から気になっていることを尋ねようとする。


「あ、あのさ、マリアンヌさ、ダーマッサーさんと付き合ってるわけじゃん。」


「ハイ。」


「ええっと、なんていうかさ、あの人って、ほら、35年前のあの時の事件、のあの時の人じゃない。」


 マリアンヌから笑みが消えた。そして、フーコのことをじっと眺めている。


「いやいや、あの、答えたくなかったらいいんだ。マリアンヌも、分かってて付き合ってるんだよね。ほら、なに?がある人だからさ、マリアンヌのこと心配っていうか。」


 マリアンヌはフーコから目を逸らす。


「いや、ごめん!私がどうこう言うことじゃないよね!マリアンヌが幸せなら、それで良し!」


 勝手に結論づけたフーコをみて、マリアンヌは目を細め、そして軽いため息をつく。


「フーコさん…心配してくれてありがとうございマス。もちろん、35年前のことを、私は知っていマス。でも、あの多数の犠牲が出てしまったあの戦闘、ダーマッサーさんはとても悔いてイマス。どうか、あのことを、あの人の前で話さないでいてくれマスか。」


 フーコは、自分の身勝手な好奇心でマリアンヌを傷つけてしまうことを言ったんじゃないのかと後悔した。


 バツが悪そうにしているフーコを見て、マリアンヌは少し微笑む。


「この船の人間は、考え過ぎる人が多すぎるんじゃなかったデスか。」


 フーコは顔が赤くなった。でも、マリアンヌの機嫌が直ってよかった。


「フーコさんこそ、彼氏とか、いないのデスか。」


「あ、あ〜。そこ、聞いちゃいます?残念ながら、今はおりません!」


「マルクスさんとか、フーコさんのことを慕っていると思いマスが。」


「あ、あ〜、マルクスね。う〜ん。友達としていいんだけど、恋人としては〜、ちょっとぉ〜、無理かな〜。」


(ごめんねマルクス!)


 フーコは頭をボリボリと掻く。


「黒豹さんはどうデスか?」


「へ!?あいつ?なんで?」


「いや、この間、『黒豹さんを慰めよう』みたいな会を開いていたじゃないデスか。てっきりちょっとは…」


「いやいやいやいや、あのね、マリアンヌ。あれはね、で企画したの。完全に放心状態でちょぉぉぉぉぉっとだけ可哀想だったから、私が言い出しっぺだけど、飲み会と称してであの人を慰めようってなったわけなのよ。」


 フーコは急に口数が多くなり、チッチッチ、と人差し指を立てて左右に振り続ける。


「マリアンヌはいなかったのよね…あいつさ〜、皆んなで盛り上げようとしてるのに、ずっと辛気臭いのよ〜。しかも言うに事欠いて、『お前たちに取ってはその程度だったんだな。』とか言って、ホンマに殴ってやろうかと思ったわ。」


「シロウトを殴っちゃ…」


 マリアンヌが何かを言いかけたところ、フーコが続ける。


「いやまあ、私もそこまではニコニコしてたわよ。あ、そうそう!それにね、あの人、ずっと1人で辛気臭く飲んでて酔っ払ったのか、いきなり『科学なんてクソ喰らえだ!』とか言ってテーブル叩くから、ビール瓶が落っこちて割れちゃって。もう、本当にガキよ!ガキ!恥ずかしいったらありゃしない。」


 マリアンヌのニコニコ顔が少し引き攣る。


「そ、それは大変でシタね…」


「そんでもって私たちが店の人に謝って片づけてる最中に、極め付けに、『人生を賭けた男の勝負の世界は女には分からねえのさ』とかいう、化石レベルの発言!もう私も堪忍袋の尾が切れてさ」


 フーコが拳を握り、グイッと前に突き出す。


「あいつの胸ぐら掴んで、『一番女々しいのはお前なんだよ!!このガキ女男!!』て、顔を目一杯に近づけて大声で言ってやったわ!」


 流石のマリアンヌももはや口をポカンと開けていた。


「(ガキオ…な、なんでショウ?)そ、それで…どうなったんですか。」


「ああ、その後はもうショボくれて、隅っこの方で空気になってたわ。」


「な、慰めるための会、だったのデハ…?」


「自業自得よ。」


 フーコは、フン、っという感じで顎を突き出しながら歩く。


(も、もう、カオスファイターNo.1パイロットの威厳もクソもないデスね。)


 マリアンヌは呆気に取られた。


 その後、仲間内で『フーコは怒らせるな』という暗黙の了解があったことを彼女は知らない。


 マリアンヌはフーコと別れてから車を引き取り、運転を始める。


(あれ?なんだか凄く楽しい気分…フーコさんといるのが、そんなに楽しかったのかな…)


 マリアンヌはアクセルを全開に踏み始めた。


 その数分後、車は建物に突っ込んで爆発した。





 第51話『狙われたマリアンヌ ②』に続く。

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