第35話 ブラックワーム殲滅大戦 ②
前線のカオスファイターは既にオムニ・ジェネシスから離れ、ブラックワームに感知されないギリギリの距離で待機していた。
今回の作戦で先陣を切るのはスクランブル戦闘が得意なアカデミー出身者たちである。頃合いをみて本陣であるマルクスや黒豹たちが出陣する手筈だ。
「前衛部隊、出撃!」
ビリー将軍の檄が飛ぶ。
囮用と撹乱用のカオスファイターLE型、CE型が先に出て、続いて戦闘用のFP型、そして少し遅れて『ライフ』回収班のSL型が出る。
補給ユニット「キャピン」は敵へと突っ込まず、広く展開する。
「前衛部隊、出撃しました。LE型、CE型、接敵まで15分!」
ティアナは戦局の全体像を最も早く掌握できる立場にいるため、今回の作戦では別の意味でキーパーソンであった。
大規模な作戦において、情報は急流の川の如く流れてくる。いかに必要な情報を選別し、迅速に共有し、的確な指示の元に行動することが勝敗を分ける鍵となる。
ティアナが戦局に集中している間、オムニ・ジェネシス周辺の環境に気を配るのはサブオペレーターのミミの仕事となっていた。
シフト交代関係なく、みんなが出払っている状態である。
「前衛部隊、接敵します!」
早くも第一陣の戦闘が邂逅する。
ブラックワームたちが、何かしらフォーメーションを展開するような動きを見せる。
しかし、性能の上がったカオスファイターはそれを許さない。
フォーメーションが何かしらの形となる前にブラックワームを撃破する。
「早い!素晴らしいぞ!」
ヒュンサブ副将軍が大きな声を上げる。
前衛のカオスファイターは、そのまま破竹の勢いで次々とブラックワームを撃ち砕き、戦闘型カオスファイターの数はこの時点ではたったの八千機であったにも関わらず、ものの五分で十万匹を仕留めた。
急襲を受け、早々に布陣が崩れたブラックワームたちは、カオスファイターの軍勢を挟み込もうと展開し、回り込もうとする。
しかし、ここに一万機ほどの本命部隊が到着し、回り込もうとするブラックワームたちを殲滅させていく。
完全にバラけてしまったブラックワームたちは、もはや相手にならなかった。
これにより、戦闘開始から三十分も経たない内にライフを警備していたブラックワーム百万匹のほとんどが壊滅した。
カオスファイターの犠牲は二百機ほどで、破壊された機の操縦者はアカデミーでは初級レベルのファイターたちであった。
ブラックワームがいなくなったこの隙をついて、回収用カオスファイターSL型が次々と『ライフ』を回収していく。
「ブラボー!予測を上回る成果だ!」
ビリー将軍は回線を開き、ファイターたちを褒め称えた。
「ハルモニア方向から援軍が来ます。数は多数完全に把握できていませんが・・・その規模から三千万匹以上かと思われます!」
ティアナから情報が共有される。
「思ったよりも早かったな。敵もこの二年間で不測の事態には備えていた、ということか。しかし、三千万匹か…この軍ならあるいは。」
ビリー将軍はコズモに進言し、このまま戦いを続行し、『ライフ』を回収し続けることを提案し、コズモもそれを承諾する。
囮用と撹乱用のLE型とCE型が、付かず離れずの距離からこのブラックワームの大群を挑発する。
ブラックワームに煙幕が効くのかわからなかったが、方向感覚を失っているようなのでどうやら有効であるということがわかった。
カオスファイターは煙幕対応フィルターにより、煙幕の影響は全く受けないという状態だったので、圧倒的な虐殺となる。
そして、ブラックワーム群の先頭集団は囮ユニットに引っかかり、誘導され、分断されられた。そこを前衛部隊が突っ込み、数万単位でブラックワームを殲滅させる。
前回の反省を活かし、囲まれたり、特攻をさせない戦術である。
ブラックワームは統制を失い、逃げ回ったりヤケクソになって突っ込んできたりするので格好の的となった。
「おい、キャピンをこっちへ送ってくれ!」
戦場のあちこちで補給要請が来る。休みなしに攻撃しているのでカオスファイターのエネルギー残量も減りも早かった。
十時間もすると、どちらに軍杯が上がっているのかは明らかであった。
オムニ・ジェネシスのスペース軍は、実に千機ほどの犠牲で三千万匹を打ち破ったのだ。
また援軍が現れる。今度は一千万ほどで、先ほどよりは少ない。
援軍にも限度があると判断された。
しかし、ブラックワームの戦術は全く違ったものとなった。
自爆である。
とにかく、自爆するブラックワームを多くのブラックワームで守り、カオスファイターにくっつき自爆するという手であった。
単純な戦法であるが、なかなか効果があり、カオスファイター側での犠牲も増え始めてきた。
「頃合いか・・・」
ビリー将軍がそう呟やく。
十二時間以上も戦い、パイロットの体力も限界である。
さらには補給にも限度が来ているため、軍を引き上げることにした。手に入れた『ライフ』もカオスファイター補給用のエネルギーに回すのには時間がかかる。
すでに『ライフ』は五千は手にいれたであろう。
もし『ライフ』に期限のようなものがなければ、数百年、いや、一千年も持つのではないかと思われた。
ビリー将軍は撤退を命じる。
こうして、かつてない規模で行われたライフ回収作戦は大成功を収めた。新しい体制は、前回とは比べ物にならないほど軍の戦闘力を高めていた。
ただ、人類にとってありがたくないことに、さらに多くのブラックワームが近辺の宇宙を彷徨うようになった。
ゾアン文明の全てがブラックワームの製造に尽力しているように思われた。
大戦の終了後、オムニ・ジェネシスには巨大な影が数体運び込まれていた。
ブラックワームの亡骸である。
ブラックワームの生態を調べるために比較的綺麗に残っている死骸を拾って来いというコズモの命令だ。
回収されたブラックワームたちは地面に並べられた。
その様子は、あたかも魚市場のようであった。
まもなく、大きなメスを手にしたロボットアームが近づいてくる。
「サンプル番号1A、これより、解剖を開始します。」
モニターを見ながら、解剖医はブラックワームにメスを入れる。
とはいえ、手振れや余計な部分を切らないようにと勝手に修正がかかるので、誰にでもできることだ。サンプルを傷つけず、ミスも出ない有効な手段である。
ブラックワームの攻殻のような外皮の隙間を縫うようにメスが入り、ブラックワームは綺麗に割れる。
やはり、生物に似せた機械ではなく、生物そのものであったようだ。
肉が分厚かったが、内臓を傷つけたくないので、できるだけ慎重に少しずつ切っていった。
モニターを見ていた解剖医の表情が、最初は少し不思議がっている感じだったのが、だんだんと目を見張るようになった。
少しずつ、中身が露わになってきて初めて気づいた。
「せ、船長・・・な、中に、ゾアンがいます。」
第36話『ゾアンとは!? ①』に続く
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