第34話 ブラックワーム殲滅大戦 ①
前回のライフ回収作戦から実に2年数か月もの月日が流れた。
オムニ・ジェネシスはかつてないほどの軍事力強化により、人々の暮らしは大きく変化した。
それまでの大多数の住民の暮らしぶりと言えば、節電のため無駄な外出もしなければ、極力消費活動を抑え、代わりに無料コンテンツを貪り、僅かな労働の対価は専ら課金と食事に費やされた。
それが、人類のためとあらばと、多くの者がパイロットへ志願し、宇宙戦闘プログラムの見直しが行われ、哲学的議論が盛んになった。
細かいところでは、ライフエネルギーの研究、ゾアン研究、ハルミニア環境学、新たな生活に順応するためのライフコーチ、或いはこれら一連のことに不安を抱える人々の精神的ケアまで、様々なことが発展していった。
オムニ・ジェネシスが宇宙に出て以来、コールドスリープ装置の製造以外でこれほどまでに生産性の高い活動が行われたことはなかったとも言える。
カオスファイター10万機は晴れて納入され、多くのパイロットが育成された。
ダテ・メンデス率いるCFA(カオスファイティングアカデミー)の軍人たちも大いな戦力と期待されている。
アカデミー首席のオットーと次席のカシスは、もはや黒豹やマリアンヌやマルクスと肩を並べるほどの実力者に成長している。
神経系ドラッグを吸引してハイになりながら、毎日12時間以上もシュミレーションに没頭した彼らは、人生の全てをカオスファイターの操縦に捧げていた。
ビリー将軍と専門家たちも対ブラックワーム集団戦の研究に余念がなかった。チーム編成や対ブラックワーム戦略などもより複雑化した。
作戦開始前には、専門家たちのこんな会話も聞こえてきた。
「もはや、戦闘カオスファイターで特攻をかけ、闇雲に突っ込んで強行突破を図り、あわよくばライフを奪ってくる、なんていう戦術は、知能の低い野蛮人のやることにしか見えませんな。」
「まったくもって、その通りですよ、はっはっは。」
今や、カオスファイターも役割分担の時代となり、補給ユニットも増産された。
__攻撃力に長けた火力重視の戦闘用カオスファイター:
「カオスファイターFP型」
__軽量化し機動力に優れたライフ回収用カオスファイター:
「カオスファイターSL型」
__強化コーティングされた頑丈な囮用のカオスファイター:
「カオスファイターLE型」
__煙幕を搭載した撹乱用カオスファイター:
「カオスファイターCE型」
__艦と戦場の間を行ったり来たりする補給ユニット:
「キャピン」
え、なにこのふざけた名前?とヒュンサブ将軍が問うと、発明家の博士の本名だったらしく、渋々これを認める。
磐石の編制である。
とはいえ、流石に船長のコズモでも一定の興奮を抑えられなかったのか、作戦直前まで何時間も立ちっぱなしであれこれと最終確認の指示を出す。
「いよいよですね、船長。」
ステラがコズモの隣に立つ。
「ああ、いよいよだな。」
「少し、ナーバスですか。」
「ああ、今回の戦闘には特別な意味がある。自ずと力も入ってしまうものさ。」
コズモはそう言いながら、腕を組んで仁王立ちをしている。
今回の戦闘は、言わばオムニ・ジェネシス、いや、人類の本気なのだ。
ブラックワームたちはこの二年の間にせっせと『ライフ』を掻き集め、一箇所にまとめて、それを多くのブラックワームで守るという体制をとっているようだ。
そもそも遠くにあったであろう『ライフ』を集めて来てくれているのはありがたい。何ヶ月もかけて宇宙空間を往復しなくても一回の戦闘で多くの『ライフ』を獲得できるチャンスだ。
すでに数千もの『ライフ』が集まっているようだ。『ライフ』を利用したエネルギー供給の術も研究され、これならば、数百年、いや、千年以上だってもたせられるかもしれない。
さらに、気になることに、ブラックワームたちは一部の『ライフ』をハルモニアへと運んでいたようだった。
(やはり、奴らにとっても重要なものなのだろうか。)
コズモは考えた。
『ライフ』を守っている軍勢は、現在のところ百万程度というデータが出ている。シミュレーション上では、問題にならない数のはずだ。
原子爆弾で敵軍勢を一気に吹き飛ばしてしまおう、という案も出たが、『ライフ』を消滅させてしまう可能性がある上、『ライフ』の放射能汚染が懸念されすぐに白紙となった。
「舐められたものだ。先の戦闘の戦力がこちらの全てだと思ったか?どうやら2年間での戦力補充は我々の方が圧倒的であったようだな。」
とりあえずはビリー将軍は、三万機のカオスファイターで百万の軍勢を相手に様子を見ることにした。
第35話 『ブラックワーム殲滅大戦 ②』へ続く
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