ビート・エモーション 編

第46話 幻聴の謎 ①

 _____________ フ.ジュ*マヌ¡*ⅸx…


「…ん!?」


 ______________ウ$イオパ‘’‘・ウ¡…


「ん?…ん?」


 グレースは聞き耳を立てる。何か聞こえるが、音の元を特定できない。


 キョロキョロと辺りを見渡す。いや、そもそも音というより、少し違うような気もする。なんか、頭に直接響いているような、そんな音だ。


(耳鳴り…かしら?)


 ________________イポ-.ヒム*ツ≒


(何?会話、みたい…?)


 グレースはこの時、休暇を取って旅行に出ていた。病気を知ってから、自分の気持ちを整理するための一人旅の最中だ。


 上司は満面の笑みで送り出してくれた。仕事しかしない私を常々心配してくれていたらしい。


 サンティティには、自分の病気のことは黙秘するとは言ったが、正直迷っていた。


 家族には言うべきだろうか。


 しかしそれをすると、親は色々な医者に見せようと、自分のことをありとあらゆる医療機関へ連れ出すであろう。


 それで治るならいいが、そもそもドクター・サンティティはこの筋では最高の権威を持つ医者らしく、その実力はではNo.1だという噂だ。


 恐らく難しいであろう。


 それに、精密検査を繰り返せば、脳改造のこともバレるのは時間の問題だ。


 そうなると、結局は自分の出生に関わったブローカーを追うことになる。


 それは、ゴーストから聞いた暗殺組織を追うことにもつながる。


 家族をそんな危険に晒すことできるだろうか。


 しかも、これはそのゴーストも、ドクター・サンティティも危険に晒すことになる。


 考え過ぎだろうか…?


 いや、グレースの直感は、騒ぎ立てることは凶と教えている。


 平然を装っていたい、とはいえ、自分の命が風前の灯と知ってから、仕事には一才身が入らなくなった。


 突然仕事を辞めたら、親は問いただしてくるであろうか。


 問われたら、全てを内緒にしておく自信はない。


(はあ〜、私ってば、こんな人だったかしら!)


 グレースがこういう押し問答をずっと続けていた。


 もしかしたらブローカーの残した情報が残っているかもしれないと思い、休暇の初日に実家に帰り、数日の間、親の近辺を探っていたが、何も見つからなかった。


 親自身にも少しカマをかけてみたが、完全に何も知らないシロであろう。検事として磨いたスキルは、こんなところで役に立った。


 その後、オムニ・ジェネシス全土を見て回りたいと伝え、運転手のヴァレリーも連れず、一人旅に出た。


 久しぶりの、何も考えないで済む、のんびりとした旅。病気のことが頭から離れはしなかったが、楽しい旅路であった。


 良い人が見つかれば、フラッと一晩誘い出すのもいいかもしれないかな?未経験だけど、優しそうな人がいれば…


 そんなことも考えていた矢先、少しずつ耳鳴りは強くなり始めていた。


(幻聴?嘘…もしかして病気が進行しているの?もう!?)


 グレースは、途端に塞ぎ込んだ気持ちになった。


(誰にも看取られずに死ぬなんて、嫌!)


 イェ*ギギ¡モソ‘ヌシ…


 幻聴はさらにハッキリしてくる。グレースは怖くなり、乗っていた電車を降りて、反対方向へと進む。


 行き先はオムニ第8病院、ドクター・サンティティの下である。


 病院へ向かうと、幻聴は段々とおさまってきた。そして、病院に着く頃には、すっかりと無くなっていた。


 いつの間にか、グレースは病院の前に来ていた。ここまでどんな感じで辿り着いたのか、あまり記憶にない。いつの間にか泣いていたようで渇いた涙が白い素肌を少し張らせていた。


 目が腫れていないかを確認して、病院へ入る。


(まいったな…気持ちの整理なんて、全然つかないじゃない。)


 受付はそんなグレースの様子はお構いなしに、明るい声で語りかける。


「こんにちは!グレースさん、今日は来診の日ではなかったのでは?」


 一体どうして受付がグレースの来診の日を知っているのか分からないが、ヤケに声が明るかった。


「ええっと、ちょっと、気になることがありまして。ドクター・サンティティは、いらっしゃいますか。」


 受付はニヤリとする。


「ええ、もちろんですわ!今ちょうど外来の予定が全て終わったところです。タイミングはピッタリ、でしたよ。今繋ぎますね。」


 受付は、ニヤニヤとしてグレースをジロジロと見ている。


 何か勘違いされているのだろうか?いや、絶対そうであろう。


「それでは、2階のルーム264へ向かってください。プライベートな部屋ですので、誰も入っては来ませんよ。ごゆっくり…」


 むむむむ??なんか、すごいすごい勘違いをされている気がするぞ。なんだこの受付。


「あ、ありがとうございます。」


 一言だけ言ってお辞儀をして、グレースはサンティティへ会いに行った。


(うわ、余計に誤解を生むような反応しちゃったわ。)


 どこかこう思いつつも、どこか少し気が紛れて落ち着きを取り戻した気がした。


(ドクター・サンティティも隅に置けないわねえ。あんなに美男子でステータスも高いのに、女気一つないからホモセクシャルかと思っていたわ。それにグレースさん、あの有名人よね。もう、近くで見るとマジ天使!)


 受付は鼻息を荒くしながら興味津々な様子で、去っていくグレースの後ろ姿を眺めていた。






 第47話 『幻聴の謎 ②』に続く

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