第37話 ゾアンとは!? ②

 ブラックワームとゾアンの生態分析は日中夜通して行われた。


 最初に解けた謎は、ブラックワームの移動方法である。


 皮膚下に分厚い粘膜による気泡ができるメカニズムがあり、これが勢いよく弾けて気孔を抜けて推進力を産む。


 まだハッキリと分かってはいないが、この気泡が宇宙線などから身を守る役割も果たしているのではないのかとも仮定された。


 皮膚自体も硬い上に弾力もあり、宇宙船の素材を思わせた。


「体内にガスを発生させる器官が見受けられました。筋肉の動きと連動してガスを生じさせることができて、これが比較的自由に宇宙空間を動けるメカニズムを産んでいたようです。」


 ムニエルの助手のベルは短い報告を済ませると、一心不乱に資料に目を通しているドクタームニエルの返事を待たずに踵を返した。


「うむ、うむ、素晴らしい。なんと奇怪な、なんと不可解な、うむ、うむ。」


 なぜ酸素や大気を必要としない?


 極限環境で生きる生物はいるにはいるが、そういう連中は得てしてエネルギー源を別で確保しているものだ。


 皮膚構造は光を逃さないようにできている。宇宙線などがエネルギー源ということなのか?


 そして、あのハルモニアの環境で、自然にこんなに頑丈でしなやかな硬い皮膚ができるものなのか?


 どうやってあんなに強い勢いで石を吐き出す?


 なぜ宇宙空間で生きられる?そのような生物はミクロの生物しかいないではないか?


 まて、それ以上に、地球では、自ら宇宙空間へと出向く生物などいないではないか?なんのために?


 そもそも、なぜゾアンが中に乗り込めるのだ?


 アリをゾンビに変えてその行動を操ったというタイワンアリタケという菌のことが思い出されるが、似たようなものであろうか。


 ブラックワームが生物のように見えるのは表向きで、実は機械なのではないのかとも仮定されたが、どう見ても生物であることに間違いはなさそうであった。


 結局のところ、分析は一部で謎を深めるのみとなってしまった。


 ただ一つ、光を反射しない暗黒シート構成の皮膚は、光エネルギーの全てを吸収することができるのではとして、太陽光エネルギーパネルの改良に利用できるのではないのかと期待された。


 そして一方、ゾアンである。


 身長こそ人間とそれほど変わらないが、その身体能力とバネ、筋力は人間の比にならなかった。


 空を飛び、空中を自在に飛び回り、槍を投げて戦うことなどはいくら飛べても生身の人間の身体では不可能である。


 遠距離からのスキャンで多少のことは分かっている。


 筋組織の密度が人間とは段違いであり、それを支える頑丈な骨も相まって、どの個体も人間で言えば60キロほどだと思わせる体格でも、体重は150キロは超えていた。


「これが全身に及ぶわけですから、とてつもない力を生むことができます。人間と同サイズぐらいの太さなのに、握力だけでもゴリラ並みです。脳と思われる器官の配置は人間と似ています。やはり、目など、重要器官に近い場所に脳がないと都合が悪いのでしょう。消化器官も人に似ているとは思いましたが、胃袋が複数あり、食べる物によってどこに行くのかが仕分けられるようです。どうやって仕分けているのかは、まだまだ研究の余地がありまして…」


 コズモへの報告でさえ、時間が惜しいというようなドクターの様子であった。


「あいわかった。しかし、一番重要な報告を聞きたいものだな。」


「…はい。意思疎通の方法は、謎のままです。」


「巨大建造物を作れるほどの者たちだ。お互いのコミュニケーションが取れない訳がない…」


 と言ってはみたものの、獣のようなゾアンの様子を見て、いささか不安になっていた。


 本当に、思っているような文明を持つ生物ではないのか?


 ドクタームニエルは、学者や識者やVIPを集めた集会でこのような発言をしている。


「一つ言えることは、これらの生物を我々の常識で捉えてはいけないということです。我々の科学技術をもってすれば、いずれは少しづつ解明されていくことでありましょう。文明レベルが劣るゾアンがなぜああも容易く宇宙を行き来できているのかも実に興味深い。これら全ては、人類を新たなステージへと引き上げるきっかけをもたらしてくれるのではと考えずにはいられません。」


 その目は好奇心を通り越してもはや狂気を帯びていた。





 第38話『悔いなく歩んで行く』 に続く

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