第76話 ハルモニア侵略計画

【項目:カオスファイター(AI搭載型)】


【個数:300000機 – 三十万機】


【備考:重力影響下での戦闘を想定

 排ガス変換機能(GFシステム)追加

 ノズル変換対応噴射口(NCタイプ)】


 カオスファイター生産工場を持つ第一区代表のグラシリアは、最初にこの見積もりを政府から打診された時に、背筋がゾクッとする感覚を覚えたという。


 を想定する…


 すなわち…


 −ハルモニア侵略計画−


 これが、いよいよ実行に移される段階に来たということだ。


 ____________


 この情報は、瞬く間に各区の代表たちと共有されることとなった。各区の代表と綿密な連携をとらなければ、これほどの大規模なプロジェクトは達成不可能である。


 第一区代表のグラシリアはこのプロジェクトを総括的にまとめるコーディネーターの役割を果たすことになる。


 重力影響下での戦闘を想定したカオスファイターAIの存在はすでに聞いている。


 ビリー将軍が開発し、シミュレーションを元に未だに改良を加えているそうで、こちらは「ほぼ完成している」らしい。


 問題となるのは、機体そのものの性能と必要な資材とエネルギーの確保だ。


 先ずはアカデミー色の強い第三区の代表ラッセル・バートランドと話をして、彼の所有する大学の研究室で設計図を作ってもらうことになった。


 製造は第一区で担当するが、第三区との共同開発という形を取る。


 必要な素材や資源に関してはすぐに決定できたので、資源確保に強いアイアン・マインド社を有する第四区代表のコシヌキ・M・バレンタインに打診する。


 彼は政府と連携をとり、小惑星から資源を採取する計画を立て、すぐに実行に移す。


 カオスファイター増産により迷い込んで来る巨万の富に思いを馳せ、終始ニコニコとしていたという。


 素材の生成に使うエネルギーは第五区が提供するので、代表のテイト・プリンと交渉する。


 素材加工などでもエネルギーを使うので、一時的なエネルギーインフレが起こり、テイトは自身の区だけでは賄えないのでエネルギーの買い付けに各区を回り、エネルギーは高額で取引された。


 タイトなスカートと胸を強調するようなワイシャツを着てハイヒールを履き、お供を引き連れて各区をいったり来たりする小柄なテイトの姿がちょくちょく目撃されたという。


 第六区代表のデビンジャ・シレスタは、「どこにそんなお金がある!?」と息巻いていて政府に突っかかっていった。


 しかし、金策のプロである彼女の能力を政府に認めさせる結果となり、逆に政府からの説得を受け、金策を求められ、頭を抱えながらあれこれとアドバイスをするようになった。


 この件に絡めない第二区代表のダテ・メンデスは、終始ムスっとしていたという。


 ___________


 ハルモニア侵略計画に必要なのは、なにもカオスファイターだけではない。


 カオスファイターがゾアン軍を壊滅させた後、オムニ・ジェネシスは宇宙空間で待機し、定期的にシャトルをハルモニアに送り込む。


 最初は無人、そして徐々に人を送り込む予定だ。


 人が生きていくことができる大気条件になっている、と出てはいるが、念のため「ハルモニアスーツ」を開発中である。


 無色透明で肌にピッタリと吸い付く高い柔軟性を誇る『膜型』スーツで、スーツの上からでも服が着れるらしい。


 このスーツは空気をフィルタリングし大気中の毒物を排除できる上、ちょっとした身体を守る防御膜にもなるそうな。


 酸素水を含む液体に浸かり、呼吸をしながら着るので、肺や食道にまでスーツを浸透させることができるという優れものだ。


 そして、地上に降り立った人々が最低限身を守れるように、地上戦用の武器の開発も同時に行われた。


 最初にハルモニアの大地に足を踏み入れる人々の選抜も行われた。


 軍の他には、第二区や第七区の人間が主に志願してきたという。


 ____________


 事はトントン拍子に進む。


 グラシリアに見積書の打診をしてから一カ月もすると、気付けばコズモは多くの熱狂的なサポーターたちの前でスーツを着て、今まさに演説を始めんとしていた。


 今の時代、ブループリントさえあれば、あっという間だな…


 事が決まるまでは、何度もミーティングを重ね、ああでもない、こうでもない、と話し合った。


 ハルモニアの制圧に必要なリソース、そして一般民の安全、着地の際の技術的問題点など、様々な課題を一つ一つクリアにしていき、ついに計画が完成してしまう。


 ゾアンを支配し、人間がハルモニアを管轄する時が来た…


 熱狂的な声援の中、コズモはサッと右手を上げて、皆が静まるのを待つ。


 コズモがマイクの角度を調整すると、「ゴッ」という音が会場に響く。


「人類は…」


 ゆっくりとした出だし。


「…新たな大地へと移住する。」


 ___この瞬間、堰を切ったように歓声が湧き上がり、一瞬で熱狂が会場を埋め尽くす。。。!


 歓声が一つのエナジーとなって、オムニ・ジェネシスを突き破り宇宙空間にまで届いたのではないかと思われるほどだった。


 大熱狂の、絶叫に近い観衆たちに負けじと、コズモは声を張る。


「計画の実行は半年後!オムニ歴105年8月27日とする!」


 ワァァァァァァァァァァァァァ!


 絶叫は鳴り止まない。泣いている者たちもいる。


「人類は、新たなるステージに立つ!ここからが俺たちの『オムニ(全ての)・ジェネシス(始まり)』だ!」


 そう言うと、コズモはマイクを後ろへ放り投げて、熱狂の鳴りやまない会場を後にする。


 もはや用意されたスピーチは無視したアドリブであった。





 第77話『ファースト・コンタクト』に続く

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