第47話 幻聴の謎 ②

 サンティティは仕事終わりで疲れていたのかウトウトしていたが、グレースが部屋に入ると途端に目を覚ます。


「あ、グ、グレース、突然の来訪、ビックリしたよ。どうしたの。」


「ええ、あの、どうっていうか。今日、突然幻聴が聞こえてきて、病気に関係あるのかなと思って。」


「幻聴?一体どんな?」


 サンティティはグレースの心配を読み取り、途端に真剣な表情となる。


 自分で言っておいてなんだが、サンティティ自身も、そんなにすぐに病気が進行するとは思っていなかった。


「なんか、よく分からない言葉で、ゴニャゴニャと喋られている感じ。」


「ゴニャゴニャと…よく分からない言葉?オムニ・ジェネシスは言語統制されているから、別言語が話されていることなんて無いとは思うけど…」


「…どういうわけか、こっちに向かっていったら、段々聞こえなくなったわ。」


「…実際に周りで誰かが喋ってたわけじゃないの?ほら、耳が過敏になっていたとか。」


「いえ、確認したけど、周りでそれらしい人は…ねえ、私の脳を、もう一回検査してくれないかな。」


「それはもちろんだけど、グレース、大丈夫かい?」


 グレースの不安そうな顔を見て、反射的に問う。


「え、ええ、今は…多分。」


「…」


「…」


 お互いの沈黙してしまう。


(まったく俺ってやつは。医者のくせに、もっと気の利くこと言えないものなのか…)


 サンティティは、気まずさから、これ以上余計なことは言うまいと考えた。


 すぐに脳スキャンの準備に取り掛かり、実行する。アシスタントは呼ばずに、全て1人でこなした。


 検査が終わった後、2人はまた同じ部屋に戻る。


「…検査の結果、病気の状態は全く変わっていないかな。幻聴は、病気のせいではないと思う。」


 グレースは、少しホッとした。


 ホッとすると、今度は自分自身に腹が立った。覚悟を決めて精一杯格好つけたつもりが、いざとなるとこんなに情けないのか、と。


「むしろ脳改造が原因の可能性も…いや、それならなんで、今の今まで何もなくて、突然こんな時に…もしかしたら、精神的なストレスが要因かもしれないね…いや、実質のところ、分からないな。念の為、精神安定剤を出しておこうか?」


「いや、遠慮するわ。ありがとう。また何かあったら、来るね。」


「わ、分かった。大して役に立てずに申し訳ない。」


 グレースは病院を後にする。すっかり旅行の計画が崩れてしまった。


(もう!今日はオムニ・ジェネシス老舗の名店「Le Kitaro」でディナーして、5つ星ホテルに泊まる予定だったんでしょ!何ストレス感じているのよ!)


 グレースは、フーっと鼻息を出して、再び「Le Kitaro」を目指しエリア1を目指す。


 ところが、である。第一区に差し掛かったぐらいの時、またしても軽い耳鳴りが始まる。


(また?なんで?)


 エリア6、5、4、3、2、とレストランに近づいていくほど、耳鳴りは少しずつ言葉のように聞こえてくる。


 グレースはまたしても不安になり、電車を変えて、引き返す。


 すると、幻聴は徐々に収まっていく。


 また病院に行こうかと一瞬思ったが、グレースはここで流石に勘づいてくる。


(場所によって、聞こえ方が変わる?)


 一体何が原因なのか、突き止めようと、グレースは再び電車を変えて、エリア1を目指す。明らかにエリア1から聞こえてくるようだ。


 そして、ずっと音を辿っていく。


「Le Kitaro」の予約はキャンセルした。


 どのみち、こんなにボソボソと誰かがずっと喋っているようでは、料理を楽しむどころではない。


 電車はターミナルで止まり、それから無人タクシーに乗る。行き先は、とりあえず音のする方向へ真っしぐら。


 グレースは逐次聞こえ方を確認しながら、方向転換を繰り返し、音のする方へドンドン進んでいった。


(明らかに、声だ!)


 グレースは確信した。


(でも、誰の?)


 聞いたこともない言葉。しかも、テレパシーのように直接頭に響いてくる。


 こっちだ!


 もう道がなかったので、タクシーを降りて料金を支払い、歩いて建物へと入っていく。


 聞き耳を立てながら、こっちだ、こっちだ、と音を追いかけていく。


 突如、グレースは止められた。


「ここから先は、立ち入り禁止区域です。」


「え?」


 立ち入り禁止の看板が見えていないほど夢中になって追っていたらしい。


 周りを見ると、どうやらここは政府管轄の建物だったようで、一般人には入館さえも禁じられていた。


「ご、ごめんなさい。不注意で。」


「不注意って、丸々書いてあったろう。」


「い、いえ、すみません。ちょっとボーッとしていて。」


 警備員らしき人物は呆れたような顔をした。


「では、すぐにご退場願います。」


 グレースはそう言われると建物を出る。


 確かに、入り口の所に立ち入り禁止の看板が立ててあった。


 そしてその横には、[第一入船ホール]と書かれているサインボードが置かれていた。







 第48話『ダーマッサーを追え! ①』に続く。















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